2026年9月14日から20日まで、ベルギー王国ゲント市で「金沢・ゲント国際建築ワークショップ2026(Ghent-Kanazawa International Architecture Workshop 2026)」が開催され、金沢工業大学から大学院生10名(建築学専攻)が参加しました。金沢美術工芸大学の学生4名、ゲント側のKU Leuven、HOGENTの学生・卒業生18名とともに、計32名が「出会いのエコロジー(Ecologies of Encounter)」をテーマに活動しました。自転車で街を巡るフィールドワークを皮切りに、そこで得た発見を模型や実寸のプロトタイプによる提案へと発展させ、さらに実際の都市空間を舞台とした実践的な試みにも取り組みながら、最終発表まで7日間にわたって活動しました。

今回のワークショップは、金沢市とゲント市の姉妹都市提携55周年、そして日本・ベルギー友好160周年という節目の年に開催されました。金沢工業大学建築学部と金沢美術工芸大学が協力し、本学からは建築デザイン学科の竹内申一教授、勝原基貴講師の両教員が学生を引率しました。
ベルギーは、イギリスに続いてヨーロッパ大陸でいち早く産業革命が起こった国です。繊維産業で発展したゲントには、中世からの町並みに、工場や運河、鉄道など産業化の痕跡と、その後の都市の拡張が幾重にも重なっています。歴史を今に伝える空間と、時代に合わせて用途を変えた建築が共存する街の姿は、歴史的伝統と現代の暮らしの関係を考える金沢にも通じます。両都市の成り立ちの違いを踏まえながら、受け継いだ空間をこれからどのように活かしていくかという共通の問いに向き合いました。

2日目にはゲント市庁舎を訪問し、ゲント市長のマティアス・デ・クラーク(Mathias De Clercq)氏から歓迎の挨拶をいただきました。デ・クラーク市長からは、金沢がゲント市唯一の姉妹都市であることや、両都市が多くの大学や学生を抱える学都であることなどが紹介されました。
「出会い」というテーマは、人と人との交流に限らず、歴史と現在、人と自然、建築と都市空間のあいだに生まれるさまざまな関係性を捉えるものです。参加者全員にレンタル自転車が用意され、初日から金沢側とゲント側の学生がほぼ半数ずつとなる7つのグループに分かれ、街を巡りながらフィールドワークを行いました。
地域の交流拠点や建築事務所、緑地などを訪ね、歴史的建造物の保存・再生だけでなく、地域の人びとが関わりながら、場を共に使い続けていくためのさまざまな仕組みに触れました。初日は、市民コモンズの試みが行われている交流拠点「De Koer」や、移動生活者施設「Doortrekkersterrein」を踏査。2日目に昼食をとった「Balenmagazijn」は、かつての綿花倉庫を転用したソーシャル・レストランでした。3日目に訪れた「De Felix」では、旧行政施設が再編され、警察、芸術・文化、学校、多世代交流など、異なる活動が一つの場所に共存していました。5日目に訪れた「BROEI」も、若者たちが試し、つくり、地域との関係を育んでいく活動拠点でした。
既存の建築ストックや都市空間がどのように使い継がれているのか。また、都市が多様な人びとを受け入れながら、新たなコミュニティのあり方をどのように模索しているのか。街を自転車で巡りながら、地域の人びとが共有し、関わりながら育てていく空間や場所―ゲントにおける「地域コモンズ」の一端を体感しました。


4日目には、郊外の自然保護区「Bourgoyen-Ossemeersen」を訪れました。湿地帯には、柳や葦、枯木、蛇行していた川の痕跡、水を制御してきた水車塔など、水と都市の関係を物語る風景が広がっていました。かつて川を直線化し、自然を制御してきた都市が、気候変動への対応を背景に、土地を川に返して水を蓄え、自然を都市のなかに再び受け入れようとしている場所でもあります。建築だけでなく、川や緑地、生態環境まで含めて都市を捉えることで、「出会い」というテーマを人と自然の関係へと広げて考える機会となりました。


制作と議論の拠点となったのは、LeiekaaiにあるMMLabです。かつて自動車ディーラーとして使われていた建物を引き継いだ、いわば「居抜き」の校舎で、足場材を活用したカフェスペースのほか、レーザーカッター、溶接機器など本格的な工作機械も豊富に備えられています。工作をする、机を囲んで議論する、講義を聞く、ひと息つく。その時々の活動を柔軟に受け止めてくれる、魅力的な空間でした。また、Hoogstraatにある講義棟は、かつて修道院だった建物。こうした大学施設そのものも、都市に残る既存建築を新たな用途へと転用したものです。
毎日の終わりには、レビューが行われました。初日には、各自が街の第一印象を3枚のスケッチにまとめ、短い発表を通して共有しました。活動拠点の中央には大きな地図が設置され、同じ街を歩いて得たそれぞれの気づきを書き込みながら、次の調査や提案へとつなげていきました。

活動は、都市全体、地区、街路、身体に近い小さな空間という、XLからSまでの4つのスケールを扱う7つのトラックに分かれて進められました。英語での対話に加え、地図、スケッチ、写真、模型などを用いて考えを共有し、調査、制作、発表を重ねながら、それぞれの視点を深めていきました。



期間中には、現地で活動する建築家や団体による講演も行われました。実際に見学した「De Felix」の設計を手がけたATAMAの建築家・ブラム・アールツ(Bram Aerts)氏からは、高層建築を含む既存建築の転用事例についてのレクチャー。ヤン・デ・ヴィルダー(Jan de Vylder)氏とKana Arioka(有岡果奈)氏による講義では、身近なものへの観察から出発し、既成概念にとらわれずに建築や空間のあり方を問い直す思考に触れました。
さらに、Herbronnen/Ressources、Lieve Zusjes Stoere Broers(LZSB)、Pioniersplantersによるレクチャーでは、実験的な都市への小さな働きかけから、思いがけない出会いや関係が生まれていく過程が紹介されました。身近な場所で何かを試し、そこに人が関わることで、場所の使われ方が少しずつ変わっていく。都市を変えるきっかけは、必ずしも大きな計画から始まるとは限らないことを学びました。

こうした視点は、ワークショップで扱う提案の幅にもつながっていきました。都市全体の歴史や緑のつながりを考える一方で、椅子や窓、声を伝える道具のような小さな要素から、人と場所の関係を問い直す提案もありました。
7つのトラックからは、それぞれ異なる視点によって、さまざまな都市の可能性が提示されました。
都市全体を扱うXL「No side, no sight」は、自転車での調査をもとに、旧市壁と緑・水の軸が交わる場所に着目しました。木製の柱による「門」を複数の場所に設け、人と自然を迎える通過点やランドマークとなる都市のサインとするほか、ベンチによってかつての境界を可視化し、人びとの出会いを促す場を提案しました。かつての境界を、都市を隔てるものから、人や自然を迎える場所として捉え直しました。
L1「GREEN LINK」は、点在する緑地と、その間をつなぐ街路に着目しました。現地での調査を通して、植物を増やすだけでなく、葉の音や香り、触れたときの感覚など、五感を通して自然を感じられる街路のあり方を提案しました。離れて存在する緑地を、人の体験を介してつなぐ新たな「緑の軸」を描きました。
L2「Birdhaven」は、橋の下の空間と鳥の営巣に注目。三角形の部材を組み合わせた鳥のすみかと、人が休みながら観察できる場所を模型で示しました。人以外の生き物も含めて都市の居場所を考えた提案となりました。

M1「SHELTER BOX」では、「何から守られたいか」「どのような場所で過ごしたいか」が人によって異なることから検討を始め、日陰や静けさ、休息などを一つの固定した形にまとめず、箱や板、布などを組み替えて使う道具一式の試作品へと展開しました。
M2「ENGAWA, ONDERWEG」は、通行者の様子や人が滞在する場所を調査しました。座れる場所や空間の開放感を比較し、駐輪設備にテーブルを加えること、車止めを座席にすること、布で光や空間を調整することを提案しました。日本の縁側を手掛かりに、駐車区画を、道の途中で少し休める中間的な場所へと読み替えました。
さらにS1「FRAMING ENCOUNTER」は、住宅の窓辺に置かれた私物や、街路に持ち出された椅子など、人の暮らしが公共空間ににじみ出す場面に着目しました。障子からも着想を得ながら、窓枠と椅子を組み合わせた実寸の装置を制作し、実際に街へ持ち出しました。装置を置くことで、人びとが立ち止まったり、覗き込んだり、会話を始めたりする様子を観察し、小さな装置が新たな出会いを生み出す可能性を探りました。

S2「TUBE」は、移動できる道具そのものを「出会いの機会を運ぶもの」と捉え、離れた場所にいる人どうしの声を伝える長い赤い管状の装置を実際に制作し、街なかや水辺で試しました。糸電話のように離れた人の声をつなぎ、岸辺と船のあいだなどで試す様子も記録しました。
都市の仕組みやつながりを描く提案から、都市の人びとの振る舞いや反応を確かめる実践まで、スケールごとに幅広いアプローチが示されました。
最終日は、かつての電気・ガス・水道局(EGW-Gebouw)の広報空間「Vitrine」へ会場を移して展示を設営し、ゲント市の都市計画家ピーター・ヴァンデン・アベーレ(Peter Vanden Abeele)氏と、Archipelのポール・ヘンドリクセ(Paul Hendrikse)氏を迎えて、各トラックの最終成果発表・講評を行いました。地図や模型、制作物を並べ、各トラックが調査と提案を説明しました。中心市街地のガラス張りの会場に、それぞれのスケールで取り組んだ「出会い」の姿が集まりました。

学生たちの交流は、制作の場を越えて日々の暮らしにも広がりました。日本からの参加学生はホームステイで滞在し、現地の建築家や都市計画家を含む受け入れ家庭で、ゲントでの暮らしを体験しました。また、期間中は毎日、全員で食卓を囲む機会が設けられ、制作以外の時間も含めて交流を深めました。

ワークショップと現地での生活を含む10日間は、大変充実したものとなりました。学生たちにとっても、建築や都市についての新たな視点を得るだけでなく、異なる文化や価値観に触れ、それぞれに多くの学びや経験をゲントから持ち帰る機会となりました。
本ワークショップの成果は、ゲント市では10月6日までの展示が予定され、11月にはその一部を金沢市でも展示する予定です。
今回生まれたつながりを大切にしながら、建築と都市を通じた金沢とゲントの交流を今後も育んでいきます。

参加学生:
XL「No side, no sight」
- 村上直暉(KIT)
- 角屋圭祐(KIT)
- Kaat Bossuyt
- Miel Bisschop
L1「GREEN LINK」
- 佐藤千優(KIT)
- 稲葉悠翔(KIT)
- Olivier Martynek
- Josefien De Wispelaere
- Lilly Geens
L2「Birdhaven」
- 本多生(KIT)
- 西田有希(KCA)
- Camille Van de Catsye
- Igna Breugelmans
M1「SHELTER BOX」
- 古川佳乃(KIT)
- 荒木姫花(KIT)
- Daniel lorant Cserhati
- Lucija Krnic
- Baki Ali Koçak
M2「ENGAWA, ONDERWEG」
- 久保村友晴(KIT)
- 川口真弥(KCA)
- Megan Elizabeth Doty
- Céline de Fauconval
S1「FRAMING ENCOUNTER」
- 粟本穂香(KIT)
- 山根里利佳(KCA)
- Annelies Uhle
- Elien Veestraeten
- Deirdre Decoster
S2「TUBE」
- 栢森美羽(KIT)
- 山田陽菜(KCA)
- Eduarda Silva
- Hanga Nadai
- Kaj Zwerver
指導教員:
(ゲント)
Kana Arioka (KU Leuven / Uhasselt)
Sara Caruso (KU Leuven / La Cambre)
Wim Goes (KU Leuven)
Martha Meijer (Archipel)
Hera Van Sande (Archipel / KU Leuven)
Leila Zahedi (Archipel Maalstroom / KU Leuven)
(金沢)
竹内申一 (KIT / 金沢工業大学)
勝原基貴 (KIT / 金沢工業大学)
西本耕喜 (KCA / 金沢美術工芸大学)
清水啓太郎 (KCA / 金沢美術工芸大学)
[ 当国際建築ワークショップの模様は動画でもご覧いただけます ]
ワークショップ・ダイジェスト動画(4分42秒)/撮影・編集・楽曲制作:清水啓太郎(金沢美術工芸大学)
(関連ページ)
金沢工業大学研究室ガイド 建築学部 建築デザイン学科 竹内申一 研究室
金沢工業大学研究室ガイド 建築学部 建築デザイン学科 勝原基貴 研究室
金沢工業大学建築学部 建築デザイン学科
金沢工業大学建築学部 建築学科