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写真:「みちびき」実証実験車と(撮影/金沢工業大学キャンパス)
―プロジェクト発足の経緯は?
平成17年に「空間情報」をキーワードとした、環境・建築学部の3つの研究室による勉強会を始めました。しかし、学部内だけでは活性化しなかったため、外部に目を向け、地域の小中学生に空間情報の魅力を伝えるサイエンスセミナー「カメリアキッズ」をスタート。さらに、地域の企業へと領域を広げ、現在は、「空間情報」というキーワードのもと、子ども・企業・地域向けのワーキンググループ(以下、WG)が活発に活動しています。
―現在活動中のWGの現状は?
まず、最初に取り組んだカメリアキッズですが、子どもというのは正直ですから、おもしろくなければストレートにその気持ちを伝えてくる(笑)。「どうしたら子どもたちが興味を持ってくれるか」を、学生が必死に考えたことで、回を重ねるごとにレベルがアップしていったように記憶しています。
たとえば、GPSを紹介するセミナーでは、単にその機能を紹介するのではなく、GPSを使って宝探しをする。しかも、わざと精度の低いGPSを用意し、宝を見つけるまでのプロセスも楽しんでもらう、など。「何を」「どうするか」といったテーマ決めから運営まで、現在はほとんど彼らが自主的に行っています。
ですから、カメリアキッズは子どもが科学にふれる機会であると同時に、学生が「伝える技術」を学ぶ場でもあり、人に教えることで自分自身の勉強にもなります。セミナーは、おかげさまで毎回参加者の抽選が行われるほど人気があります。今年は第1回の受講者が本校を受験したという話も聞き、立ち上げ時からかかわってきた私自身にとっても感慨深いものがあります。
―では、企業に対するプロジェクトはいかがですか。
まず、私たちが持つ技術や情報を、プロジェクトを通じて積極的に地域に提供すべきだと考えています。たとえば、現在我々が利用しているGPS衛星は日本で常に天頂付近にないため、地形や建物に左右されて誤差が出ますが、常に真上に位置する準天頂衛星「みちびき」と現在のGPS衛星を組み合わせることで、測位誤差は数センチにまで縮まります。
平成30年に準天頂衛星「みちびき」の本格運用が始まるまでに、地元企業と連携して実証実験を重ね、どういう活用ができるかを提示できれば、地元の企業に大きなビジネスチャンスを生み出す可能性があるのではないでしょうか。
地上型レーザスキャナーを用いた3次元データの取得についてのWGでも同様のことが言えます。地上型レーザには優れた特性がありますが、国土交通省の「公共測量作業規程」にないため、公共測量における普及率はゼロに近い。公共測量作業規程を管轄する国土地理院への申請(17条)が自治体に限定されているためで、現在私たちのWGが金沢市と共に申請できるように準備を進めています。昨年(平成24年)には、これまでの実証実験のデータをまとめた論文を、学会誌に発表しましたが、これが申請のはずみとなることを期待しています。
空間情報セミナーのWGでは、年に一度研究室の学生が発表を行っています。その場でセミナーに参加している企業の専門家が質問してきますから、それは、もう、学生たちは真剣です(笑)。学部生にとって非常にいい経験ですし、こちらが指示しなくてもきちんとスーツを着用し、身なりを整えてくる姿にもその意気込みが感じられます。
―プロジェクトを通じて学生はどのようなことを学びますか。
プロジェクトに参加する学生は、各々行動目標決めており、今年度(平成26年度)からは、正式にシラバスにもその取組みが組み込まれることになりました。
プロジェクトを通じて彼らは、企画力・運営力を育むだけでなく、意見が分かれたときの調整方法や問題解決の手法など、一人の人間としてのコミュニケーション能力を養うことができます。建築や土木の分野はチームで仕事にあたることが多く、彼らが社会に出てから、この経験が大いに役立つはずです。
―今後、プロジェクトにおいて新しい動きはありますか。
それぞれのWGには、学生ならではの新鮮な発想が生かされています。思わず「なるほど!」と思える意見が出てくることもしばしばで、指導する立場としても刺激を受けることがあります。これからもそのような固定概念にとらわれない柔軟な発想を、どんどんプロジェクトに生かしたいと考えています。
また、今年度からは、新たなWGも活動を始めます。建物の内部を3次元レーザで計測してモデリングする「BIM/CIM※WG」で、技術の普及と公共測量への活用を目指します。
「空間情報」というキーワードのもと、大樹の枝葉のように広がってきたプロジェクトは、今後情報系の学部との連携などのビジョンも想定でき、さらなる発展を実現できるものと信じています。
※BIM(Building Information Modelling)
IT技術を応用した新たな建築手法。建物に関する情報をコンピュータ内の3次元建築モデルデータにして活用。
※CIM(Construction
Information
Modeling)
建設系分野における受注者同士あるいは関連する協力会社を含め、プロジェクト関係者がデータを共有し利用すること。