平成25年度「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」採択 地域志向「教育改革」による人材育成イノベーションの実践

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KITトピックス/活動報告(平成28年度)

「匠の技」を科学する 工学部 機械工学科 畝田道雄
匠の技を自らが理解することで後世に伝える

こんにちは。金沢工業大学工学部機械工学科の畝田です。今回は、「匠の技」をテーマにしたプロジェクトに取り組ませていただきました。
金沢市、そして本学のある野々市市にはたくさんの伝統的なものがあります。たとえば金沢であれば兼六園をはじめ、加賀友禅や金箔など。一方、私は金沢に長年住んでおりますが、伝統的なものについて説明しようとすると困ってしまいます。はたして自信をもって説明できる方はどれだけいらっしゃるでしょうか。


私たちは伝統的な匠の技が数多く息づく金沢、野々市にいながら、それを後世に伝えることができるか、あるいは匠と私たち一般人の間にどのような意識の乖離があるのか、それらのことを明らかにしたいという動機がプロジェクトの背景にあります。
すなわち、匠の技による作品があったとしても、一般人がそれを理解しているのかどうかという疑問を解消したいと考えました。もちろん私一人では進めることが難しく、以下のメンバーでプロジェクトを進めました。

【プロジェクトメンバー】
 工学部 機械工学科 畝田道雄教授(プロジェクトリーダ)
 情報フロンティア学部 心理情報学科 神宮英夫教授
 工学部 機械工学科 諏訪部 仁教授
 情報フロンティア学部 メディア情報学科 出原立子教授
 情報処理サービスセンター 高島伸治部長
 連携推進課 西川紀子課長 
 学生代表 修士2年 村上昇啓

日本刀の官能美を科学的に解明

スタート当初は、最初に何からはじめればよいか迷いました。以前から日本刀の研究を行っていたこともあり、本プロジェクトでは刀匠や刀剣研師らによって作られる日本刀を取り上げました。
日本刀の価値はその美しさにあると考えますが、どのように美しいかを問われても説明することは難しいです。「日本刀の美」を、匠と一般人の両方の視点から解明し、その美しさが端的に観る人に伝わる新たな展示手法の提案を目的にプロジェクトはスタートしました。今回、伝統工芸品である日本刀を評価できる科学的なツールが完成すれば、おそらくそれが金沢や野々市の伝統文化を伝える術に通じるのではないかと考えたからです。

今回のプロジェクトで協力を仰いだのが本学と連携協定を結んでいる長野県坂城町にある長野県坂城町立「鉄の展示館」です。最初に、学生が匠の技を実感するため、約20名で展示館へのバスツアーを実施しました。見学後、学生に「匠の技はすごいだろう」という話をしました。その時の学生の反応は鈍かったのですが、正直私としてはしめしめという気持ちでした。それは匠の技である作品を見ることはできたが、その中身や意味するところを感じることはやはり難しいということを表していたからです。
本プロジェクトでは、機械工学科、心理情報学科、メディア情報学科がそれぞれの取組を行い、それが融合することで、日本刀の新しい展示方法や、科学的なアプローチにつなげることを目指しました。


鉄の展示館への見学バスツアーの様子

それぞれの学科における活動内容がこちらに示されています。

KIT-COC事業の概要

なお、プロジェクトには学生リーダーとして本学大学院機械工学専攻の村上昇啓君が参加しました。彼が中心的な役割を担い、今回の発表においても彼の大きなサポートがありました。

各学科が取組を分担し、最終的に融合

それではまず、機械工学科の取組からご紹介したいと思います。日本刀の作刀において、刀匠が何を基準に作刀するのか…それを学生と一緒に研究し、匠の技にフィードバックしてみました。
私が担当する3年生の正課課目でマイクロ・ナノ加工という科目がございます。その中で刀匠と刀剣研師が学生の目の前で実演を行いました。日本の研ぎの技術は、現代に生きる超精密加工のひとつです。それを実際に目にしたことで学生に温故知新の重要性が伝わり、アンケートでも私が予想した以上の回答が返ってきました。




機械工学科・正課課目特別講演会

次は心理情報学科と連携した取組です。この分野は神宮教授にご協力いただきました。
まず、匠の技をどう科学すればいいのかという科学的な手法からアプローチしました。
伝統工芸品を一般人の方がどのように見ているかについてですが、たとえば、ここにご参集の皆さんが日本刀の博物館に行かれるとします。日本刀を見て「美しいなぁ」と感じる方がいらっしゃるはずですが、是非、今後は美しさだけを求めないでください。もちろん、美しさもあります。これはある刀匠へ「あなたが考える日本刀とはなにか」というアンケートを行い、その答えを分析した結果ですが、「時代性を意識してつくっている」ということがわかります。ですから刀匠たちが何を考えて自分の作品に導いているか、そういったことを本来は一般人の方がわかるようになればいいのかなと。また、匠の技が後世に伝わるためには、その文化が衰退してはいけませんから、そのためには皆さんの購買意欲にもつながってくれたらありがたいと思っております。

ほかに、匠の方が驚かれたアンケートがございます。サーストン法という手法ですが、幾つかの刀匠による作品の写真の中から学生に美しいと思うものを選んでもらいました。その結果、思いがけない作品の評価が低くなってしまいました。その結果を刀匠に報告した際には、一部の刀匠からは、やり方が間違っている、というコメントも受けましたが、報告をお聞き頂いた皆さんはとても驚かれていました。


機械工学と心理科学を融合し、日本刀の魅力に迫る

次に機械工学と心理科学の融合として、日本刀のどういうところに魅力があって一般人が魅力を感じるかを評価してみようという試みです。
私が担当している大学院の機械工学専攻の正課課目にマイクロ・ナノ加工学特論があります。そこで日本刀の刃文の空間波数をFFT解析し、一般人に評価される刃文の定量化を図る方法を学生に教え、画像解析を行ってもらいました。その結果がこちらになります。
日本刀の種類の中で、刃文の様子がゆったりとした波が寄せるような「湾れ刃(のたれば)」と丁字の花が重なったように見える「丁子刃」を解析しました。刀匠と一般人である学生では評価が違い、そこに意識の乖離があり、それを埋めることが大いなる課題だと認識しております。

KIT-COC事業の概要

また、学生へのフィードバックとして、先ほどご紹介した大学院生の村上君に心理情報学科の正課の授業で講演を行ってもらいました。
授業前のアンケートでは「なぜ心理情報学科なのに機械工学専攻学生の講演を聴くのか」という声もありましたが、終了後には「なるほど!さまざまな分野を見ることの重要性がわかった」という意見が多く、大変うれしく思いました。

また、本プロジェクトは大学で行われたことから、学術知としてのフィードバックが必要であると考え、いろいろな方にご協力をいただいた結果、『精密工学誌(2017年4月号)』に「感性評価による日本刀の美しさに関する研究」という学術論文が掲載されます。機会があればご覧いただければ幸いです。

メディア情報学の視点で日本刀を探究

これはメディア情報学科としての取組みです。匠の技というのは感じてもらわなければなりません。そのために、出原教授と学生で3Dによる疑似ホログラフィで、日本刀を疑似的にあやつることができる装置を試作しました。こちらはもう少し精度が足りないということで今後も改良を重ねる予定です。


3Dによる疑似操作体験の試作

先ほどご紹介した鉄の展示館において、日本刀の科学的解析を行った結果の展示を行いました。
「日本刀の機能と刀匠の感性に着目した工学的評価」というタイトルでパネルを常設展示し、学芸員が来館者に説明できるよう依頼してきました。こちらは設置されたばかりなので、今からどのようなフィードバックが来るか楽しみにしております。


昨年の9月にはCOC全国シンポジウムに行ってきました。大勢の来場者のなかでも、学生たちは堂々と説明をしておりました。

KIT-COC事業の概要

こちらがプロジェクトに参画してくれた学生に対するアンケートの結果です。ほとんどの学生が肯定的な意見で安堵しております。また、その反面、自由記述では「伝統的な匠の感覚や知見の定量化が難しかった」「一般の方々に伝統工芸の魅力を知ってもらうことの難しさを痛感した」という意見もあります。この意見は学生らが真摯にプロジェクトに取り組んで難しさを実感した証左であり、今後の課題にしたいと思っております。

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今後の波及について

最後にまとめとしてプロジェクトの波及について述べます。
このプロジェクトでは最終的に、金沢市、野々市市へのアプリケーションとして展開もしていかなくてはなりません。そういった課題がございます。現在、昨年の8月から新しいアプリケーションとして金沢にある匠の技を対象にした調査に学生と一緒に取り組んでおります。さまざまな工程の現場を学生と一緒に見学させていただくとともに匠らとディスカッションし、そこにはたくさんの匠がいらっしゃることも知りました。

私は機械工学を教えていますが、これからも生きた工学教育を実現するためには、先ほど、大学は閉ざされた場所だという一部のコメントもありましたが、産学、そして地域が一緒になってプロジェクトを行うことが非常に大切であると思います。
私どもの研究室ではCOC事業によるプロジェクトをはじめとして、多くの共同研究活動、連携プロジェクトを行っております。実施する連携プロジェクトではもちろんプロジェクト活動を展開し、新しい解を得ることに一つの意義があります。
ただし最大の意義は、この発表会が終わった後の集合写真の学生のように、学生の本当の笑顔をつくり出すような、笑顔が満載になるようなプロジェクト活動、キャンパスづくりをしていくことであり、教員としてそういったことに資するプロジェクトを推進していきたいと考えております。
ご清聴ありがとうございました。今後ともご協力をよろしくお願い申し上げます。

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