KITの特色ある教育

世界レベルの工学教育を推進するCDIOに加盟

【工学教育 知識偏重脱却を】

日本経済新聞2011年11月28日付教育面掲載 佐藤恵一教務部長寄稿


 金沢工業大学が、工学教育の改革を進める国際的組織であるCDIOイニシアチブに加盟した。佐藤恵一教授(教務部長)に参加の狙いについて寄稿してもらった。

 金沢工業大学(KIT)は今年6月、コペンハーゲンで開催された国際会議で「CDIOイニシアチブ」に加盟した。教育内容の改善をさらに進めるには、世界的潮流と融合し、同一の方向性を持つ世界中の高等教育機関との切磋琢磨(せっさたくま)が必要だと判断したからである。
 CDIOイニシアチブは、米国のマサチューセッツ工科大学とスウェーデンの3大学が2000年に始めた工学教育改革のための仕組みだ。まだ日本での知名度は低いが、加盟国は欧米から拡大し、世界を代表する70 以上の大学・高等教育機関が参加している。





KITの「プロジェクトデザイン教育」

「学習成果が大事」
 CDIOは、Conceive(考える)、Design(設計する)、Implement(実行する)、Operate(運用する)の頭文字。これら4つのキーワードで代表される事項全体(Context)を技術者教育の対象ととらえ、「工学の基盤知識となるサイエンス」と「実践・スキル」のバランスを重視し、前者を保持しつつ後者の強化を図るという質の高い教育の実現をめざしている。
 この理念に沿って十分な学習成果を達成するために、CDIOイニシアチブは、教育プログラムに不可欠な12 の項目をCDIO基準として提示し、卒業までに習得すべき内容をCDIOシラバスとして例示している。
 特に注目したいのは、基準6の「エンジニアリング・ワークスペース」と基準7、8の「統合化学習体験」「アクティブラーニング」。基準6は、学生主体の学びの場やチーム活動の場をキャンパス内にいかに提供しているかを問うており、基準7、8は「工学の基盤知識」と「実践・スキル」をいかに統合するかという授業方法に関する基準を示している。
 KITがCDIOイニシアチブに参加したのは、技術者教育の改革推進が世界的な潮流だからでもあった。大学における技術者教育には多くの側面があるが、中でも「エンジニアリングサイエンス教育」と「実践・スキル教育」は、どちらも極めて重要である。一般に「知識」と「スキル」では、前者に高い価値をおく傾向がある。しかし、そもそも両者に優劣があるわけではない。問題は内容であり、バランスであり、扱い方である。

「創造こそ使命」
 著名な工学者のフォン・カルマンは、「科学者は存在する世界を発見し、技術者は全く存在しなかった世界を創り出す」と述べたという。まさしく創造こそが工学の使命であり、広範なサイエンスを利用して社会の発展のために新しく創り出すことが技術者の役割である。このことからも、「スキル」の重要性が理解できる。
 技術者教育改革が、世界的な規模で始まったのは20 世紀末だった。背景には、高度情報化・グローバル化社会の到来そして教育情報の公開や質保証などが指摘されるが、中でも注目すべきものは、技術者教育がエンジニアリングサイエンス面に振れ過ぎ、スキル教育の改善が必要という大学内外からの反省と批判だった。日本も例外ではない。日本技術者教育認定機構(JABEE)が、高等教育機関に知識偏重からの改革を促しているのも、その流れの一環といえるだとう。
 KITも同様な問題意識を持ち、1995年度から技術者教育改革に取り組んできた。その95年度カリキュラムの主柱は工学設計(現・プロジェクトデザイン)教育であり、実社会で出会う正解がいくつもあるような問題にチーム活動として取り組み、実際に設計問題として解決策を提案させる授業である。

「人間力を養成」
 授業方法では、「総合力とは学力と人間力の掛け算である」と定義し、学力を教え育みながら人間力も身に付けさせる「総合力」ラーニング型授業を目指した。ここでいう人間力とは、KIT教育で涵養(かんよう)できる能力のことで、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、リーダシップ力、コラボレーション力、自立・自律して行動する力から成る。
 長年の教育改革の積み重ねで、KIT教育の方向性はより明確になってきたが、それはCDIOイニシアチブの考え方に近いものでもあった。前述の基準6、7、8が示された教育の内容は、KITの掲げる「総合力」ラーニングそのものともいえ、共感するものが多かった。これも加盟への大きな動機付けになった。
 ところで、我が国の技術者教育改革を進める機関としてJABEEがある。JABEEは工学・技術者教育プログラムを認定する唯一の機関で、「統一的基準に基づいて高等教育機関における技術者教育プログラムの認定を行い、その国際的な同等性を確保するとともに、技術者教育の向上と国際的に通用する技術者の育成を通じて社会と産業の発展に寄与すること」を目的としている。
 もちろんKITもJABEEの認定を受けているが、なぜJABEEに加え、CDIOイニシアチブに参加する必要があるのだろうか。
 実は米国にはJABEEに似た認定機関としてABETがある。認定機関であるABETと、基準は持つが認定機関ではないCDIOイニシアチブが、補完し合う形で活用されているのである。これは他の国々でも同様である。
 今後、高等教育機関は、技術者教育プログラムについてJABEEのような外部審査を受けながら、CDIOイニシアチブのような明確な内容と方向性をもつ世界的教育改革組織と連携を図っていく必要がある。認定審査だけでも、ある程度の改革・整備は促進できる。だが大事なことは、教育の内容であり、ラーニングアウトカムズ(学習成果)であり、自己改善の仕組みである。
 世界の志を同じくする仲間と、成果発表、事例報告などを通して意見交換を行い、工夫を重ねながら工学・技術者教育の本質的な改革・改善を可能とする。そのような機会と道筋を提供してくれるのが、CDIOイニシアチブだと考えている。

交通アクセス
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