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【研修レポート】
静岡県立藤枝東高等学校 教員研修「生成AIと教育の未来」
― 金沢工業大学 平本督太郎教授による講演と実践演習 ―

2025年7月10日、静岡県立藤枝東高等学校にて、教職員を対象とした研修「生成AIと教育の未来」が開催されました。本研修では、金沢工業大学 情報デザイン学部 経営情報学科/SDGs推進センター所長の平本督太郎教授が講師となり、前半は生成AIに関する講演、後半は生成AIの活用を体験する実践演習という二部構成で実施されました。

■ 前半:教育の情報化と生成AIの意義

冒頭、平本教授より、教育現場における情報化の進展と生成AIの登場がもたらす変化について、国際的な動向を交えながら講演が行われました。そもそも探究学習とは何のために行われるのか、社会で価値を生み出すとはどういうことか、探究学習や価値創出に生成AIやクラウドツールがどう関わってくるのか、それらを紐解いていくことが教育の在り方そのものを問い直す契機となっていることが強調されました。

また、生成AIの基本的な仕組みについても解説があり、AIは人間のように意味を理解しているわけではなく、膨大な言語データをもとに確率的に次の語を予測して文章を生成していること、そして「もっともらしい誤情報(ハルシネーション)」を提示する可能性があることに注意が促されました。

この点に関連し、平本教授は「吟味する力」の重要性を強調。生成AIの出力をそのまま受け入れるのではなく、教員や生徒がその内容を批判的に検討し、必要に応じて修正・補足する姿勢が求められると述べました。これはOECDが提唱する「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマに対処する力」「責任ある行動をとる力」といった教育目標にも通じており、ユネスコが示す「人間中心のマインドセット」の考え方とも一致しています。

さらに、AIが出力した情報に対して必ず人間が意思決定を行うという「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human in the Loop)」の概念にも触れ、教育現場においてもAIに任せきりにするのではなく、教員や生徒が情報を吟味・選択・活用することで、AIを「道具」として使いこなす力が育まれると説明されました。特に、生徒がAIの提案をそのまま提出するのではなく、自ら選び、編集し、意味づけを行うプロセスこそが、主体的な学びにつながると強調されました。

また、探究学習において生徒たちが自分たちの提案の価値を高めていくためにも生成AIが有効に活用できる例も示されました。たとえば、「静岡県に住む40歳の製造業勤務の既婚男性の一日のスケジュールや困りごとを教えてください」といった具体的な条件を設定することで、リアルな人物像を描き出し、課題のリアリティを高めることができることが示されました。 さらに、「上記の男性が抱える課題を解決して幸せになっていく様子を、小説形式で描写してください」と指示し、課題解決のストーリーを生成することにより、課題解決のイメージを高められることが紹介されました。

●生徒は生成AIを活用してコミュニケーション力の向上に期待できる!

生成AIの活用傾向については、40代以上の世代が検索の代替手段として利用する一方、若年層は生成 AIを対話相手として捉え、相談やアイデア出しに積極的に活用している現状が紹介され、対話相手として捉えることの方が望ましいことが示されました。そして、生成AIの機能を充分に発揮するには、目的や条件を明確に伝える適切なプロンプト(指示)を出すスキルが必要であることが指摘されました。そして、そのスキルを磨くことは、生徒たちにとっては、社会で求められる「指示力」や「伝える力」、すなわちコミュニケーション能力の育成にもつながると説明されました。

●教員こそ生成AIをパートナーに働き方改革!

教員自身が生成AIを活用することで、指導方法や教材設計の幅が広がるという点にも話が及びました。たとえば、歴史が苦手な生徒に対しては、興味を引くライトノベル形式の教材を生成AIで作成することで、生徒の興味・関心に寄り添った指導が可能になります。また、英単語の暗記をクイズ形式で学ぶアプリを即座に作成するなど、個別最適化された教材の開発も容易になると既に起こっている教育改革の兆しが紹介されました。
これまで時間や技術の制約で困難だった教材開発が、生成AIの活用により手軽に実現できるので、教員の業務負担が軽減され、生徒と向き合う時間の確保にもつながると説明されました。

■ 後半:生成AIの実践と探究学習への応用

後半は、Chromebookを用いた生成AIの実践演習が行われました。参加者はChatGPTを活用し、Googleが提唱するプロンプティングフレームワークを活用した生成AIとの対話を行うことで、生成AIによる出力結果がどのように変わるのかを体験しました。

具体的には、演習において、「探究活動のテーマ設定」や「授業構成案の作成」などを題材に、実際に2種類のプロンプトを入力し、生成AIの出力の質がどのように変化するかを検証しました。

また、プロンプトそのものを改善するために、「これまでのやり取りを踏まえて、同様のアウトプットを得るには、今後どのようなプロンプトを入力すればよいですか?」とAIそのものにプロンプトの打ち方を尋ねることで、プロンプトを改善することや、出力の再現性を高められるメタプロンプティングという手法も共有されました。

■ 教育現場への示唆

研修終了後、参加者から以下のような感想が寄せられました。

・生成AIは、生徒の主体的な学びを支援する“伴走者”として活用できる可能性があることが理解できた。

・AIに依存するのではなく、人間が主導して活用する姿勢が重要であると再認識した。AIの出力を吟味し、選択し、活用する力を育てることが、これからの教育に求められていることが理解できた。

本研修を通じて、生成AIを単なるツールとしてではなく、教育の質を高めるためのパートナーとして捉える視点が共有され、今後の教育実践に向けた多くの示唆が得られました。

(関連ページ)

【藤高ニュース】生成AIの教育活用に関する教員研修(静岡県立藤枝東高等学校)

金沢工業大学研究室ガイド 情報デザイン学部 経営情報学科 平本督太郎研究室

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