電気と磁気についての研究
1785年
シャルル・オーギュスタン・ド・クーロン(1736-1806)
 クーロンは物理学と工学に大きな足跡を残した人で、その主要な研究分野は電磁気学、応用力学、摩擦の研究、ねじれの研究などです。彼はアングレームの名家の出身で、幼少時に家族のパリ移住に伴ってパリへ出、コレージュ・ド・マザラン、コレージュ・ド・フランスで教育を受けた後、工兵学校に入り、1761年陸軍工兵中尉として卒業、ブレストで軍務につきますが、1764年突然マルチニク島へ転勤を命ぜられ、そこで8年間、ブルボン城塞の設計と建設にあたります。激務で体をこわし、パリに戻りますが革命の近いことを知ってブロワに陰棲し、ナポレオンが権力を掌握した後、1802年にパリへ再び戻り公務につきました。
 彼の物理学者としての名声は早くから、その静力学と摩擦の研究で高まっていたのですが、何といっても、彼の名を不朽にしたものは、現在「クーロンの法則」と呼ばれている電・磁気力に関する法則を確立した事でしょう。彼は1777年に細い絹糸のねじれのバランスを利用して、1/ 100,000 グラムの微少な力の変化を測定できる「ねじればかり」を発明していましたが、このはかりを利用して、帯電した小球二個の間に働く引力や反撥力を測定しようと試みたのです。
 まず、大きなガラス管を垂直に立て、その中心軸に沿って絹糸を張ります。絹糸の中程に水平に( つまり糸に対して直角に)ワックスを塗った麦ワラをとり付け、その端に小球をとりつけ帯電させます。麦ワラの反対側には小球と同じ重量の重しをつけてバランスをとり、麦ワラを水平に保ちます。小球の位置で、管の外周に目盛を切っておきます。こうすれば小球が絹糸を軸として水平に回転した時の小球の動いた距離を正確に測ることが出来ます。そうして、管の中に、別の帯電した小球を入れて、麦ワラにとりつけた小球に近づけると、その間に働く電気による引力、または反発力によって、麦ワラにつけた球は移動するのでそれを目盛で読み、移動量を測定します。
 この装置を用いてクーロンは様々の異なった強さに帯電させた小球の間に働く力を測定する実験を繰り返して、結局帯電した小球の間に働く引力または反発力は「小球の帯電の強さ(電荷の大きさ)に比例し、小球間の距離の自乗に反比例する」というクーロンの法則を確立したのですが、この内容は重力(万有引力)の法則と同じでした。また彼は磁力においてもこの法則が妥当する事、同様の実験で確かめています。磁力に関しては既に1750年にジョン・ミッチェルが同様の事実を見出し、彼の「人工磁石についての論文」で発表していますが、クーロンがこの論文を読んでいたかどうかは明らかではありません。
 いずれにせよクーロンは極めて精密な測定で磁力のみならず、電気の機械的な力も重力の場合と同様の法則に従うことを実験的に証明したのでした。彼の名を記念する為、電荷の大きさの単位は現在クーロンと呼ばれています。彼は晩年に社会教育長官となり、現在のフランスの高等学校、リセのシステムを作り上げるのに貢献し、その死までその実現に努力しました。