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事業概要

本学は,1995年以来6次にわたる教育改革を行い,「高邁な人間形成」「深遠な技術革新」「雄大な産学協同」の建学綱領の下,「自ら考え行動する技術者の育成」に努めています。2016年度には,従来の改革を発展させた方針として「世代・分野・文化を超えた共創教育」の実現を掲げ,学びの場に社会人が共学者として参画することに加えて,産業界やグローバルな社会との結びつきを強く意識した,学科横断型の教育システムの構築にも取り組んでいます。

一方,現在Society5.0と呼ばれる,サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムによって,経済の発展と様々な社会的課題を解決する社会が急速に実現されつつあります。このSociety5.0では,AIを代表とするような情報技術と複数の分野の科学技術が融合することによって,新たな価値の提案や社会の変革がもたらされることが期待されています。

このような背景の下,本学はSociety5.0をリードする人材,即ち「高度な情報技術と複数の専門分野の知識と実践的スキルによって社会で適切な価値を創出できる人材」の育成を目指します。具体的には,①全学的な情報技術教育の導入,②6年制メジャー・マイナー制度の導入,③社会実装を実現する深い産学官連携からなる教育改革を達成することで,ここで設定した人材の育成を早急に実現したいと考えています。

Society5.0人材育成のための枠組み

事業計画の具体的な内容

1 教育内容の構築に向けた計画

① 全学的な情報技術教育の導入について


全学的な情報技術教育の導入

本事業では,先ず「全学的な情報技術教育の導入」を実現するために, 1年次に「ICT基礎」,「IoT基礎」,「AI基礎」の3つの情報基礎科目を導入します。加えて,学部2年次~大学院2年次に「情報セキュリティ」科目群,「IoTとロボティクス」科目群,「AIとビッグデータ」科目群を導入します。

1年次の科目群は,これまで行われてきた情報教育を新しくする形で導入します。具体的には,統計に関する基礎的な知識と,プログラミング言語(Python等)を学ぶ科目として「ICT基礎」,Arduinoのような電子デバイスを用いてセンサからのデータ群を取得する技術を学ぶ「IoT基礎」,得られたデータ群やWeb上にあるビッグデータを既存のAIツール(Watson APIなど)を使って解析する「AI基礎」の3科目を導入します。これらの3科目により,全ての学科の学生がSociety5.0に必要と考えられる基礎的な情報技術に関する知識とスキルを身に着けることが可能となります。

以上の基礎的な科目に加えて,本事業では大学間連携共同教育推進事業で構築した教育プログラムをAI,セキュリティの分野に拡張する形で,応用的な科目群を提供します。具体的には,「セキュリティ入門」「セキュリティ理論と応用」などからなる「情報セキュリティ」科目群,「スマート組込みシステム」「ロボティクス」 などからなる「IoTとロボティクス」科目群,「自然言語処理」「ビッグデータと深層学習」などからなる「AIとビッグデータ」科目群の3つの科目群を導入します。これらの科目群を各学生が,必要に応じて学ぶことによってSociety5.0に必要な知識とスキルを,オンデマンドで身に着けられるようにします。なお,社会実装の際に不可欠となる技術者倫理教育,技術マネジメント教育を発展・充実させて技術者教育のベースに位置づけます。

② 6年制メジャー・マイナー制度の導入

Society5.0をリードする人材は,1つの専門分野だけではなく,複数の専門分野の知識と実践的なスキルを身に着けている必要があります。このような高度な人材を育成するためには,これまでの学部4年,大学院2年の切り離された教育プログラムではなく,6年制のメジャー・マイナーからなる教育プログラムが必要になると考えられます。

本事業では,まず各学科において学部と大学院を接合した一貫コースを構築し,それぞれの一貫コースにおいて,これまで「サブメジャー制度」で用いられていた科目を中心に,新たに各コースが指定する6科目12単位を用意します。学生は自身のコースの単位取得に加えて,他のコースの指定された単位を取得することで,6年修了時にメジャー・マイナーが記された学位を取得することが可能となります。また,この枠組みを本学だけではなく他の大学にも拡張します。現段階では,金沢医科大学が提供する医学コースと金城大学が提供する看護学コース、リハビリテーションコースと連携することを計画しています。これらの連携を実現する際には,各大学と教育プログラムのすり合わせを行うと共に,遠隔での授業を実現するためにVRに関する技術も取り入れます。また将来的には,他の地域の大学との連携を進めていきます。

実施例として2018年度に既に,機械工学科と機械工学専攻の一貫コースに着手しています。このコースでは,1年次終了時の成績上位者に対して面談を実施し,一貫コースへの進級を促します。現段階では,一貫コースと一般コースのカリキュラムは同一ですが,一貫コースでは,一般コースと同じ科目であっても高度な応用問題に取り組みます。具体的には,本学シラバスに記載されている「理想的な達成度」と「標準的な達成度」の内,一貫コースでは「理想的な達成度」に焦点を当てた授業を行います。この際,授業で教える内容が一般コースに比べて大幅に増加するため,これまでも実施してきた反転授業のようなアクティブラーニングを更に取り入れています。また,既に構築されている学部ベースのマイナー科目群(現サブメジャー:6科目12単位)を履修することを強く推奨します。加えて,一貫コースでは,4年次通年科目である従来の「PDⅢ」の研究室の枠を取り払い,学際的研究,分野を超えた融合的プロジェクト活動を行い,また長期インターンシップ等をこの科目の活動として成績評価できる体制を準備しています。

現在,この機械工学科において学部大学院一貫コースを導入していますが,2018年度2年次生234名の内,約2割の43名がこのコースに参加している状況です。このことを踏まえ,本事業の必須指標である【開発を目指す学部・大学院連結プログラム履修者数】を,設定します。

年度 2019 2020 2021
学内 メジャー・マイナーコース 40名 80名 120名
学外 メジャー・マイナーコース 20名 40名

以上のようなメジャー・マイナーの6年制コースを構築後,近々に従来の縦型の専攻の教員配置ではなく,各専攻の教員から構成される「共創理工学専攻」を設立し,一つの大きな枠組みのプロジェクトを実現する,分野横断的な融合型専攻ともいえる新しい大学院システムの構築も目指します。

全学的な情報技術教育の導入

2 産業界との連携体制の構築に向けた計画

本事業では,「社会実装を実現する深い産学官連携」を実現するために,これまでの実績をベースとして,新たな2つの取り組みを実施します。具体的には,①実務家教員を媒介としたリカレント教育,②大学教育と社会の間の人材交流を実現します。

① 実務家教員を媒介としたリカレント教育

Society5.0をリードする人材を育成するためには,実際の現場で様々な問題に向き合い,新たな解決法を見出しているリアリティを持った実務家教員による教育が不可欠であると考えられます。本事業では,このような教員を定期的に受け入れるシステムを構築します。

産学官の連携の下で,種々の成果を実効性ある社会実装へとつなげるためには,従前の技術中心の視点に加えて,人間中心,顧客中心の視点を持つことが必要であり,その際,Society5.0では人間由来の様々なデータを複眼的に解析するデータサイエンスの技術が不可欠であると考えられます。このような視点やスキルを有する実務家教員には,「共創型」教育の成果を実のあるものにするために,企業でのマネジメント経験を生かしてアクティブラーニング科目などを担当してもらい,学生の実践力を高めるためのコンサルティングを行ってもらいます。これまでも「世代・分野・文化を超えた共創教育」では,実務家教員を含めた複数の背景と専門性の異なる教員によって,学生に対する指導を行っています。本事業では,この枠組みを拡張・充実する形で実務家教員による教育を実現します。

実務家教員は,基本的に任期付きの採用とすることを計画しています。任期後は所属企業に戻り,教員として実施した学生指導や隣接領域との協働の経験を活かして,企業における新たな価値創造に貢献するイノベータとして活躍することを期待します。その上で,さらに数年後には再び実務家教員として大学に戻り,新たな問題意識のもとで学生指導にあたるといった,企業と大学の密接な関係に基づくエコシステムの構築と運用を実現します。このように大学と社会を行き来するような人材を媒介として,大学と企業,双方におけるイノベーションが生まれることが期待されます。

② 大学教育と社会の間の人材交流

Society5.0をリードする人材は,社会にある問題や課題を深く理解している必要があります。このような人材を育成するためには,学生が早い段階から社会に出ていく仕組みが必要となります。これを実現するために,オンキャンパスインターンシップを一部の科目だけでなく,複数の専門科目にも拡充します。学部1年次から継続的に実施されるPBL科目である「プロジェクトデザイン教育」では,企業や行政からのテーマを受け入れ,企業担当者の指導を継続的に受けながらプロジェクトを推進します。また2年次,3年次に多く開講される専門基礎科目の一部でもオンキャンパスインターンシップを中心とした企業との連携を実施します。加えて,各種のインターンシップの充実と,課外活動プロジェクトにおける地域連携の発展を図ります。そこでは「CDIO」に基づく実践力を身に付けることを目標に,企業や行政機関との協力のもとで現実の社会にある問題の解決を行います。

また,社会から大学に人を呼び込む仕組みとして「社会人共学者」受け入れについても,より幅広い領域で体系的な学びが可能なシステムに拡張します。これまで行ってきた倫理科目など,一般的な科目への一般市民の受け入れや,機械や電気といった工学基礎科目への産業現場で働く人の受け入れに加え,本学および連携する大学が持つ様々な専門領域(経営,バイオ,心理,医学,看護,リハビリテーションなど)の専門科目においても社会人が履修できるようにします。本事業では,以上のような教育プログラムを実現することで,工学と隣接分野の学際的な学びを可能にし,企業人としてのステップアップを実現すると共に,学生も早い段階から学際的な視野を持つことができると考えられます。

社会実装を実現する深い産学官連携

3 教員の教育業績評価制度の確立

本学は,社会での活躍を意識した実践的な教育を実現するために,教育専任教員や初年次教育担当教員を主として,論文実績や博士の学位を有さない実務家教員をこれまでに採用しています。本学に在籍している教員の内,企業等出身の教員の数,またそのうちの博士号取得者数を示していますが,先ず全体の60%以上の教員が企業等の出身者であることがわかります。その中で,専門教育を行う教員にあっては約93%の教員が博士号を取得し,最新の研究成果を教育に活かしながらも,工学教育を主とする教員には,半分程度の学位を有さない実務家教員が在籍していることがわかります。 本学で,このような教員の教育業績を測定する際,特に採用,昇任人事においては,

① 研究業績(学術論文,国際会議等)

② 教育業績(日本工学教育協会の「教育士」の取得,本学発行の教育論文誌KIT PROGRESS誌への投稿)

③ 社会貢献・学事貢献(学会活動,各種委員等)

④ 国際交流(海外学術交流,調査活動)

の観点から評価する体制を構築しています。以上の評価項目は,いわゆる専門分野に特化したものではなく,「学際的な研究」「教育活動に対する取り組み」「各プロジェクトの成果発表」なども対象としており,実務家教員の教育業績も評価できるため,そのような教員の教育に対するモチベーション向上にも繋がっています。このように本学では,実務家教員の採用について,これまでも取り組みを行っていますが,今後,定常的に実社会の課題についてリアルタイムに解決するプロセスを教授してもらうために,前項「①実務家教員を媒介としたリカレント教育」で示した,企業からある一定期間,本学で教員として勤務し,その後,企業に戻るような形態の実務家教員を採用します。このような教員を評価するために,本事業では上記の評価システムを拡張して,以下のような評価システムを構築します。

全教員数,博士号取得者,企業経験者の内訳

全体 332名 うち博士
249(75.0%)
企業経験者 203 61.1%
(企業経験者のうち博士) 161 79.3%

教養科目担当教員数,博士号取得者,企業経験者の内訳

教養担当教員 60名 うち博士
31(51.7%)
企業経験者 37 61.7%
(企業経験者のうち博士) 19 51.4%

専門科目担当教員数,博士号取得者,企業経験者の内訳

専門担当教員 194名 うち博士
180(92.8%)
企業経験者 132 68.0%
(企業経験者のうち博士) 120 90.9%

先ず,実務家教員が勤務期間に達成する目標を設定し,その評価を行うためのルーブリックを作成します。具体的には,Society5.0をリードする人材を育成するための活動を評価する,以下の項目からなるものとします。

①学生活動の支援(学生からの評価,表彰,地域,社会からの支援実績など)
②社会実装の内容(教員単独,学生プロジェクト,協働プロジェクトの成果など)
③社会実装のためのネットワークの構築(人材,資材,資金に関するネットワークなど)
④その他(学長が認めた活動成果など)

これらの項目からなるルーブリックに基づき,実務家教員の教育業績評価はこれまでの教員と比べて,教育活動を中心に評価できるように重み付けを行い評価します。具体的な評価システムは,後述する教育業績評価WGで構築しますが,実務家教員を雇用する際には予め評価指標を説明し,相互に理解した後に教育にあたることとします。

通常採用教員と実務家教員の評価指標と重み付け

指標 通常採用教員 実務家教員 摘要
研究業績 学術論文,国際会議等
教育業績 KIT PROGRESS誌への投稿等
学生活動の支援 学生からの評価等
社会実装の内容 学生プロジェクトの成果等
ネットワークの構築 人材ネットワークの構築等

最重要, ◯重要, △普通