2001
 

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ルネッサンス ジェネレーション <未来身体>2001
[変身願望] 21世紀、ヒトはどう変身してゆくのか。
 

会期:2001年11月10日(土)
会場:草月ホール

*終了しました。

 


<第1部:対論>


対論1:瀬名秀明×下條信輔
「ミトコンドリア、キメイラ、ブレイン」


成長の過程で蝶やザリガニは脱皮し、オタマジャクシはカエルへと変態します。彼らはなぜそのような複雑な成長過程をとるのでしょう。進化の上で何らかの意味があるのでしょうか。そもそも、1個の受精卵の分割からはじまる手足や内臓、神経系の分化は、すべていわば変身の過程に他なりません。そのことを考えれば、このような例は発生生物学では常態であって、決して例外ではないことがわかります。そればかりではありません。からだの分化を起動する遺伝子の解明。性を決める染色体の組み合わせメカニズム。異種の、あるいは異なる個体の遺伝子移植によるキメラ動物。変異や老化にも関与するといわれるミトコンドリアが、元来は細胞に寄生するバクテリアだったのではないかという奇怪な仮説(「パラサイト・イヴ」の悪夢は、ここから紡ぎ出されました)。生命科学の最前線は、すでに私たちの想像力を超えようとしているのです。
分子生物学の専門家でありバイオホラー作家でもある瀬名氏とともに、発生と進化の関わり、DNAやミトコンドリアの働きをはじめ、生物学的な意味での「変身」と真正の「奇譚」を検証し、さらに身体・脳・想像力、生命科学の危険性と倫理、生と死の究極の謎までを、縦横に論じます。

●瀬名秀明 Hideaki SENA 作家/薬学博士

1968年静岡県生まれ。1990年東北大学薬学部卒業後、93年同大学院薬学研究科修士課程修了、96年同博士課程修了。翌年より宮城大学看護学部講師を務める。現在は日本医科大学講師(兼任)など。また在学中より小説の執筆も手がけ、95年『パラサイト・イヴ』で第2回ホラー小説大賞受賞(この作品はその後映画化やプレステのゲーム化もなされた)。98年には『BRAIN VALLEY』で第19回日本SF大賞受賞。科学と文学の最前線を縦横に行き来する「21世紀型創造者」である。その他の著作に『ロボット21世紀』『八月の博物館』『ミトコンドリアと生きる』(共著)『「神」に迫るサイエンス−BRAIN VALLEY研究序説』(監修・共著)などがある。
http://www.asahi-net.or.jp/~fx2h-szk/i/top.index.html

対論2:鷲田清一×下條信輔
「意識の皮膚:ファッションの哲学」


人はあくなき執念を持って、自分のからだを加工します。単に化粧や衣服といった狭い意味にとどまらず、仮面、入れ墨、ピアス、ダイエットとエステ、整形手術、ボディビル等々。美しく、かっこいいからだが欲しいから、というのは、とりあえず事実でしょう。しかしそれにしても、執念深すぎはしないでしょうか。そこには、<私のからだ>の一種異様な捉え難さと強迫的な不安が、介在しているようです。衣服をまとい装うことは、他者の視線に人工の皮膚を晒し、その視線を介して自己のりんかくを鮮明にする作業に他なりません。つまり<私のからだ>とは、私の自意識のありように他ならないのです。そしてどうやら私たちは、そのように変身への願望をてことして、自己を定義し確認し続ける以外のあり方ができない、そういう存在であるらしいのです。
これらのことを前提として、しかし謎はむしろ深まります。衣服をまとい、化粧をするとき、<わたし>の心理的な境界はどのように変容するのか。裸が恥ずかしいのはなぜなのか。ではなぜ顔は特別なのか(「仮面」と「人格」の語源が同じなのは、偶然か)。どこまで加工すれば気がすむのか(身体改造に最終的な限界はあるのか)。好みがあり、流行りすたりがあるのはなぜなのか。『モードの迷宮』『最後のモード』などの著者である鷲田氏とともに、皮膚について心理学し、ファッションについて哲学します。

●鷲田清一 Kiyokazu WASHIDA 大阪大学教授/哲学者
1949年京都府生まれ。大阪大学大学院文学研究科教授。1972年京都大学文学部倫理学科卒業、77年同大学院文学研究科哲学博士課程修了。関西大学文学部哲学科講師、助教授、教授を経て、92年より大阪大学教授。フッサールとメルロ=ポンティの現象学をベースに、身体、人称、規範、所有、顔、モードなどの問題を論じるとともに、新聞・雑誌でファッション・美術批評もおこなう。89年には『分散する理性』『モードの 迷宮』でサントリー学芸賞、2000年『「聴く」ことの力─臨床哲学試論』 で第3回桑原武夫学芸賞受賞。近年は、看護・介護、教育など社会の臨床的な場面に哲学をとおしてかかわる〈臨床哲学〉のプロジェクトに取り組んでいる。主な著書に、『顔の現象学』(講談社学術文庫)、『「聴く」ことの力』(TBSブリタニカ)、『ひとはなぜ服を着るのか』(NHKライブラリー)、『ことばの顔』(中央公論新社)など。
http://bun70.let.osaka-u.ac.jp/washida.html

対論3:前田太郎×下條信輔
パラサイト・ヒューマン:サイボーグの見果てぬ夢


はじめに道具作りがありました(斧や杖)。それから環境そのものの加工がありました(住居)。早く走る夢を車として、空飛ぶ夢を飛行機として、実現しました。コンピュータによって、記憶と演算を道具化しました。最近では、バイオエンジニアリングの進歩によって、昆虫の動きを電極で制御するようなバイオロボティクスの試みすら現実化しています。しかしこれらはいずれも、人類の夢を実現すると同時にフラストレーションも増大させてきたはずです。なぜなら、こうした技術は夢をモノや道具として実現はしていても、より根源的な「変身願望」は満たしていないからです。
ただし、技術革新はもうすぐそこまできています。四肢の麻痺した患者の脳の活動を読み取って、義肢やロボットアームを動かす代行技術はその好例でしょうが、もっと直接的に、ロボティクスの技術を駆使してスーパーマン願望を満たそうとする計画もあります。服を着るように「ロボットを着て」、超人的な力や技術を発揮しようとする「ウエアラブル・ロボット」は、その代表格でしょう。その最新版、「パラサイト・ヒューマン」プロジェクトの旗手、前田氏をお招きして、何が究極の目的なのか、何が可能なのか、何が限界なのかを、徹底的に聞き出します。

●前田太郎 Taro MAEDA 東京大学大学院講師/工学博士
1965年兵庫県出身。東京大学大学大学院情報学環講師。1987年東京大学工学部卒業、同年、通産省工業技術院機械技術研究所入所。ロボット工学部バイオロボティクス課研究員を経て、92年東京大学先端技術研究センター助手、94年より同大学院工学系研究科助手、97年より同講師を務める。2000年より現職。人間の知覚特性とそのモデル化、神経回路網モデル、マシンインターフェイス、テレイグジスタンスなどの研究に従事する。
http://www.star.t.u-tokyo.ac.jp/~maeda/index-j.html



<第2部:パフォーマンス>

BIO-RG01
構成演出:タナカノリユキ
音楽:野口時男(サーティース) 衣装:ひびのこづえ ダンス:蹄ギガ、関根えりか



<第3部:バトルトーク>

バトルトーク:タナカノリユキ×下條信輔
「変身願望:夢と悪夢」


対論やパフォーマンスを振り返りながら、本日のプログラムを総括し、さらに創造力の翼を拡げます。たとえば、多重人格や偽装人格、拒食症の身体像のゆがみなど、精神病理の症例から、「未来身体」が占えるのか。情報のデジタル化は、アートの身体性までを変えるのか。今から半世紀後に、私たちの<からだ>はいったいどうなっているのだろう。遺伝子は? クローンは? ミュータントは? サイボーグは? モードは? 倫理は? そして、意識と自我は? 本プログラム初の、監修者二人によるバトルトークです。

<監修者プロフィール

タナカノリユキ/ Noriyuki TANAKA

アーティスト/アートディレクター/映像ディレクター 
1985年東京芸術大学大学院修了。脱領域の旗手としてグラフィック、空間造形、映像、パフォーマンスと、様々なビジュアル表現を駆使して活躍するビジュアルアーティスト。その身体から発する表現を様々なメディアに展開し、芸術と社会を結ぶ活動を行っている。
1989年個展『GOKAN』、1991年日比野克彦らとのグループ展『Xデパートメント』、1993年下條信輔とのコラボレーション『Explore Reality/現実の条件』など国内外での展覧会、アートプロジェクト、レクチャーなど多数。また、下條信輔との科学技術館常設展示『FOREST:遊び・創造・発見の森』のディレクション及びイリュージョンの部屋の制作、UA、ケンイシイ、ブラフマンなどのミュージッククリップ、CMの演出、ピーター・グリナウェイの映画『The Pillow Book』ではアジアロケの美術、ユニクロのクリエイティブディレクターとしても国際的に活躍している。
ADC、TDC他受賞多数。著書に『LAST DECADE 1989〜1999』(用美社)『PAGES』(光琳社出版)『タナカノリユキの仕事と周辺』(六耀社)CD-ROM『The Art of Clear Light』(デジタローグ)など。

下條信輔/ Shinsuke SHIMOJO
カリフォルニア工科大学教授/ 知覚心理学、認知脳科学、認知発達学
1955年東京生まれ。1978年東京大学文学部心理学科卒業後、1980年同大学院人文科学研究科修士課程、1986年同博士課程修了。この間、1981-85年マサチューセッツ工科大学留学、同研究員、同Ph.D.。1986-89年スミス・ケトルウェル視覚研究所(サンフランシスコ)ポス・ドク研究員。1989-97年東京大学助教授を経て、現在、カリフォルニア工科大学教授、NTTコミュニケーション科学研究所リサーチプロフェッサ兼任。
1993年タナカノリユキとのコラボレーション『Explore Reality/ 現実の条件』、1994年『VRエキスポ'94』出品展示、1995年科学技術館常設展示『FOREST:遊び・創造・発見の森』総括ディレクター、1999年『カンサスサイエンスシティ』出品展示を担当するなどその活動は、研究室内に止まらず多岐にわたる。「<意識>とは何だろうか」を中心とする一連の著作により、1999年、サントリー学芸賞受賞。
著書に『まなざしの誕生』(新曜社)『視覚の冒険』(産業図書)『サブリミナル・マインド』(中公新書)『<意識>とは何だろうか』(講談社新書)他、共著など多数。
http://neuro.caltech.edu/

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