記事詳細
障害者が障害の種類、状況に応じて就労ができる社会の実現を目指す。金沢工業大学AIラボが金沢市と連携して、AI技術を用いた複合センサーによる行動認識システムの実証実験を開始。
金沢工業大学AIラボ 中沢実教授(専門:情報通信・ロボット制御)の研究室では、障害者が障害の種類、状況に応じて就労ができる社会の実現を目指して、AI技術を用いた複合センサーによる行動認識システムの第一次実証実験を、金沢市と連携して、2019年1月15日(火)から3月末迄まで、一般社団法人 障害者人材育成機構であるカラフル・金沢(金沢市油車41番地 新竪町ビル2,3,4階)にて行います。
障害者の就労は喫緊の課題ですが、思うように進んでいないことが課題として指摘されています。今回の実証実験はカラフル・金沢に複合センサー1台を設置。約10種類のセンサーから得られた情報により、障害者の行動特性と環境要因の因果性をAIが導き出し、就労可能な条件を可視化・データ化します。雇用主が障害者を雇用するにあたっての環境要件を確認できると共に、障害者は雇用主の理解のもとで、働きやすい環境が整備されることになります。また人材育成施設にとっては、センサーデータをもとに個々の障害者の行動特性を理解して雇用主に照会することが可能となり、雇用促進につながります。
金沢市と金沢工業大学は2018年8月にAI技術地域展開検討会を設立し、同年10月には「市民生活へのAI等技術の実装」をプロジェクトの一つとして掲げる金沢市新産業創出ビジョンが策定されています。今回の実証実験は当プロジェクトの一環として行わるもので、AI技術を活用して、子供の見守りを含め、高齢者・障害者も含む、すべての人たちが豊かな人生を享受できる社会を実現する「スマートインクルージョン」を目指しています。
*スマートインクルージョン
高齢者や障害者も含め、すべての人達が豊かな人生を送ることができるインクルーシブ(包含)社会をAI技術等で実現すること
実証実験の概要
本実験では実際に障害者人材育成施設に、複合センサーを一台設置し、LPWA(Low Power, Wide Area)を通して、クラウド上のサーバに約10種類のセンサー(サーモグラフィ、カラー検知、磁力、温湿度、二酸化濃度、気圧、人感、マイク、ミリ波)を定期的に情報送信します。そこから、クラウド上のサーバ上に構築したAI技術を用いて、どのような行動がされているのかを20種類近く(ケトル操作、ペーパータオル引き出し、食洗機動作、蛇口、冷蔵後の開閉、手洗い、ドア開閉、会話状態、蛍光灯状態、スイッチon/off動作、ドアノック、レンジ・トースタ操作、電話の音、各種ミキサー音)の中から認識を行う事が可能か実証実験を実施します。複合センサーの実装は中沢研究室所属の大学院情報工学専攻博士前期課程1年の小島聖哉さんが行っています。
利用者に一切装着物がなく、通常の状態から全く同じ状態であるため、対象者にとっても負担なく状態のセンシングができる点で幅広い展開が行える事が1つの特徴として言えます。さらに、室内(室外でも)での環境(温度.湿度、明るさ、環境音、CO2濃度、電磁波、人数)から対象者の行動を予測可能となれば、以下のメリットが考えられます。
施設:相談員がセンサーデータをベースに個々の障害者の行動特性を理解し、他の人(例えば、雇用主)に照会できる
雇用主:障害者を雇用するにあたり、環境要件を確認することができる点(安心して雇用するための根拠となる)
障害者:自らの行動の起因が分かれば、自分で対応することができる。雇用主が利用者を理解してくれれば、障害者は働きやすくなる
AIというテクノロジーを活用できる社会課題を見つけ出し、スマートインクルージョンを実現可能な社会を形成する事は、「誰一人取り残さない世界」の実現を目指すSDGsや人間中心の社会であるSociety5.0の考えにも通じています。単なる一事例としての適用ではなく、障害者・高齢者・子供の見守りにも展開可能としているのみならず、産業界も含めて多用途の分野で利用できる可能性を有しています。
当実証実験の報道機関向け説明会・見学会を2019年1月25日(金)15時から16時までカラフル・金沢にて実施します。取材ご希望の方はkoho@kanazawa-it.ac.jpまでメールでご連絡ください。