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文部科学省 平成29年度 私立大学研究ブランディング事業に「これからの科学技術者倫理研究」が選定。2年連続「タイプA」選定は金沢工業大学のみ

金沢工業大学が申請した「これからの科学技術者倫理研究 ~社会が必要とする課題への取り組み~」が、文部科学省が進める平成29年度「私立大学研究ブランディング事業」に選定されました。事業期間は平成29年度から33年度までの5年間です。


私立大学研究ブランディング事業は、学長のリーダーシップの下で、大学の特色ある研究を基軸に、全学的な独自色を大きく打ち出す取組を行う私立大学に文部科学省が重点的に支援を行う事業です。平成29年度は188校の申請があり、60校が選定されました。金沢工業大学が申請したタイプAは「地域の経済・社会、雇用、文化の発展や特定の分野の発展・深化に寄与する研究」を対象とするもので、123校の申請に対して選定されたのは33校でした。

なお金沢工業大学は平成28年度もタイプAで「ICT・IoT・AIの先端技術を活用した地方創生」が選定されています。タイプAでの2年連続選定は金沢工業大学だけでした。


ここがポイント

高度科学技術社会においては、科学技術者の判断や行動は社会に多大な影響を与えます。「高邁な人間形成」「深遠な技術革新」「雄大な産学協同」を建学綱領に掲げる金沢工業大学は、早くからそのような認識を持ち、科学技術者倫理教育を積極的に進めてきました。初年次から関係科目ないしは倫理的に関連した要素を専門科目等に織り込む「マイクロインサーション」を組織的に導入している高等教育機関は、国内外でも金沢工業大学だけです。



選定された「これからの科学技術者倫理研究 ~社会が必要とする課題への取り組み~」について


「これからの科学技術者倫理研究」イメージ図


金沢工業大学では、1990年代中頃から、チームで問題発見・解決に取組むプロジェクトデザイン教育を進めてきました。さらに、金沢工業大学科学技術応用倫理研究所を1997年に開設し、国内における科学技術者倫理に関する教育・研究を先導するとともに、倫理的に適切に判断し行動する能力を有する科学技術者の育成に資する科学技術者教育プログラムの拡充に力を入れてきました。


しかしながら、昨今の社会情勢を考えると、以下の4つ課題にあらたに対応していくことが必要となってきました。

■社会のグローバル化に伴って企業の開発・生産拠点の海外展開が進んだことで、価値観や社会における科学技術者の役割や意思決定のあり方が、国や文化圏によって異なることへの理解不足が深刻な問題を引き起すようになっているが、このことを十分に踏まえる必要があること。

■企業において経営側の倫理的認識不足が現場技術者の倫理判断を鈍らせ、結果として社会問題となる様な事例が散見されるが、このことは科学技術者倫理教育に経営倫理の観点を組み込む必要性を示していること。

■これまで、金沢工業大学では教育の主柱であるPBL型教育プログラム「プロジェクトデザイン」など専門としての工学教育と科学技術者倫理教育の融合が図られてきたが、近年注目を集めている「デザイン思考」にも拡げ継続して研究に取り組む必要があること。

■AIやビッグデータ活用、自動運転技術、バイオテクノロジーなど、科学技術に関する多くの分野でイノベーションが相次ぐ今日においてこそ、科学技術者が科学技術の源流・本質を理解していることが、新たに誕生する科学技術がもたらす可能性のある倫理的課題を予見、理解し判断するうえで求められること。


本事業では、これらの課題に対応するため、科学技術者倫理に関連する以下の4つの研究課題を掲げ、金沢工業大学科学技術応用倫理研究所が中心となって学内外と連携して研究を進めます。

(1)グローバル社会における科学技術者倫理に関する研究
(2)経営倫理と技術者倫理の統合に関する研究
(3)工学教育での科学技術者倫理教育に関する研究
(4)科学史・技術史に基づく科学技術者倫理教育に関する研究



(1)グローバル社会における科学技術者倫理に関する研究について
本領域では、1)各国の工科系学生の価値観や倫理的意思決定に見られる共通点・相違点の明確化と、「アジア的」「イスラム的」な社会的文脈の中で技術者が倫理的に適切に行動する上で考慮すべき価値観の分析。2)上述の諸点を効果的に教授することを可能とする技術者倫理教材パッケージの開発。3)カリキュラム全体を通して行う科学技術者倫理教育の深化、に関する研究を、実践面に重点を置いて実施し、海外向け科学技術者倫理教材の開発・提供を行います。

金沢工業大学の教育カリキュラムを導入している海外提携校での活用や、海外での研究・開発・製造を行う企業での人材教育への活用などが期待されます。


越日工業大学(ベトナム)の教員を対象としたプロジェクトデザイン教育研修会。金沢工業大学は越日工業大学にカリキュラムを輸出している



(2)経営倫理と技術者倫理の統合に関する研究について
技術者倫理にとって、経営倫理は車の両輪です。技術者の多くは組織のプロフェッショナルメンバーとして能力を発揮しています。しかし、データの改ざん事例などに見られるように、技術者と経営者の双方が異なる価値観を持つ状況下では、技術者の倫理は、経営者の倫理によって抑圧され、誤った方向性へ進むことになります このような事態を回避する為には、経営者と技術者が同じ価値観を共有できる組織風土を経営者、技術者双方の協働によって涵養する必要があります。

当研究ではこれまでの研究成果をベースに、その涵養の為、企業との研究会を立ち上げ、北陸地域経済界においてその具現化・実際化をめざします。



(3)工学教育での科学技術者倫理教育に関する研究について
金沢工業大学ではプロジェクトデザインなど専門としての工学教育と科学技術者倫理教育の融合が従来から図られてきました。たとえば、専門科目にほんの少し倫理的要素を取り入れること(マイクロインサーション)によって、カリキュラム全体で倫理教育を実践できます。当研究ではこうした倫理教育を有効に実行するための方法やその効果の測定方法について継続的に検討していきます。

また、近年、プロジェクトデザインと関連して「デザイン思考」が注目を集めています。ユーザーを中心としたデザイン思考は、公衆(ユーザー)の安全・健康・福利を優先して考える科学技術者倫理と類似性を見出すこともでき、デザイン思考という点から科学技術者倫理をとらえなおし、その思考を工学教育に導入することを検討します。


2年次後学期「プロジェクトデザイン実践」



(4)科学史・技術史に基づく科学技術者倫理教育に関する研究について
科学技術者倫理の不正問題の多くは、そもそも科学や技術とは何か、そこでは何が重視されるべきか、といった専門職としての科学技術に対する本質的理解の不足が大きな原因となっています。金沢工業大学が所蔵するアーカイブコレクション「工学の曙文庫」には、科学技術史上重要となる原典初版本が集められており、建築アーカイブス研究所には、近代建築に関するアーカイブ資料が保管されています。これら資料から科学技術の本質を理解し、歴史的倫理観の変遷を学ぶ事は、科学技術者として必要な事だと考えています。

研究成果は、特定分野での研究成果の学会発表や書籍化を行うとともに、金沢工業大学のアーカイブ資料から学べる科学技術者倫理に関する教材とSTEM教材の開発を進めます。

 

例えば今年7月に扇が丘キャンパスで開設されたChallenge Labにて「工学の曙文庫」と「建築アーカイブス」を活用した新たな教育モデルの構築を行います。 各学部学科の専門分野に通じる科学的進歩を「工学の曙文庫」所蔵書籍の内容から学ぶ教材を開発します。

また、学生に倫理的思考を持たせるための手法として、光造形機(3Dプリンター)を用いた教育手法に関する研究を行います。科学史上有名な実験装置等(失敗例も含む)を学生の手で作成・検討させ、書面からでは学べない技術的深淵を学ぶ中から、倫理的思考を意識・理解させる手法について、その可能性を探ります。

(STEM:Science, Technology, Engineering and Mathematicsを統合的に学ぶ教育)


ガリレオ・ガリレイ 『プトレマイオス及びコペルニクスの世界二大体系についての対話』フィレンツェ,1632年,初版,金沢工業大学所蔵


 

科学技術倫理は昨今、社会的にも関心が高まっています。金沢工業大学では上述した「これからの科学技術者倫理研究」を「高校」「地域」「海外」「企業」といった幅広いステークホルダーと共に進め、教材やノウハウなどの研究成果を共有することで、実学的教育・研究と社会貢献を進める理工系大学としてのブランドイメージの確立を目指してまいります。



【関連サイト】
文部科学省平成28年度「私立大学研究ブランディング事業」選定
「ICT・IoT・AIの先端技術を活用した地方創生」
http://www.kanazawa-it.ac.jp/brand/

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