平成25年度「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」採択 地域志向「教育改革」による人材育成イノベーションの実践

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KITトピックス/活動報告

プロジェクトリーダーが語る
KITハッカソン

地域の課題をITで解決「産学連携ハッカソン」が未来を創る - 金沢工業大学 工学部 情報工学科 教授 中沢 実

撮影/ハッカソンにも利用されている金沢工業大学「アントレプレナーズラボ」にて

ハッカソンはハッキング(Hacking)とマラソン(Marathon)を合わせたプログラミング主体のコンテストを指し、ソフトウェア技術の開発や技術革新等の手法として急速に普及しました。KITハッカソンは、2014年に工学部情報工学科の中沢実教授を中心に、ICT・RTを研究領域とする教職員有志によって発足し、以後定期的に開催。産学連携による教育研究=「KITハッカソン」を通じて、日常に実装可能なプロダクトを生み出し、未来を担うイノベーターを育成しています。

学生の希望から生まれたKITハッカソン

-ハッカソン開催の経緯は?

最初にKITハッカソンを開催したのは2014年の夏です。自治体が主催するアイディアソンに参加していた学生から、「工大でハッカソンができないか」という声が上がったことがきっかけでした。当時はまだ県内で本格的なハッカソンは開催されておらず、東京の情報を収集し、本学の特性や地域性を加味した形でスタートしました。以来、開催してきたハッカソンはこれまでに7回を数えます。毎回テーマは異なりますが、常に「地域志向」を基本とし、回を重ねるごとに内容はレベルアップしています。

石川県に限らず、今の日本には、このまま手をこまねいていると消滅する都市が各地に存在します。それらの地方都市が創生しない限り、県全体、しいては日本の国全体の衰退を招く状況につながりかねません。東京にしかできないことがあるのと同様に、地方だからこそできることがあり、さらに、地域と良好な関係を築きながら歩んできた本学だからこそ可能なハッカソンがあります。地方都市をとりまく環境の変化とともに、ハッカソンにおいても新たなテーマや広がりが予想されますが、今後も「地域志向」「産学連携」が中心であることは変わりません。

【これまで開催されたKITハッカソン】
第1回 テーマ:地方都市イノベーション創出~消滅する限界集落を救え!~
日時:2014年9月20日~22日
場所:金沢工業大学 アントレプレナーズラボ
概要:機械系、情報系から30名の学生、企業からは7社12名が参画。12チームによるハッカソンを開催。国内最大の不動産物件紹介サイトを運営する(株)ネクストや会話型ロボットを提供する富士ソフト(株)、地元企業の(株)PFU、(株)アイ・オー・データ機器、(株)チェンジビジョンからプロダクト、API(Application Programming Interface)の提供があり、アイディア創出とそれを実現するためのプログラミングを実践。自宅の鍵の施錠をスマートフォンで確認できるシステムの開発や限界集落への集団移転をアシストするシステムの開発等を行う。
日本ベンチャーキャピタル(株)より審査員を招いて評価およびアドバイスをいただき、グローバル化に対応した観光案内のシステム開発を行ったチームが最優秀賞に選ばれた。
第2回 テーマ:シンカンセン・カイツウ・ソシテ…
日時:2015年3月19日~22日
場所:金沢工業大学 アントレプレナーズラボ
概要:日本マイクロソフト(株)を情報提供企業に招き、IoTに関連したテーマを提示。(株)センド代表 宮田氏からデザインが社会にもたらす影響力、Code for Kanazawa代表 福島氏からソーシャルイノベーションの魅力について、本学からは車いすロボット制御システムの中で用いられている人工知能技術「ディープラーニング(深層学習)」についての情報提供があった。DMM.comラボをはじめとした地元ICT企業のエンジニアも参画し、金沢市内の観光をテーマに、空間情報とバス停を連動させたソリューションや市内に設置されている自転車の利用促進を図るソリューションなどを開発。最優秀賞には高校生と本学学生が開発した傘にセンサーやLEDを搭載し、雨天時にさまざまな演出が起こる「カサダス」が選ばれ、外部評価者である石川県企画課、金沢市ものづくり産業支援課、Cafe?IKAGAWADO五十川氏らからアドバイスをいただいた。
第3回 テーマ:近未来、マイナンバーとIoTによって社会はこう変わる!
日時:2015年9月18日~20日
場所:金沢工業大学 アントレプレナーズラボ
概要:GMOグローバルサイン(株)をメーン情報提供企業として開催。初日には内閣官房参事官補佐の中島氏や(株)野村総合研究所の梅屋氏による講演が行われた。その後、参加企業から各社が取り組む事業やサービスについての説明があり、学生によるアイディア創出が行われた。学生は9チームに分かれ、参加企業のエンジニアによるサポートを受けながら創出したアイディアに基づいたプログラミングやモノづくりに取り組み、最終日にプレゼンテーションを行った。最優秀賞には、自転車を使った金沢観光活性化を目的とし、個人番号カードでの施錠・開錠が可能なレンタサイクルや、自転車の位置情報取得による観光ビックデータ解析を行うシステムが選ばれた。
第4回 テーマ:近未来の小学校を創造せよ ~テクノロジー・教育・デザイン・地域~
日時:2016年3月18日~3月20日
場所:四十万小学校(金沢市)・金沢工業大学 アントレプレナーズラボ
概要:学生ほか、地域の方、小学校関係者および小学生も参加。学校と地域が抱える問題意識についての基調講演があり、参加者は子どもたちが授業を受けている様子を見学することで現状を把握。その後、学生約50名と企業メンターがともにハッカソンに取り組み、最終日にプレゼンを行う。小学校校長や地域住人、小学生が審査員になり、地域の防災・防犯をテーマとしたウェブアプリケーションが最優秀賞を受賞した。
第5回 子どもたちが豊かに成長する次世代の里山都市を創造せよ
日時:2016年8月6日~7日、9月15日~17日
場所:白山麓キャンパス(旧かんぽの郷 白山尾口)
概要: 本学学生のほか、金城大学の学生や地元IT系企業、OB・OG合わせて100名を超える参加者が集まった。(株)ボーダレスジャパンの鈴木副社長の講演や応用バイオ学科の長尾教授、情報工学科の中沢教授、建築デザイン学科の下川教授によるパネルディスカッションが行われた。最終日の発表会には、地元住民のほかに企業からの参加者を含めて200名が集まり各チームのクリエイティブな発表が行われた。チームの発表後には、ライゾマティクスの齋藤代表取締役から「Anti-Disciplinery(非分野主義)」の重要性についての話や、北山創造研究所代表の北山氏から総評をいただいた。
第6回 テーマ:オリンピック・パラリンピックと地方創生~金沢からオリンピック・パラリンピックに参加しよう!
日時:2017年3月18日~20日
場所:金沢工業大学 アントレプレナーズラボ
概要:文部科学省スポーツ庁の勝又氏による基調講演の後、Code for Kanazaw代表 福島氏、日本マイクロソフトの西脇氏、丸山事務所代表・マルレク主宰者 丸山氏による招待講演があった。期間中は、子ども達のためチャイルドハッカソンも同時開催し、ブロックや各種センサーを組み合わせるなどモノづくりの楽しさを伝えた。全7チームでのプレゼンの結果、アスリートの趣味嗜好データをもとに金沢市内の観光地やお店を繋ぐ、アスリート目線で金沢の観光が楽しめるWEBサービスが最優秀審査員賞を受賞した。
第7回 テーマ:子どもたちのイノベーション「コドモノベーション」
日時:2017年9月15日~17日
場所:石川県白山市白峰村 白峰小学校跡地
概要:学生ほか、東京からのクリエーターやデザイナーなど、総勢約50名がエデュテックトイをキーワードにハッカソンに取り組んだ。1日目は、オリエンテーションやディスカッションを行い、2日目には、NTTdocomoの方からLPWAを用いたAnduinoによる開発の勉強会が行われた。また、地域に住むご年配の方々と学生との交流会を開き、過去の体験談などを聞く機会を設けた。学生たちはこの交流からアイディアや「エデュテックトイ≠子供対象」という新たな気づきを得ていた。最終日のプレゼンでは、ストーリー性のある発表が行われ、総合的な評価の結果、いたずらをモチーフにしたコミュニケーションツールを開発したチームが優秀賞を受賞した。

スキルアッププロジェクトとして

-KITハッカソンの特徴は?

まず、KITオナーズプログラムや文部科学省の大学COC事業など、学生が個々に取り組んでいる長期プロジェクトを、より円滑に進めるための「スキルアッププロジェクト」と位置付けています。学生はハッカソンが短期集中型である利点を生かし、そこで得た新たな知識や気づきを長期プロジェクトにフィードバックして役立てることができます。また学生によっては、今まで学んできたことが実際に社会で通用するのかどうかを試す場としても利用されています。

ハッカソンへの参加は情報系の学生が最も多く、少数派ながら建築や機械系・電気系の学生も意欲的に取り組んでいます。情報系の学生はプログラミングができても建築物はつくれません。逆もしかりです。ハッカソンを通じて、それまで自分たちが知らなかった知識に出会うことで学生の知見も広がりますし、そこに企業のエンジニアやデザイナーなど、多彩なメンバーが加わることで、ハッカソンの可能性はとてつもなく大きいものになり得るのです。



これまでのハッカソンの様子

継続していくためには「楽しさ」や「ユーモア」が欠かせない要素

キャリア教育としての産学連携ハッカソン

-KITハッカソンはどんな成果を生み出しますか

一般的には年に1度の開催が望ましいとされるなか、KITハッカソンは半年に1度のサイクルで開催してきました。テーマ決めから参画企業、学生への声かけ等々、開催には相応の準備が必要ですから、かなり短いサイクルで開催していると言えるでしょう。
その背景には、KITハッカソンが「学び」の一環であることがあげられます。年に一度の開催では学生が在学中に参加できる数は限られますが、半年ごとならオーバーラップしながらより多くのハッカソンに参加できます。そうすることで、ハッカソン経験者と初めての学生をバランスよくチームに配することができ、全体のレベルアップを図ることが可能です。最近では、本学の環境や学生の質を見込んだ企業側から「この技術を使ってほしい」という申し出や共同研究の依頼も増えております。

数々の実装プロダクトを生み出す

-これまでのハッカソンでどのような成果がありましたか。

たとえば、KITハッカソンでつくったソフトウェアがオープンソースであれば、データを変えるだけで全国の地方都市で汎用的に使うことができます。県外の学生がKITハッカソンをモデルケースにデータを自分の地元に差し替えて応用しているケースもあります。

最近のハッカソンでは、家庭用の音声アシスタントデバイスを利用してコーヒーマシンを操作し、コーヒーを淹れるシステムを発表したところ、海外の本社からコンタクトがあり、国内担当者が直接視察に来ました。結果、将来的にヨーロッパからエンジニアを招く計画も進行中です。

はじめて地域住民と直接つながった4回目のハッカソンでは、小学生と一緒にハッカソンを行いました。その時は直接住民から評価をいただいたことに対する喜びと同時に、子どもならではの柔軟な発想にこちらも刺激を受けました。

すでに現実社会に実装できるプロダクトもいくつか誕生しており、メンターとしても手応えとうれしさを感じています。

地域の課題をITで解決

-KITハッカソンの今後の展開についての考えは?

学生も地域の方々も、企業も、そして私を含む教職員も、KITハッカソンにかかわるすべての人が「楽しい」と思えるものにしていきたいと考えています。実は最近プレーヤーとしてハッカソンに参加する機会があり、プレーヤー側の気持ちも理解できました。その経験を生かし、参加者がもっと楽しめるハッカソンを開催したいと思います。また、ヒット商品に共通しているのが「ユーモア」であり、KITハッカソンからも使い手をワクワクさせるようなプロダクトの誕生を期待しています。

学生には、世界の最先端のテクノロジーにふれる機会、第一線で活躍する技術者との交流というチャンスを最大限に生かし、「モノをつくる」ことの楽しさを知ってほしいと願っています。

KITハッカソンの基本は常に「地域志向」であり、地域の方々の気持ちに寄り添うことで、おのずとその地域に何が必要かがわかってきます。ですから学生はIT技術を学ぶとともにコミュニケーション能力を身に付け、より地域の方々に親しまれるハッカソンを展開していきたいと思っています。

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金沢工業大学 産学連携局 連携推進部 連携推進課

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