化学哲学の新体系
1808年
ジョン・ドールトン(1766-1844)
 ドールトンはマンチェスターに住んでいたすぐれた科学者であり、化学の研究に転じる前に、1793年に行った気象学の優れた研究によって気象学の創始者の一人とされています。1799年にはその研究成果を補完する目的で一連の講演を行いましたが、後に1805年に出版されたこの一連の講演の中の一つで、彼の興味が化学へ移って行ったこと、化学結合についての新しい学説を提出したことを述べています。ドールトンはこの学説を緻密に発展させて体系的にまとめ、それを記述したのが本書です。
 ドールトンは化合物の分子は元素の粒子が結合したものであり、元素の粒子は簡単な重量比でのみ結合するものとしています。その結論は、すべての物質は、これ以上こわすことも、分けることも出来ない究極的な構成粒子から出来上っているというもので、ドールトンはこの究極の粒子を「原子」と名付けました。この名はギリシャ時代のデモクリトスの原子論 (アトムとは不可分のものの意) に従ったものです。ドールトンはまた、最も軽い元素と考えられていた水素の重量を基準として、各種の元素の原子の重量を測定した最初の人でした。そして各原子とそれらの結合を表すのに簡単な記号を用いることを提案しました。これは化学記号を使った最初のものだったのですが、この記号は間もなくベルセリウスが提案した記号に取って代られました。ベルセリウスのものが現在の化学記号の基礎となったのですが、これはドールトンの記号は文字でなく図形であって使いにくかったからです。
 本書の第一巻と第二巻はラヴォアジェの「化学要論」に匹敵する化学の古典となりました。 ドールトンの原子論はベルセリウスによって受け継がれ、発展させられて、近代物理化学の強固な基礎を作り上げたのでした。