二種の電流の相互作用
1820年
アンドレ・マリー・アンペール(1775-1836)
 コペンハーゲン大学物理教授エルステッドは、ヴォルタの電池を用いて強い定常電流を取り出し、電流の流れている導線を磁針に近づけると、磁針がふれることを発見しました。電流を反対の方向に変えると磁針のふれも反対の方向になります。この実験によってエルステッドは磁気と電気とは密接な関係にあることを証明したのです。1820年パリの科学アカデミーで (アラゴによって) この発見が報告されると、理工科大学の数学教授であったアンペールはこれに感銘を受け、それまで彼の知らなかった電気の問題に興味を抱き、磁気と電流の間の正確な相関を決めようとして、すぐさまこの現象についての実験を行いました。そしてわずか二週間のうちに実験に成功し、その結果を本書の論文として科学アカデミーに報告したのです。
 この論文でアンペールは二つの電流の流れる導体の間で磁気が相互にどのように作用するかを研究したことを述べています。磁力が相互に引き合う時には、導体を通る電流は同じ方向に流れており、磁力が相互いに斥け合うときは電流は反対の方向に流れていることを見出しました。アンペールはさらに電流の流れているコイルの磁気的性質についても研究し、このコイルをソレノイドと名付けました。そして実験を数学的に解析し、現在アンペアの法則として知られるものにまとめ上げたのです。
 このように、アンペールは電気についての定量的方法を確立し、電磁気学および電気力学の分野を創始したのでした。さらにベクトルという方向を持つ量の概念を導入しました。これによって、彼はベクトル解析に至る方途を準備したのです。これらの研究業績を記念して電流の強さを測る単位を彼の名にちなんで「アンペア」と呼ぶようになったのでした。