
<プログラム解説>
*内容は多少変更する場合があります。ご了承ください。
                                           
■イントロ [ 現代は悪の時代か?]
出演:タナカノリユキ×下條信輔
善意よりも、明らかに悪意の目立つ時代です。それは単に「善」の枠組が壊れかけているということではありません。
たとえば敵対的買収によるIT企業の急成長、あるいは遺伝子診断や遺伝子治療など。こうした現代的な事例に見られるように境界は空洞化し、「善」と「悪」とは両義性を持ちはじめています。そして今や「善」の正体は、見極めようと目を凝らすほどに朧げとなり、ときとして偽善めいてくるのです。そこで思い切って視点を転換してみようと思います。ーー「悪」は「善」に先立つ。それゆえ「悪」を深く理解することで「善」も見えてくるーー。そんな仮説の下、監修者の対論、ショートレクチャー、ショーイングなどを織り交ぜながら、このテーマに辿り着いた動機を披露します。
                                           
■基本レクチャー(1) [ いつ、誰が、犯罪者になるのか
]
出演:中谷陽二
精神鑑定で出会う人々の語りから出発し、「犯罪者」と「非犯罪者」を分かつ境界の曖昧さについて考えます。19世紀の犯罪人類学が提起した「生まれつきの犯罪者」、一面においてその現代版とも言える「サイコパス」の概念に焦点をあて、まず「罪を犯すべく運命づけられた人間」というカテゴリーについて批判的に検証。次に視点を逆転させ、特殊な状況下では誰もが邪悪な存在になり得ることを、心理実験、戦闘、カルト、人質、強制収容所といった極限状況における人間行動を例に論じる。プライバシーに抵触しない範囲で鑑定のケース事例も紹介します。
                                           
■朗読 [ 悪を問う]
演出:タナカノリユキ / テキスト:下條信輔 / 朗読:金剛地武志
悪と善についての素朴な疑問、意表をつく問い、根源的な疑い。それらを可能な限り集めて構成した問題提起です。金剛地武志の朗読とタナカノリユキの光の演出でお送りします。
                                           
■基本レクチャー(2) [ 自然界に「悪」は存在するか
]
出演:中村美知夫
動物界には、同種の他個体を殺すという現象はかなり広く見られます。チンパンジーには、同種のアカンボウを殺し、食べるという現象が知られており、また、複数のオスが共同で隣りの集団の個体を襲って殺すこともあります。しかし、生物学的にはこういった現象が「悪」であると判断することはできません。何が「悪」であるかは、あくまで社会的・心理的に生成されるものだからです。
                                           
■基本レクチャー(3) [ 悪は善である ]
出演:永井均
「悪」には二つの対立する意味がある。「悪い天候」という場合の「悪」と「悪い行為」という場合の「悪」である。しかし、この対立は意外と見抜かれにくく、意外に知られていない。前者の「悪」はそれ自体としての悪だが、後者の「悪」は、道徳的には悪であっても、それ自体としてはむしろ善である(逆に道徳的な善は、それ自体としてはむしろ、悪である場合が多い)。どうして、そういう逆転が起こるのかを、考察したい。
                                           
■総括討論 [ 悪と善の基底に見えてくるもの ]
出演:中谷陽二×中村美知夫×永井均×タナカノリユキ×下條信輔(司会)
チンパンジー社会における攻撃性や逸脱行動についての、中村報告。精神障害と責任能力について司法精神医学の立場から論じる、中谷報告。倫理の存在論的/認知論的基盤を自在に論じる、永井報告。これらは言わば、科学と社会において「悪」の現象がピラミッドのように尖鋭化したピークにあたる問題群です。それらを一覧したとき、基底に横たわる共通構造とは何でしょうか。またそうした「悪」の構造から逆照射される、「善」の新しい姿形とは。3人のゲストに監修者2人も絡み、忌憚のない討論で掘り下げます。
                                           
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