電磁気の熱効果について
1843年
ジェイムズ・プレスコット・ジュール(1818-1889)
 ジュールはイギリス、ランカシャ州の富裕な造り酒屋(ビール醸造業)の家に生まれ、父の跡を継いで一生ビール醸造と販売に携わりました。従って、学校や大学などでの学術的な教育は受けなかったのですが、幼少の頃から自然科学に興味を持ち、父親がそのビール工場の近くに建ててくれた実験室で、様々な実験を行って、科学をいわば独習したのでした。ハイティーンの頃には、電動モーターの能率改善に興味を持ち、その過程でモーターから発生する熱の現象に持ち、その測定を行って論文を書きました。その後も、一般に電流が導体の中を流れる時に発生する熱の問題に関して研究を続け、21才の時(1840年)、電流の大きさと、導体の電気抵抗の大きさと発生する熱の量との間に一定の単純な関係がある事を発見し、それをこの論文で初めて発表したのです。
 この関係とは、電流によって発生する熱の大きさは、流れる電流の大きさ(I)の自乗と導体の電気抵抗の大きさ(R)に比例する(つまりI2R)というものでした。これが現在「ジュールの法則」と呼ばれている法則ですが、この論文で彼は更に、電池により発生させた電流(直流)だけでなく、電磁誘導による電流(交流)でも、この法則があてはまることを実験で示しています。更に重要なことは、例えば強い圧力をかけられた水や圧縮空気が細い管の中を通る時なども同様に熱が発生し、従って水や空気の運動が熱に変化するのではないかと述べ、更に進んで、力学的な仕事の量と発生する熱の間の関係をも発見し、772 フィート×ポンド(本当は 778フィート・ポンドだったのですが)の仕事が1ポンドの水を1°F上昇させる熱量に等しい事を立証したのです。
 この事によって、これら電気的な仕事、力学的な仕事、従って運動も熱も相互に交換出来るものであり、従って「エネルギー」という概念に熱も含ませ、事実上新しい「エネルギー」概念を創始したのです(エネルギーという語は、スコットランドの技術、ランキンの造語ですが)(現代風に言うと、1カロリーの熱を発生させるには41,800,000エルグの仕事が必要ということです)。現在では、この事は「熱の仕事当量」と呼ばれていますが、彼の業績を記念して、仕事の単位を1ジュール(一千万エルグ)と呼んでいます(1カロリー=4.18ジュール)つまりジュールは熱力学の第一法則を確立したことになります。
 彼は更に研究を続け、1849年にこの問題についての更に詳細な論文を発表しますが、これがW.トムソン(後のケルヴィン卿)の目にとまり、彼の支持で、学界に属していなかったジュールの研究は広く学界に認められることになったのでした。1852年以降はトムソンと共に研究を続け、気体膨張の際に温度が低下する現象を調べ、それを1862年、「ジュール=トムソン(或いはジュール=ケルヴィン)効果」として発表しました。これは後に低温を創り出すのに役立ち、現在の私達が使っているクーラーや冷蔵庫もこの効果に基づいているわけです。以前、カルノによって示唆されジュールによって発見された熱と仕事の変換の事実は、後にヘルムホルツによってエネルギーの総ての形に関して明確に定式化され、「エネルギー恒存則」または「エネルギー保存則」と呼ばれる法則となったのです。ジュールは科学者として広く尊敬を受け、数々の学者的な栄誉も受けましたが、造り酒屋をやめる事はせず、生涯どこの大学にも属さなかったのでした。