アルミハウス・プロジェクト

環境・建築学部 建築系 建築学科担当 准教授 博士(工学)
建築アーカイヴス研究所研究員
宮下智裕

企業を下支えするのではなく、
対等な立場でのコラボレーション

産学連携というと、大学は基礎データを提供することで企業を下支えするというスタンスをとることが多いと思いますが、本プロジェクトではイニシアチブをとるのはあくまで大学側。学生は建築に関わるさまざまな分野の専門家を束ね、舵取りをする役割を担いました。企業人と学生が対等な立場でコラボレーションをする際、ポイントになってくるのは‘意識の差’を生じさせないこと。学生に意識の低さを感じた時点で企業のモチベーションは下がってしまうため、学生にはプロレベルの提案力・指導力が求められます。しかし、専門家集団を相手に、学生がすべての面でプロ並みの力を発揮するのは不可能。学生は‘常識にとらわれない自由な発想力’と‘時間をかけて集めた膨大なリサーチデータ’という、学生ならではの強みを生かすことで専門家集団と対等にわたりあいました。

経済活動に巻き込まれていない学生はしがらみがない分、発想が自由。そこにリサーチデータという裏づけが加われば、時にプロを唸らせる提案が可能になります。最初は企業人の厳しい意見に委縮していた学生も、提案や交渉を重ねるごとに「プロを驚かせてやろう!」という気概を持つようになり、教員として頼もしく思う場面もありました。この「プレゼン→対象者の意見を取り入れ再検討→再プレゼン」という流れは社会人になった際、企画をまかされれば誰もが経験するプロセス。それを短いスパンで繰り返し体験したわけですから、学生の精神力は驚くほどタフになり、企画を相手に理解してもらう交渉力もおのずと磨かれていきました。

エンジニアに必要なマクロを見てミクロを見る習慣

プロジェクトに参加された部長・役員クラスの方は普段、管理をされる立場だけあって視野が広く知識も豊富。意見をいただく際も総論から核論へと話が進むため、学生は視野を広く持つことの意義を実感できます。とかく技術力を極めることに集中し、視野が狭くなりがちなエンジニアの世界。企業人と話すことで‘環境面’‘汎用面’‘社会貢献面’などさまざまな観点から研究を見直す姿勢を学べたことは、将来、技術者になった際、大きな力になると思います。環境マインドという点でもやはり、ベースは広い視野で考えること。エコ住宅は完成した家だけでなく、生産過程や材料の輸送などトータルで環境に優しく、住む人の環境に配慮する力を引き出す必要があることを学びました。

本プロジェクトで、学生は外部との交流から、自分が学んでいる技術が社会のどのような場面で必要とされ、どう生かされるのかを実感し、そこから社会に貢献する使命感が生まれたように思います。夢を持つ上でも、キャリアデザインをする上でも基本となるのがこの使命感。学生が技術者としての使命感を持って社会に巣立てたことも、本プロジェクトの意義だと思います。