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完全ワイヤレス社会の実現に向けて、ミリ波の通信装置にワイヤレス電力伝送の機能を実装した システムの開発と実験に成功 ~ミリ波の周波数帯域を、通信とワイヤレス電力伝送に利用することで、 基地局や周波数の有効利用と新たな産業の発展に貢献~

ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)、国立大学法人京都大学(以下「京都大学」)および学校法人金沢工業大学(以下「金沢工業大学」)は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、エヌアイシーティー)の「Beyond 5G研究開発促進事業」に係る令和3年度新規委託研究の公募(第1回)で採択された、「完全ワイヤレス社会実現を目指したワイヤレス電力伝送の高周波化および通信との融合技術」(一般課題 採択番号02401)に関する共同研究※を進めており、このたびミリ波の通信装置にワイヤレス電力伝送の機能を実装したシステムの開発と実験に成功しましたのでお知らせします。

Society 5.0やWeb3.0などの社会の到来によって、物理空間と仮想空間の相互連携が進むことで、これまで以上に膨大な数のIoTデバイスやセンサーなどが存在する世界になることが予測されています。近年、5G(第5世代移動通信システム)の整備によって、膨大な通信トラフィックを処理できるネットワークインフラが構築されていますが、IoTデバイスやセンサーのバッテリー交換や給電方法が課題になっています。バッテリー交換のコスト削減や給電方法の簡略化を実現するには、給電のワイヤレス化が重要なテーマですが、無線局の大部分が6GHz以下の周波数帯に集中しており、他の通信システムとの干渉を抑えるために、ワイヤレス電力伝送の出力電力や送電装置の設置場所などは大きく制限を受ける可能性があります。

ソフトバンク、京都大学および金沢工業大学は、このような背景を踏まえて、周波数のひっ迫が少ないミリ波通信帯域でのワイヤレス電力伝送の実現を目指し、ミリ波の通信装置にワイヤレス電力伝送の機能を実装したシステムを開発しました。このシステムは、ミリ波の通信とワイヤレス電力伝送が同一のアンテナを共用し、アンテナのビームフォーミング機能を活用することで、ミリ波の周波数帯域を通信とワイヤレス電力伝送で時間と空間ごとに使い分けができるようにしたものです。このシステムから、金沢工業大学が開発した世界最高レベルの受電効率を持つ受電レクテナ(電波を電気エネルギーに変換する機能を搭載したアンテナ)へ送電する実験を実施し、電気エネルギーが取得できたことを確認しました。これにより、通信の需要が少ない時間帯に通信基地局のリソースをワイヤレス電力伝送に割り当てることで、基地局や周波数を有効利用することができます。また、通信エリア内のIoTデバイスやセンサーへの無線給電が可能になることで、新たな産業の開拓や発展の可能性が広がります。

ソフトバンク、京都大学および金沢工業大学は、今後、より高効率かつ簡易な送電アンテナのシステムの構築や、受電レクテナの多素子化による受電性能の向上、屋外フィールド試験などによる技術の有効性や商用利用の可能性の実証など、研究開発を進めていきます。

※詳細はこちら(https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2021/20211112_01/)をご覧ください。

■実験の風景

ミリ波の通信装置にワイヤレス電力伝送の機能を実装したシステムの開発と
実験の研究成果について

■研究成果のポイント

・ミリ波の通信と同一の周波数帯域でワイヤレス電力伝送(Wireless Power Transfer、以下「WPT」)を実現。通信とWPTを時分割多重し、アンテナビームフォーミングを活用して、通信とWPTの時空間分離システムの実証に成功

・金沢工業大学が開発した世界最高レベルの高効率受電レクテナへの送電実験に成功

■背景

2035年にはIoTデバイスの数が1兆個を超えるといわれており、今後のエレクトロニクス・情報分野の中核をなす産業になることが予測されています。しかし、電力利用の観点では、1兆個のIoTデバイスの充電を賄うインフラの構築ができておらず、IoTの普及に大きな障害となっています。ソフトバンク、京都大学および金沢工業大学は、このような課題に対して、通信とWPTを融合させることで、電力利用のインフラ化を目指した研究開発を行ってきました。一般的に、携帯電話の基地局は広く展開されているため、通信のみならずWPTのためのインフラとしても有効利用が期待されます。また、通信のための無線リソースはユーザーによるトラフィックの発生状況に依存するため、常に利用されているわけではありません。本研究では、基地局の非通信時の無線リソースをWPTとして利用することで、基地局インフラおよび電波資源の有効利用を実現することを最終目標にしています。

図1:ミリ波の通信装置へのWPT機能の実装イメージ

■開発した技術の詳細

研究開発の成果として、通信とWPTを同一の周波数帯域で融合可能なシステムの実証(通信基地局にWPTの機能を実装するシステムの実証)に成功しました。特に、既存のミリ波の通信装置にWPT機能を実装したシステム(通信とWPTの時空間分離システム)の開発、金沢工業大学が開発した世界最高レベルの受電効率を持つ受電レクテナへの送電実験(システムリンクバジェットに完全適合することを確認)の2点は、新規性が高い成果になります。

【システムの特長】

基地局の非通信リソースの有効利用:基地局を用いた新規事業の提案として、基地局のリソースをWPTとして有効利用することで、新たなIoTやセンサーデバイス向けに無線給電インフラを構築可能

通信の拡張機能としてWPTを実現:新産業の創成や広域な社会実装が可能

OFDM(直交周波数分割多重方式)を崩さずに通信とWPTを両立:既存のモバイル通信との大きな親和性を確保

■実験の概要

このたび通信とWPTのフレームを時分割多重し、各フレームに応じてビームフォーミングすることで、通信とWPTによるアンテナの共用および時空間分離システム(図2)を実証しました。また、WPTのフレームとしてWPTに適したOFDM信号を利用することで、受電効率が高いWPTが可能であることを確認しました。このシステムを用いて、金沢工業大学が開発した世界最高レベルの受電効率を持つ受電レクテナへの送電実験を実施し、ミリ波(28GHz帯)の通信装置からの電気エネルギーを取得することに成功しました。この実験では、金沢工業大学が開発した0.1µm GaAsブリッジ整流器チップを搭載した受電レクテナを用いて、電気エネルギーを取得しています。図3に示される通り、この受電レクテナが世界最高レベルの受電効率を持つことを確認しました。

図2:通信装置へのWPTの機能実装(通信とWPTの時空間分離システム)イメージ

図3:世界最高レベルの受電効率を持つ受電レクテナの開発

また、より高効率なWPTの実装に向けて、送電アンテナの大開口化についての研究も進めています。192素子フェイズドアレイアンテナを利用した伝送試験では、5mの距離で100µW/受電素子の電力取得を確認しました(図3の受電レクテナを使用)。これは受電レクテナを100素子合成することにより、10mWの電力を受電できる計算です。小電力のIoTデバイスやセンサーの平均消費電力を十分賄うことが可能になります。

一般的にアンテナを大開口化する場合は、アンテナの利得を増強することで、WPTの伝搬効率が改善することになります。しかし、近傍界領域が遠方へとシフトすることで、意図しない伝搬効率の劣化を招くことになります。京都大学は、近傍界領域での効率劣化の回避手法として、フォーカスビームの導入を提唱しています。この研究開発では、192素子のフェイズドアレイアンテナおよび金沢工業大学が開発したGaAsレクテナICを組み合わせた実証で、フォーカスビームの有効性を確認することに成功しました(図4)。

図4:フォーカスビームに関する実証

今回の研究成果は、AWPT 2022(Asian Wireless Power Transfer Workshop 2022)、APMC 2022(Asia-Pacific Microwave Conference 2022)での発表を予定しています。

この研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究によって得られたものです。

■参考文献

[1]T. Hirakawa et al., 2021 IEEE Asia-Pacific Microwave Conference (APMC), 2021, pp.287-289.

[2]K. Yamashiro, et al., International Conference on Emerging Technologies for Communications, P4-3, 2021.

[3]角谷直哉 他, 信学技報, vol. 121, no. 303, MW2021-90, pp. 31-36, 2021年12月.

[4]K. Kikkawa,et al., IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol.70, no.3, pp.1994-2001, 2022.

[5]T. Hirakawa, e t al., 2022 Wireless Power Week (WPW), 2022, pp. 396-399.

[6]Y. Nakamoto, et al., 2022 Wireless Power Week (WPW), 2022, pp. 21-24.

[7]N. Hasegawa, IEICE Transactions on Electronics, 論文ID 2022MMI0004, [早期公開] 公開日 2022/07/19.

[8]A. Mugitani, et al., IEEE Access, vol. 10, pp. 53433-53442, 2022.

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[12]角谷直哉 他, 信学技報, vol. 121, no. 400, MW2021-116, pp. 30-35, 2022年3月.

[13]小松郁弥 他, 信学技報, vol. 121, no. 400, MW2021-117, pp. 36-41, 2022年3月.

[14]長谷川直輝 他, 信学技報, vol. 122, no. 107, SR2022-25, pp. 25-30, 2022年7月.

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