電気の実験的研究
1839年
マイケル・ファラデー(1791-1867)
 マイケル・ファラデーが、全時代の科学史を通じて最大の実験科学者であることは疑う余地がないでしょう。その貧しい生れにもかかわらず、科学に強烈な興味を抱いて独学で勉強し、製本屋に年季奉公をしてその費用をまかないました。そこでは店へ持ち込まれる多くの科学書を手にすることができ、それを読んで勉強したのです。その後、ファラデーはイギリスの代表的化学者であり、王立協会会長となったデーヴィの個人的助手になることができました。こうしてファラデーはデーヴィの弟子の一人として、また王立研究所助手として化学の研究生活に入る事が出来ました。ファラデーはデーヴィの方法を勉強しながら、「電解」、「電解質」、「電極」、「陽極」、「陰極」、「陰イオン」、「陽イオン」などの用語を作っています。さらに、気体の液化やベンゼンの発見など幾つかの大きな功績をあげているほか、その電気化学の研究においてデーヴィを受けつぎその分野に大きな発展をもたらしました。
 電気化学におけるファラデーの最も大きな功績は「ファラデーの法則」として知られる電解の法則を確立したことです。この法則によれば、電極に析出するものの重量は電解質を流れた電気量に比例します。また一定の電気量によって析出した物質の重量はその元素の原子量に比例し、その原子価に反比例します。この発見によってファラデーは、近代電気化学の基礎を作ったので、電解の際の電気量を測る単位にはこの法則の発見の名誉にちなんでファラデーという名が付けられています。
 磁針が電流によって回転するというエルステッドの発見に刺激されたファラデーは、もう一つ、電磁誘導の発見とその応用という重要な事を発見する功績を挙げました。電流が磁力を生じるという事実をふまえて、ファラデーは電線に電流を流すと電線が固定磁石のまわりを廻転する装置を考案しました。一方、固定した電線に電流を流すと磁石が回転することも見つけました。このようにしてファラデーは電気力や磁気力を機械力に変えることに成功したのです。すなわち電動モーターを発明したことになります。
 続いて、これとは反対に磁力から電流を作ることを企図しました。鉄の環のはなれた二つの部分にそれぞれ別の電線をコイル状に巻き、一方のコイルのみ電流を通す。するともとのコイルの電流を流したり切ったりする瞬間にのみ他のコイルの中にも電流が流れることを見い出しました。ファラデーは電流を流したり切ったりする瞬間に磁力線がコイルを横切る、その時に電流が発生するものと結論しました。こうしてファラデーは変圧器を発明し、このことによって力の場の理論を創始したのでした。
 次に、ファラデーは電磁石を使う代りに、導線コイルに棒磁石を押しこんだり抜き出したりすることによっても同じ結果を得ました。かくして、ファラデーは二つの磁石の間で円板を回転し、この回転円板から継続して連続した電流を取り出す装置を考案したのです。この装置はフランスの科学者アラゴが先に考案し、彼によるエルステッドの実験の応用に用いられてはいましたが、ファラデーはこれを完全に組みかえて、新しい工夫を加えたのでした。このことによって、ファラデーは電磁誘導を確立し、機械力を電力に変換し、継続的に電気を供給できる発電機を発明したのです。さらに、ファラデーは偏光が磁場によって影響されることを発見し、電磁場と光は密接な関係にあることを実験的に証明もしました。この考えは後年マクスウェルによって大きな進歩をとげることになります。  ファラデーは1824年王立協会の会員となり、上に述べた研究成果の多くのものをそこで講演し、協会の雑誌フィロソフィカル・トランズアクションに発表しました。
 本書はこれらの論文およびその他の論文を一緒に収めたファラデーの主著です。近代のすべての工業や技術はファラデーの研究があってこそ初めてあり得たと言ってもけっして過言ではないでしょう。