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未来社会 Society5.0をリードする研究力を身につける。
令和元年度から新たな教育の取り組みを開始
「誰一人取り残さない世界」を理念に、国連全加盟国が令和12年(2030年)までに達成を目指す、世界を変えるための17の目標「SDGs」。金沢工業大学は平成7年度から全国に先駆けて実施してきた問題発見・解決型教育が評価され、平成29年12月に第1回「ジャパンSDGsアワード」SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を受賞した、日本を代表するSDGs推進高等教育機関です。学生自らが社会性のある研究課題を発見し、生み出した解決策は具体化し、社会に組み込むことでさらに研究を深めていく、社会実装型のプロジェクト教育を進めています。
この「SDGs」とともに未来を語る上で欠かせないキーワードとなるのが「Society5.0」です。
従来の「現実」はface to faceの実空間でした。これに対して「Society5.0」では「サイバー空間×フィジカル空間」が「現実」となります。そこではAIを代表するような情報技術と複数の分野の科学技術が融合し、人間を中心とした新たな価値の提案や社会変革がもたらされます。「Society5.0」への教育研究の取り組みは、そのまま「SDGs」で掲げる「誰一人取り残さない世界」の実現につながります(Society5.0 for SDGs)。
金沢工業大学では、この未来社会、「Society5.0」をリードする人材育成に向けて、令和元年度より、①全学的な情報技術教育の導入、②社会実装を実現する6年制メジャー・マイナー制度の導入、③実務家教員を起点とした深い産学連携-という3本の柱から構成される教育の取り組みを開始しました。
①全学的な情報技術教育の導入
問題発見解決にAIを活用できるよう、令和元年から「AI基礎」、「ICT基礎」を開講し、令和2年度入学生から全学部・学科の必修科目とします。また発展・応用系として「AIとビッグデータ」コース、「IoTとロボティクス」コース、「ICTと情報セキュリティ」コース-の3コースを導入し、Society5.0で必要とされる高度な情報技術を身につけます。
②社会実装を実現する6年制メジャー・マイナー制度
Society5.0で必要となる複数の専門分野を身につけるため、「工学×リハビリテーション」、「工学×経営」、「工学×バイオ」といった6年制一貫コース(学部4年間+大学院2年間)によるメジャー・マイナー制度を導入します。
1年次終了時に成績上位者に対して面談を実施し、一貫コースへの進級を促します。令和元年は一部試行で開始し、令和2年度から本格的に実施します。
さらに「工学×看護」、「工学×医学」、「工学×心理」、「工学×幼児教育」といった他大学と連携した学びも令和2年度から一部試行を開始し、令和3年度から本格的に実施する予定です。他大学との連携はスムーススペースやVRなどの先進的な情報技術を積極的に活用する計画です。
③実務家教員を起点とした深い産学連携
企業の開発現場で活躍する実務家教員による教育を令和元年から開始します。企業での経験を生かしてアクティブラーニング科目や卒業研究・修士研究の研究指導などを担当していただき、産学連携による社会実装型教育研究の充実をはかります。
また実社会にある課題を深く理解できる人材を育成するために、企業や行政と連携したオンキャンパスインターンシップも推進します。学部1年次から行われるプロジェクト型授業では企業や行政からリアルなテーマを提供していただき、企業担当者の指導を受けながらプロジェクトを推進します。
2年次以降の専門基礎科目でも企業と連携したオンキャンパスインターンシップを実施。正課外でも企業や行政と連携して実社会の問題解決に取り組むプロジェクトを設けることで、工学教育の世界標準であるCDIO(Conceive、Design、Implement、Operate)に基づく実践力を身につけます。
金沢工業大学で、国連のSDGs達成に貢献し、Society5.0をリードする研究力を身につけるー
金沢工業大学では未来を創造していく主役は学生たち自身です。
国連SDGsの達成に貢献し、Society5.0をリードする金沢工業大学の研究事例
■点字ブロックをコード化し、AIが音声案内
身近に存在する点字ブロック。点が25個あるため、2の25乗、3000万通り以上のコードが可能になります。情報工学科の松井くにお教授(専門:人工知能)の研究開発チームでは、白杖に付けたカメラが点字ブロックを読み取るとAIが音声案内をするプロトタイプを開発し、平成31年1月に金沢駅で検証実験を行いました。また金沢市の協力のもと、広坂、兼六園、金沢21世紀美術館周辺など観光施設の多い地域から観光案内コード化点字ブロックの実装地点を選定し、令和元年12月に敷設。視覚障がい者や観光客、外国人など、周辺情報を必要としている人たちが白杖やウエストポーチ等につけたカメラや、スマートフォンで点字ブロックを読み取ると、AIが観光施設やレストラン、トイレ等を音声誘導するほか、災害時には避難所への誘導情報への切り替えも可能です。
■言葉を思い浮かべるだけでAIが言葉にしてくれる、サイレントコミュニケーションの研究に挑む
脳波で制御するロボット車椅子や脳波を使った個人認証を実現してきた金沢工業大学AIラボ。言葉がしゃべれない方も、頭の中で言葉を思い浮かべるだけでコンピュータが言葉にしてくれる、「サイレントコミュニケーション」を実現する上での基礎研究に、大学院生が取り組んでいます。言葉を聴いた際に脳の神経活動から発生する、地磁気の10億分の1という微弱な磁場を計測。AIが学習し、人工的に音声を再構成するもので、まずは単語単位での再現に取り組んでいます。
■世界初。腕から脊髄に通る神経の活動を磁気的に可視化
脳の神経活動から発生する、地磁気の10億分の1という微弱な磁場も計測できるのは、金沢工業大学先端電子技術応用研究所が、非常に高感度かつ高時間分解能なSQUID(超伝導量子干渉素子)センサーとそれを活用した脳磁計や脊磁計の開発に取り組んでいるからです。先端電子技術応用研究所では、東京医科歯科大学・リコーと共同で、非侵襲で脊髄の神経活動を可視化する脊磁計を開発。頚部、腰部に加え手掌部など末梢神経の磁界計測にも成功し、実用化に向けて大きく前進しました(令和元年7月発表)。腕や首、腰の痛み、手足のしびれなどに悩む人は多く、腰痛だけでも2800万人にのぼるといわれていますが、従来の診断技術では障害部位の特定が困難でした。今回開発された脊磁計は非侵襲的な診断に役立つもので、「工学×バイオ」、「工学×医学」による新たなイノベーションの創出事例として注目されています。
■障がい者スポーツの普及を目指す
社会性のある課題に研究室の枠を超えて取り組むクラスター研究室では、季節に左右されず誰もがチェアスキーが楽しめるよう、VR型チェアスキーシミュレータを開発しました。仮想空間の斜面と連動して実空間の台座も動くため、より臨場感が味わえます。
このクラスター研究室の活動拠点になるのがMITのMedia Labをヒントに平成29年に開設された「Challenge Lab」です。Challenge Labにはカッティングマシンや3Dプリンタ、5軸ロボット加工機などが整い、アイデアをその場で試作できます。
金沢工業大学は、アイデアの社会実装を可能にする高度な研究環境が強みです。
「夢考房」はアイデアをプロトタイプとして具体化できる「場所」「道具」「材料」「知識」が整っています。金属3Dプリンターや樹脂3Dプリンター、電子基板の製作や金属加工、樹脂加工、木材加工などのブースのほか、巨大な屋内試走スペースを備えています。
やつかほリサーチキャンパスは金沢工業大学の14の研究所が集積した研究キャンパスです。卒業研究や修士研究で生み出した仮説や理論を実験、検証、評価できます。
白山麓キャンパスは実証実験キャンパスとして平成30年に開設されました。AIやIoT、ビッグデータ、ロボットやエネルギーマネジメント等の先端技術を駆使して地方創生に取り組む全学横断型のイノベーションプロジェクトが研究成果の社会実装を目指して活動しています。
■固定翼小型VTOL(垂直離着陸機)試作機を開発。白山麓における薬の輸送等での活用を目指す
航空システム工学科赤坂研究室、情報工学科中沢研究室、金沢エンジニアリングシステムズと、組込みシステム技術協会では、共同で固定翼を持つ無尾翼小型VTOL(垂直離着陸機)の試作機を開発しました。離島や山間部での小口輸送を想定したもので、白山麓における薬の輸送等での活用も目指しています。製作レシピは最終的にはオープンソースとして公開し、国産ドローン産業の育成に寄与します。。
■再生可能エネルギーによる小エリア直流給電網を構築。災害に強靭なまちづくりに貢献
白山麓キャンパスでは太陽光発電や地元産木材チップを使ったバイオマス発電、風力発電等による直流(DC)給電網の実証実験が進められています。再生可能エネルギーをミックスして小エリアで地産地消するもので、交流(AC)による外部電源の停電時においても、一瞬たりとも停電しないことが実証されています。電力不足の地域にはEVや発電可能な電動自転車を仮想配電網として使い、電力を運ぶ実証実験にも取り組みます。電動自転車は防災及び減災時の活用も想定しており、チューブレスタイヤ(パンクフリータイヤ)であるため、EVでは移動困難な被災地域への電力運搬やその場での発電も可能です。国連SDGsで目指す再生可能エネルギーの拡大(目標7)や災害に強靭なまちづくり(目標11)に貢献する研究として注目されています。
■5Gを活用した農業イノベーションの実現と温室効果ガスフリーいちごの栽培を産学連携で目指す
白山麓キャンパスは北陸で初めて5G基地局が設置されたエリアの一つです。産学連携でキャンパス内に作られた研究用いちご圃場は、ハウス内に高解像度の360度カメラを設置。熟練者が離れたところからヘッドマウントディスプレイを通じてハチの動きや葉の葉脈などもリアルタイムで確認でき、「現場に毎日行かないと状況が分からない」農業従事者の負担軽減につながります。またハウス栽培は冬期・春期に光合成を促進するため、化石燃料を使ったCO2の施用が行われますが、当研究用いちご農圃では大気からCO2を濃縮生成する装置を導入しています。装置を動かす電源を再生可能エネルギーで地産地消し、また熱空調もキャンパス内のバイオマス発電装置から出たカーボンニュートラルな熱エネルギーを利用することで、温室効果ガスフリーいちごの栽培も可能となります。気候変動へのアクションとしての温室効果ガスの削減と再生可能エネルギーの利用拡大は国連SDGsにおける大きな目標にもなっています。温室効果ガスフリーのいちごは、名実ともに環境に優しい美味しいブランドいちごになる可能性を秘めています。
■自然災害時の電力自給や農機具の電動化などに需要。農業用水を活用した"ナノ水力発電システム"
機械工学科の杉本康弘教授(流体工学)とプレス関連製品事業などを手がける東プレ株式会社(東京都中央区)は、"ナノ水力発電システム"の製品化に向け共同研究に取り組んでいます。近年普及しつつある小水力発電装置(マイクロ水力発電装置)よりも小型であるため、山間の用水路のような、従来の小水力発電装置では設置しにくかった箇所でも容易に設置可能です。発電された電力はパワーコンデショナ(インバータ)を通じてバッテリに蓄電されるほか、100Vと200Vに変換され、農作業用の電動トラックや作物の集荷配送用電気商用車への充電ができます。各種のポータブル蓄電池を通じて電気草刈り機などの電動作業機や農薬散布ドローンの電源として利用できるほか、近年、獣害対策として注目を集める鳥獣用防護柵やビニールハウスにおける照明用の電源としても利用可能です。
■廃棄瓦を芝生などが植生できる緑化コンクリートに有効利用
金沢工業大学は小松製瓦株式会社(石川県小松市)、株式会社エコシステム(石川県能美市)と共同で、廃棄瓦を有効利用した緑化コンクリートの研究開発に取り組んでいます。廃棄瓦は最終処分場逼迫の原因の一つとなっていました。一方で瓦は多孔質な物質で「吸水」「保水」「保温」といった機能を有するため、骨材として利用することで植生可能な緑化コンクリートが実現できます。都心部のヒートアイランド現象を抑える緑化事業や緑化舗装での活用が期待されるほか、豪雨時の冠水対策としても注目されています。また海外ではレンガの再利用策として関心が高く、SDGsにおける「身近な社会的な課題の解決が地球規模課題の解決につながる」事例の一つとなっています。
金沢工業大学の学生の研究がわかる動画サイト
Webサイト「物語の始まりへ」では、金沢工業大学の学生によるさまざまな研究を動画でご覧いただけます。
「物語の始まりへ」特設サイト