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ラーニングストラテジーを学ぶ 完全オンラインPBLコンペティション
Learning Strategy

About Learning Strategyラーニングストラテジーとは

田中孝治・浦 正広 編著(2020)
「学都圏“いしかわ”創成①ラーニングストラテジーを学ぶPBL構築への挑戦」より抜粋

ラーニングストラテジー

ラーニングストラテジーという用語が再び注目されるようになったのは、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン(*1)が著書「スキルの未来」(*2)(2017年発刊)において発表した「10年後(2030年)の需要が高いスキルと知識」のランキングにおいて、1位になったことの影響が大きいと思います。ラーニングストラテジーには、さまざまな解釈がありますが、ここでは、オズボーン氏の同書に基づき、

さまざまな状況において生じる問題に気づき、それを解決するために必要な知識や技能の学びを創出するスキル

と定義したいと思います(*3)。
しかしながら、ラーニングストラテジーを学習目標とするためには、この定義では抽象的過ぎます。そこで、私たちの取り組みでは、ラーニングストラテジーを、

①自己調整学習力
②経験学習力
③知識共創力
④環境適応力

の四つのスキルとして位置づけています。

①自己調整学習力

私たちは自己調整学習力を

学習者自らで目標・計画を設定し、課題遂行の過程を観察して、方略(援助要請を含む)や時間を管理し、その遂行に対して、自己評価や原因の分析を行う力

と定義したいと思います。
自己調整学習(self-regulated learning)とは、学習者自らが目標の達成に向けて学習過程に積極的に関与する学び方のことです。
自己調整学習研究の大家であるバリー・ジマーマンは、学習過程を三つの段階に分割し、取り組む課題を分析し価値を見定め目標を設定する「予見段階」、自身の学習活動を観察し管理する「遂行段階」、自己評価や結果の原因分析に基づき反応する「自己内省段階」が循環するモデルを提唱しました。(*4)このモデルから、課題に取り組んでいる最中の遂行段階だけでなく、課題に取り組む前の予見段階、課題に取り組んだ後の自己内省段階のそれぞれにおいて、学習者の積極的な関与が想定されていることが読み取れると思います。往々にして教授者は、課題遂行がスムーズに進行するように学習者の方略を計画し、遂行に対する評価を学習者が評価するよりも先に行ってしまいがちです。学習者の自己調整学習力を育てるためには、教授者には、学習者が自ら方略を計画する機会や遂行に対して自ら評価する機会を提供するなど、学習者自身が学習過程を調整するための活動を中心とした多面的な支援が求められることになります。

②経験学習力

私たちは経験学習力を

経験の振り返りを通して、自分なりの知識を構築する力

と定義したいと思います。
経験学習(experiential learning)という言葉も、自己調整学習と同じく学術的な専門用語です。
経験学習とは、経験を振り返り、振り返りから気づいたことを概念化する学び方と言えます。経験学習理論の提唱者であるデイヴィッド・コルブは、経験から知識を構築するプロセスに焦点を置いた経験学習サイクルのモデルを提唱しています。(*5)
このモデルでは、経験学習のプロセスとして、主体的な経験をする「具体的経験」、経験したことを振り返る「内省的観察」、そこからその経験以外にも使えるマイセオリーやマイルールといった個人の知をつくる「抽象的概念化」、次の経験に備えて、その個人の知を使う計画を立てる「能動的実験」といった四つの段階の循環を想定しています。
経験学習サイクルを転回させるためには、振り返りの習慣化が必要です。しかし多くの授業設計者が、価値のある経験を準備し、振り返りを学習活動の一部として配置しているにも関わらず、その多くが、抽象的概念化や能動的実験までの繋がりが意識されない設計がなされている現状がうかがえます。経験学習力を育てるためには、教授者には、それぞれの段階における学習支援とともに、段階の循環を意識した学習支援が求められることになります。

③知識共創力

私たちは知識共創力を

価値観や考え方の異なる他者との相互作用の中で、両者が誰も持っていなかった考え・理解・概念などを、対話を通じて創発する力

と定義したいと思います。(*6)
この知識共創力の中核をなすのが、相手に自分の意見を論理的に説明することや、相手の意見の意図を正しく理解するために相手の思考を正確に推測することという適応的メタ認知スキルです。メタ認知が、自身の認知過程、つまり、内的世界の文脈に対する認知であるのに対して、適応的メタ認知は、他者や状況に開かれた外的世界の文脈に対する認知であると捉えられています。(*7)
現代社会において生じる曖昧性をはらむ問題に対する課題解決の多くは、他者との協働によってなされています。この協働の過程において適応的メタ認知スキルが発揮されています。教授者には、曖昧性をはらんだ真の問題解決場面を設定するなど、他者との対話のなかで、価値観、知識、ものの考え方の違いから生じる対立・葛藤を経験するような支援が求められることになります。

④環境適応力

私たちは環境適応力を

学習環境の利点・欠点を知り、学習環境に適応した学びを遂行する、もしくは、学習環境を変更する力

と定義したいと思います。
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、多くの学生がオンライン教育やオンデマンド教育といった、新たな学習環境での学びを余儀なくされました。このような状況における学習者の反応は、新たな学習環境を拒絶する者、新たな学習環境を能動的な解釈や把握なしに受け入れる者、新たな学習環境の利点や欠点を分析したうえでそれに適応しようとした者、新たな学習環境の利点や欠点を分析し適応しつつも学習環境を創り出そうとした者に分類することできます。これは、教育に関する名著を数多く世に送り出した心理学者のジェローム・ブルーナーの、学習者の四分類に通ずるところがあるものです。
この先も技術開発(ポジティブな事象)によって学習環境の変化が訪れることが予想されます。また、学習環境の変化は、社会的な要因だけではありません。たとえば、高校から大学への移行や大学から企業への移行といった空間的な要因でも、学習環境の変化は生じます。生涯に渡って自身で学び続けられるようになるためには、これらの変化に適応できる学習者になることが求められます。そのため、教授者には、新旧の学習環境の利点や欠点を分析的に解釈させるような支援が求められることになります。

*1 同氏は、「雇用の未来」(2013年発刊)でAI(人工知能)によって、10年後には今ある職種の半数がなくなると予測したことで世界に衝撃を与えた。
*2 Bakhshi, H., Downing, J. M., Osborne, M. A., & Schneider, P. (2017). The future of skills: Employment in 2030. Pearson.
*3 ラーニングストラテジー(学習方略)は、学習内容の処理方法に関する「認知的方略」と、自身の認知・情動・動機づけの状態の把握・調整方法に関する「メタ認知的方略」に大別することができます。どちらの学習方略も学ぶべき重要な方略ですが、私たちは、自身の学びを高次の視点から観察することが必要であることから学ぶことが難しいとされる「メタ認知的方略」の学びに注目しています。
*4 Zimmerman, B. J., Moylan, A. R. (2009). Self-regulation: Where metacognition and motivation intersect. In Hacker, D. J. et al. (Eds.). Handbook of metacognition in education(pp.311-328) NY, Routledge.
*5 Kolb, D. A. (1984). Experiential Learning: Experience as the Source of Learning and Development. Prentice Hall, New Jersey.
*6 田中孝治・陳巍・ダムヒョウチ・小林重人・橋本敬・池田満(2018).知識共創力を高めるメタ認知スキルの学び方の学び―議論のファシリテーションを通じた経験学習― 電子情報通信学会論文誌D,101,830-842.
*7 丸野俊一(2007).適応的メタ認知スキルをどう育むのか 心理学評論,50,341-355.