平成25年度「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」採択 地域志向「教育改革」による人材育成イノベーションの実践

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KITトピックス/活動報告(平成29年度)

空間情報プロジェクト 環境土木工学専攻1年 上嶋健太郎
地域連携で空間情報技術の可能性を広げる

「空間情報プロジェクトワーキンググループ(WG)の『はいかい』事故防止対策における研究」について、空間情報プロジェクト・環境土木工学専攻修士1年の上嶋が発表させていただきます。

プロジェクトでは空間情報をキーワードに、専門知識の追究、地域貢献、地元企業との連携といった活動を進めています。野々市市と連携した「カメリアキッズ」では、子どもたちに測量や空間情報に触れてもらうセミナーを毎年開催し、「空間情報セミナー」では、第一線で活躍するプロフェッショナルの講演などを通じて、空間情報工学のさらなる発展と産学官の交流を推進しています。平成29年度には地元企業と連携して取りまとめた「地上レーザ測量マニュアル」が、国土地理院の公共測量における作業マニュアルである「作業規程の準則」に掲載されました。

こうした成果を受けて、次のステップとして、地域の豊かなライフスタイルの創造を目指し、空間情報技術を活用した地域づくり、組織づくりにも取り組んでいます。今回はその中から、「はいかい事故防止WG」の活動を掘り下げてご説明したいと思います。

「はいかい」対策に経路情報を活用

このWGが立ち上がった背景には、野々市市の地元病院で認知症患者による「はいかい」により、行方不明や事故被害などが発生している現状があります。近年における認知症患者数の増加で、病院側も患者一人ひとりのケアに手が回らない状況に追い込まれています。すでに一部企業からは「はいかい」患者の位置情報を知らせる機器が販売されてはいるものの、価格が高額、情報が第三者に漏えいする恐れがある、患者が機器の携帯を嫌がるなどのデメリットがあり、気軽に導入できないのが実情でした。

WGでは、それらの問題をクリアできるツールとして、GNSSロガーを活用した対策を提案しました。この装置は測位衛星を利用して移動した経路を記録できるものですが、いつも同じルートを「はいかい」する傾向のある認知症患者の場合、その経路を明らかにすることで、対策に有効活用できるのではないかと考えました。GNSSロガーは小型で価格も安く、家庭のパソコンでデータ管理できるため情報漏えいの心配がないなど、従来のデメリットを解消できる点も魅力です。

患者の運動量を独自システムで解析

病院や自治体から提供していただいた情報から、私たちWGは認知症患者の「はいかい」を運動強度の観点から評価している医学論文の存在を知りました。病院側からも患者の運動量が「はいかい」のルートに関係している可能性について調べてほしいとの要望があり、ほかにも「はいかい」ルートの分岐条件や従来の対策における不十分な点などの情報提供をいただきました。それらの情報を受けて、プロジェクトからはロガー携帯者の運動量を算出できるシステムの提供、従来機や高性能受信機との精度比較検証などで、技術協力を行いました。


運動量算出システムは、既存のソフトウェアとは別の解析ソフトを組み合わせて開発しました。ロガー携帯者の身体情報や移動手段などを登録することによって、移動経路から歩数や消費カロリーなどの運動強度を算出できます。これらの技術は病院側にも提供しています。さらに2016年9月に開催された『白山白川郷ウルトラマラソン』での距離計測にも、白山市のご協力で参加させていただきました。得られたデータは位置情報の精度検証などに活用しています。




これらの技術を活用した認知症患者の事故防止対策として、本WGが最終的に目指しているのは、患者の各種情報を元に、「はいかい」ルートを判別できるようになることです。
例えば、下の画像の場合、移動手段や居住地域、家族構成、体力の有無などの条件から、この患者はAルート、この患者はBルートなど、「はいかい」しやすいルートをプロファイリングしています。実際に行方不明になった際に、「その患者はこの分類だからこのルートを探してみよう」との対策がとれるようにしたいと考えております。


技術と情報が医学と空間情報工学をつなぐ

このプロファイリングされたルートは、建物や座標などの空間情報のほか、患者の情報も多く取り入れたことで導き出されたデータです。一般的にはあまり関わりがないと思われがちな医学と空間情報工学ですが、今回のプロファイリングの試みにも見られるように、技術や情報の観点からはお互いにとって有効な連携ができると感じました。
さらにロガーのさらなる活用手段として、認知症患者の外出時間の情報を元に、日や時間ごとの外出頻度を割り出すことが可能です。下の表のように、日間変動と時間変動の分布によって行動時間を比較評価できるので、患者ごとにこの日は外出しやすい、この日は外出しないなどの事前把握に役立てられるのではないでしょうか。


患者の行動の法則を知ることができれば、介護する家族も「今日は『はいかい』しやすい日だから、一緒について行ってあげよう」などと対応できて、安心して外出させることができます。そのことが認知症患者への本当の心のケアにもつながるのではないかと考えております。
それでは、以上で発表を終えさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

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