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【研究最前線】
再生可能エネルギーのベストミックスを探り、エネルギーの「地産地消」を実現する。 電気電子工学科 泉井良夫教授

「世界にはまだ無電化地域がたくさん残されています。そうした地域こそ、地産地消のエネルギーシステムが有効です」



多様な再生可能エネルギーの
ベストミックスを探る

地産地消のエネルギーシステムが
地方創生にもつながる


日本は現在、多様なエネルギー問題を抱えている。東日本大震災の後、数多くの原子力発電所が停止しているため、化石エネルギーに依存せざるをえないが、化石エネルギーには地球温暖化を進行させるCO2を大量に放出するという問題がある。再生可能エネルギーは急速に進展しているが、安定供給できる状況にはない。2018年9月には、震度7の地震の後、北海道全域で停電(ブラックアウト)が起こり、電力レジリエンス(復元力)の課題も浮き彫りになった。


これらの課題を劇的に改善する「エネルギーマネジメントプロジェクト」に取り組んでいるのが、金沢工業大学工学部電気電子工学科の泉井良夫教授(専門:エネルギーマネジメント、電力システム)だ。


「理想は再生可能エネルギーへの転換ですが、膨大な電力を消費する都市主体で考えると困難です。しかし、集落が分散している地方なら、再生可能エネルギーとの相性がいいのです。地域で発電して使用する『地産地消』を実現すれば、遠方から送電する必要がなくなり、ブラックアウトの不安が軽減されます。ただし、代表的な再生可能エネルギーの太陽光や風力だけでは、天候に左右され、安定性が懸念されます。そこで、私が構想しているのは、太陽光、風力、地熱、バイオマス、小水力などを最適に組み合わせてエネルギーを創り(ベストミックス)、蓄電池や電動車(EV)を活用して配り、貯めることによって、出力の安定化を図る方法です」


このモデルの構築は、地方創生にもつながると、泉井教授は語る。

「例えばバイオマス発電では、近隣の森林の間伐材を使用します。それをチップに加工したり、燃やした後の残灰を肥料やセメントに混ぜて活用したりと、新たな産業を生み出すことができます」


エネルギーマネジメントプロジェクトの概要


学生が居住して実証実験を行うコテージの屋根に設けられた太陽光パネル 


バイオマス発電装置。地元産の木材チップを燃やして発電



北陸から日本全体へ、さらには
世界の無電化地域への展開も

学生がコテージで発電量などを
監視する実証実験がスタート

 

 環境にやさしい再生可能エネルギーの組み合わせで、エネルギーを地産地消できるようになる上に、それが地方創生にも結びつくとは、夢のある研究である。しかし、実現までにはクリアしなければならないことがある。

 

「エネルギーは社会インフラの根幹ですから、社会に実装した後で、うまくいかなかったというのでは大問題になります。実証実験が不可欠になるのです」


そこで強みを発揮するのが、金沢工業大学白山麓キャンパスの研究環境だ。同キャンパスでは、社会実装を目指して、植物工場、遠隔医療、自動運転など、多様な実証実験が進められているのである。


泉井教授の「エネルギーマネジメントプロジェクト」では、白山麓キャンパス内のコテージに、太陽光発電パネル、バイオマス発電、EV用の双方向高速充電器などを設置(将来的には小型風力発電も導入予定)。一定期間、研究室の学生が生活し、それぞれの発電量や、使用電力量などを、コテージの一室に設けられた監視制御画面でチェックしている。この監視は、学生が居住していないときも続けられる。人が住んでいると、日によって使用状況が変化してしまう。同一条件のもとで調べることも重要になるからである。また、4棟のコテージがあるため、複数のコテージで熱と電気をシェアする実験も実施されている。そのほか、EVは、扇が丘キャンパスとの移動の際に、いわば動くバッテリーとして使用されており、どうすればより多くの電力を移すことができるか、データの収集・分析が重ねられている。


「コテージの後は、ビル(公民館)レベルで実証実験を行う予定です。地域特性を考慮したエネルギーシステムのモデルを構築し、まずは北陸地方へ、さらに日本全体へ展開していくことが目標です。世界にはまだ無電化地域がたくさん残されています。そうした地域こそ、地産地消のエネルギーシステムが有効であり、世界的な展開も視野に入れています」


泉井教授の研究は、グローバルな広がりを見せていきそうである。



実証実験の拠点となっている金沢工業大学白山麓キャンパス KITイノベーションバブ


*当記事は「研究」で選ぶ理工系大学進学情報誌『F-Lab.(エフラボ) 2020 世界を変える、大学の研究』(発行 allow corporation)より許諾を得て転載したものです。



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