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環境・応用化学科 露本教授の共著論文がSpringer Natureの『Journal of Solution Chemistry』に掲載。
難燃剤や中性子吸収剤などの産業用途での実用化に期待
金沢工業大学バイオ・化学部 環境・応用化学科 露本 伊佐男教授と府和 竜之介さん(金沢工業大大学院工学研究科バイオ・化学専攻博士前期課程 2024年修了、現在、小松マテーレ株式会社勤務)との共著論文「Methylammonium Borate and Its Highly Concentrated Aqueous Solutions」(ホウ酸メチルアンモニウムとその高濃度水溶液)がSpringer Natureの『Journal of Solution Chemistry』(Published: 30 September 2025)に掲載されました。
露本教授は、ホウ酸、ホウ砂を高濃度に含有した水溶液を簡便な方法で製造する技術で特許を取得し、木材を容易に不燃化することを可能にしました。これにより製品化された不燃木材は、不特定多数の人が利用する駅や空港、バスターミナル、地下街、公立美術館、保育所、福祉施設等で使われています。またこのことが評価され、露本教授は2023年には中部地方発明表彰 発明奨励賞を受賞しています。
このたび『Journal of Solution Chemistry』に掲載された共著論文は、ホウ酸塩水溶液よりも大幅に高濃度を可能にするもので、難燃剤や中性子吸収剤などの産業用途での実用化に期待されています。
(論文の概要)
本研究では、メチルアミンとホウ酸を混合することで、室温で安定な高濃度ホウ酸水溶液の調製に成功した。特に、B/Nモル比1.55でホウ素濃度33.4 mol/kgという非常に高い飽和濃度が得られた。これは従来のホウ酸塩水溶液よりも大幅に高濃度であり、難燃剤や中性子吸収剤などの産業用途に有望である。
さらに、B/N比5.0で乾燥すると、化学式が CH3NH3B5O8⋅6H2O と推定される新しいホウ酸メチルアンモニウム塩が析出し、115°Cで乾燥するとCH3NH3B5O8⋅2H2O に変化することが確認された。X線回折法(XRD)やDTA-TG分析※により、温度による構造変化や水分・メチルアミンの揮発挙動が明らかになった。
ラマンスペクトルの解析からは、溶液中のホウ酸イオン構造が濃度に応じて変化し、ポリホウ酸イオン(B3O3(OH)4⁻など)の形成が溶解度向上に寄与していることが示された。メチルアミンはホウ酸の可溶化剤として機能し、イオン構造の変化を通じて高濃度化を可能にしている。
この成果は、他の難溶性塩の水溶化にも応用可能であり、可溶化剤の設計が今後の水溶液プロセス開発において重要となる。
※DTA-TG分析
ひとつの試料で、示差熱分析(DTA:Differential Thermal Analysis)と熱重量測定(TG:Thermogravimetry)を同時に行う分析法
【掲載論文名】
Methylammonium Borate and Its Highly Concentrated Aqueous Solutions
『Journal of Solution Chemistry』(Published: 30 September 2025)
著者 Isao Tsuyumoto & Ryunosuke Fuwa
DOI https://doi.org/10.1007/s10953-025-01512-w
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