気体中の電気の伝導
1903年
ジョゼフ・ジョン・トムソン(1856-1940)
 トムソンは、マンチェスターのオウエンス大学(後のマンチェスター大学)に14才の時入学し、後に奨励金を得て、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに転じ、1876年卒業後はケンブリッジ大学の様々な職を経て、1884年にキャヴェンディッシュ記念実験物理学講座の教授となりました。彼は所長として、キャヴェンディッシュ研究所を強力な実験研究所につくり上げた人です。1919年、彼が引退した時、後を継いだのが彼の学生であったE・ラザフォードでした。
 トムソンはマクスウェルの電磁気学を研究し、特に陰極線の性質を研究し、陰極線は電磁波とは異なったものである事を確信していました。彼は、磁界の中で陰極線が曲がることを確かめたクルックスと同様、この線は帯電した粒子の流れではないかと考え、それならば、この粒子の流れは、電界内でも曲がる筈として、研究を続けました。1897年4月29日、トムソンはこれまで物質界の最小基本粒子と見なされてきた原子理論に終止符を打つと同時に電子の発見を宣言したのでした(彼自身は電子、エレクトロンという語は用いませんでしたが)。彼は高度の真空管をつくり、金属電極から陰極線の細い放射を発生させ、電圧をかけた二枚のプレートの間をくぐらせ、この線がプレートの電界によって曲がる事を示し、その事によって同時に粒子の電気的性質-マイナス荷電の粒子である事を証明したのでした。トムソンはこのマイナスの粒子は原子からプラスに荷電された原子核を後に残してたたき出されたものであると結論し、その粒子は原子の1/1000しかない小さな粒子である事を示したのでした。本書は、その歴史的実験と結果の詳細な考察を初めて公表したものです。