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大学院情報工学専攻2年 村田智哉さんが筆頭執筆者の研究論文が国際的な査読付きオープンアクセスジャーナル『Sensors』 に採録

2026/1/18 NEW

金沢工業大学 情報工学科 河並崇研究室に所属する大学院生 村田智哉さん(大学院工学研究科情報工学専攻博士前期課程2年)が筆頭著者として執筆した研究論文 “An ns-3 Evaluation Framework for Receiver-Initiated MAC Protocols with Configurable Enhancement Modules Across Various Network Scenarios” (受信機主導型 MAC プロトコルの実環境指向シミュレーション統合評価と改善手法の検討)が、国際ジャーナル 『Sensors』(MDPI, IF 3.5)の特集号”Advances in Communication Protocols for Wireless Sensor Networks”に採録されました。

『Sensors』は、センサーの科学技術に関する国際的な査読付きオープンアクセスジャーナルです。

研究の背景

IoT や社会インフラ監視に用いられる 無線センサーネットワーク(WSN) では、センサーノードが小型電池で長期間動作する必要があります。

そのため通信の電力消費を大幅に削減する通信方式として、受信機主導型 MAC プロトコル(Receiver-Initiated MAC)が研究されています。

受信機主導型MACは、

・センサーノードが常に電波を監視する必要がない

・小型・低精度クロックの安価なセンサーでも安定通信が可能

・IoT デバイスに適した省電力設計が可能

といった利点を持つ一方で、

・「通信方式の特性により、通信の衝突や負荷の偏りが生じやすい」

・「パラメータ設定や動作環境によって性能が大きく変化し,適切な調整が難しい」

など、実用化に向けた課題も多く残されています。

研究の目的

村田さんは、受信機主導型 MAC プロトコルの代表である IEEE 802.15.4e RIT方式 を対象に、「実環境に近い条件のもとで、複数の改善手法を公平に比較できる評価基盤を作る」という目的のもと、世界的ネットワークシミュレータ ns-3 上にRIT準拠MACの新規実装 と 改善機構の統合評価プラットフォーム を構築しました。

この実装は再現性の高いコードとして公開されており、国内外の研究者が利用可能な基盤となります。

研究内容のポイント

① RIT準拠MACをns-3へ新規実装 

論文では、RITの基盤である

・ビーコン送信

・データ受信待機

・送信機への応答タイミング管理

・タイムアウト処理

などを忠実に再現し、動作遷移を明確化しました。


② 複数の改善機構を“モジュール化”して比較可能に

従来研究で提案されてきた競合回避・省電力化の手法を選択式で実装。

・CSMA/CA:一般的なキャリアセンス方式

・ Pre-CS:フレーム送信直前の最小限CCAのみ行う軽量方式

・ ビーコン間隔ランダム化

・ ビーコンACK:送信意図を伝える簡易ACKで省電力化

・ ビーコンフレームの最小化

といった改善機構を、同じ条件下で統一的に比較できるフレームワークを実現しました。


③ 実運用を想定した複数のネットワークシナリオを設計

・端配置(親ノードがネットワーク端に位置し負荷が集中)

・中央配置(親ノードが中央に位置する高干渉環境)

・ センサデータ:定期送信/ランダム送信

・クロックドリフト ±250 ppm(安価センサを模擬)

など、実世界に近い条件で評価を行いました。

主な研究成果(論文で明らかになった知見)

ビーコン間隔ランダム化(BR)は軽負荷環境では逆効果となる場合がある
従来「衝突回避に有効」とされてきた BR が、低負荷・多段中継の環境では PDR(Packet Delivery Ratio)を低下させる ことを発見。従来の評価では十分に捉えられていなかった特性を明らかにしました。

CSMA/CA はほぼすべてのシナリオで安定して効果を発揮
送信者同士の競合回避に有効で、多くの条件で PDR を向上。受信機主導型MACの弱点である「送信者競合」に 対して、安定して効果を示す手法であることを確認しました。 

ビーコンACKは省電力には効果大だが、密集環境ではPDR低下を招く
起床時間が6〜11%低下 → 電力消費を削減、一方で高密度環境では通信衝突が増えPDRが低下というトレードオフを定量的に示しました。

構成要素の組み合わせによって性能が大きく変動することを体系的に整理
従来は“どの改善手法が有効か”を個別研究で議論していたところ、本研究では 同一条件下で公平に比較することに成功しました。


【論文情報】

[論文名]
An ns-3 Evaluation Framework for Receiver-Initiated MAC Protocols with Configurable Enhancement Modules Across Various Network Scenarios
(受信機主導型 MAC プロトコルの実環境指向シミュレーション統合評価と改善手法の検討)

[執筆者]
村田智哉 金沢工業大学大学院工学研究科情報工学専攻博士前期課程2年
坂本真仁 金沢工業大学情報理工学部 知能情報システム学科 講師
河並崇 金沢工業大学情報理工学部 情報工学科 教授

[Journal名]
『Sensors』 26(1):164 (2026) https://doi.org/10.3390/s26010164


【国際ジャーナル 『Sensors』について】

Sensors(ISSN 1424-8220)はIoT、無線通信、センサネットワーク、省電力通信技術、スマートシティ、環境計測などを中心に扱う国際オープンアクセスジャーナルで、世界中の研究機関・企業の研究者に広く参照されています。本論文は同誌の "Advances in Communication Protocols for Wireless Sensor Networks"特集号に掲載されました。

情報工学科 河並 崇 教授のコメント

受信機主導型MACは次世代の省電力 IoT の基盤技術です。本研究は、従来断片的だった改良手法を公正に比較できるうえ、実用環境を意識した評価を行った点に大きな意義があります。また、GitHubにてソースコードも公開しており、同様の研究開発を行う上でのプラットフォームを提供したことも大きな貢献です。国際誌に採択されたことは本学の研究水準を示す成果であり、今後の発展が楽しみです。


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