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金沢工業大学ゲノム生物工学研究所が中心になって開発・提案。カシミア等獣毛類鑑別法がISO規格として発行(ISO 20418-2:2018)。獣毛を構成するペプチドが動物ごとに少しずつ異なることを利用して動物種を判別。カシミアの混合率を正確に分析、消費者の安心につながる

金沢工業大学ゲノム生物工学研究所が中心になって提案してきた国際標準ISO/PRF 20418-2 Qualitative and quantitative proteomic analysis of some animal hair fibres ・Part 2: Peptide detection using MALDI-TOF MS(獣毛繊維のプロテオミック定性および定量分析 Part 2 MALDI-TOF MSを利用したペプチドの検出)が2018年9月に発行されました(ISO 20418-2:2018)。

今後、本規格は新しい化学的獣毛分析法としてカシミヤ、羊毛だけでなく、これまで分析が困難であったヤク、ウサギ、キャメルなどの獣毛の分析にも適用され、消費者のより安心につながることが期待されます。また、本法は毛1本の分析も可能とするため、食品などに混入した毛の分析にも適用可能です。

本規格の社会的意義

カシミヤなどの獣毛繊維は高級繊維として人気が高く、セーター、コートなどに使われています。しかし、カシミヤ山羊は寒冷高地でしか飼育できないため、希少価値が高く、高価で取引されています。品質表示法ではカシミヤに限らず、衣料に含まれている繊維の組成割合を正確に表示することを求めていますが、獣毛を同定し、その組成を正確に分析することは難しく、顕微鏡を使って繊維の太さ、表面形状などから動物の種類を判断し、その本数を数えることで組成を求めていました。

顕微鏡を使った獣毛分析法は簡便な方法ですが、例えば、カシミヤとヤクのように見た目が非常によく似ているものがあったり、あるいは、加工を繰り返すことで毛の表面が損傷をうけて判別が困難になることが少なくありません。

こうした状況の中で、金沢工業大学ゲノム生物工学研究所ではそれまで麹菌などの微生物の解析で培ったタンパク質解析技術を応用して、MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法)を利用した獣毛分析技術を開発し、2014年11月に発表しました。

その後、この技術を(株)イーグルテクノロジーに技術移転。一般財団法人ボーケン品質評価機構からの獣毛類の依頼分析に利用するとともに、2015年4月に国際標準化機構に新規の規格案として提案し、約3年間の議論を経て、今回、ISO規格として発行されました。

用語説明

■国際標準:

国際標準化機構(ISO)は162カ国の国家標準化団体で構成される非政府組織で、スイスのジュネーブに本部があります。ISOで策定された国際規格は約2万におよび、工業製品・技術・食品安全・農業・医療など全ての分野を網羅しています。新しい規格案が提案されるとWGや各国内専門委員会で技術的な議論を中心として様々な議論が行われ、通常36ヶ月以内に新たな国際標準として発行されます。

■MALDI-TOF MS:

Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization- Time of Flight Mass Spectrometry(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法)の略。マトリックスと呼ばれる低分子化合物とタンパク質などを混合し、レーザーを照射してイオン化します。生成したイオンは加速電圧を印加され、検出器まで飛行します。検出器までの飛行時間は電荷に対する質量が小さい分子ほど短くなるため、飛行時間から質量を算出することができます。この方法はタンパク質、ペプチド、多糖などの生体分子によく用いられています。

【参考ページ】

*「カシミヤ」製品の混用率を科学的に測定する手法を実用化(2014.11.13)

https://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2014/1197875_3722.html

ISO規格化された新たな獣毛類鑑別法の概要

セーターなどの製品中の混用率を定量的に測定する技術は、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて繊維の太さや毛髄の状態などの情報をもとに種類を判別し、本数を数える手法が現状ではほとんど唯一の手法です。鑑別者の技量に依存する部分が大きいほか、カシミヤと形状がよく似ているヤクの毛が混入される場合は判別が難しく、新しい獣毛鑑別技術の開発が強く求められてきました。

これまでDNAを用いる方法などが提案されてきましたが、定性的な分析(どの種類の獣毛が混入されているかを分析)は可能なものの、定量分析(混用の割合分析)では実用化されている方法はありませんでした。

金沢工業大学ゲノム生物工学研究所がボーケン品質評価機構との共同研究で開発した手法は、ペプチド(タンパク質のアミノ酸配列)を使って獣毛繊維の混用率を測定するものです。毛を構成するペプチドが動物ごとに少しずつ異なることを利用して、動物種を判別するもので、測定者に左右されずに客観的な結果が得られるほか、分析時間が短い、他の獣毛への応用が可能であるなどの特徴があります。

定性的な分析はもちろん、定量的にもかなりの精度で混用率が測定できるため、カシミヤ・キャメルヘア工業会からも早期の実用化が期待されています。

■Maldi-Tof MS質量分析を利用した獣毛の分析法

■Maldi-Tof MS質量分析の結果。ケラチンには動物種特異領域がある

(縦軸はピーク強度、横軸はm/z

■動物種特異領域を拡大した図。動物種特異的ピークが異なる

■ペプチド法による定量分析

各動物種のピークの高さの合計を分母にしてカシミアピーク比を算出

カシミヤピーク比とカシミヤ混合率の校正曲線を使って、カシミアピーク比からカシミア混合率が正確に算出できる。

Ca:カシミア W:羊毛 Y:ヤク

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