空気と火の化学的論究
1777年
カール・ヴィルヘルム・シェーレ(1742-1786)
 ドイツ生れの薬剤師であったシェーレが十八世紀の化学の最高の実験科学者の一人であったことは疑う余地がありません。シェーレはストックホルムとウプサラで学び、シュウ酸、クエン酸、安息香酸、乳酸、尿酸、亜ヒ酸およびモリブデン酸などの多くの化学物質を発見しました。そしてまた、塩素、マンガン、バリウム、モリブデン、タングステン、窒素、酸素などの化学元素の発見にも功績がありました。しかし残念なことに、シェーレがこれら新元素の発見者であるという栄誉を得られなかったのは、その研究が完成していなかったという事のみならず、彼がその発見事実を他の研究者が同じ結果を発表するのに先立って発表しなかったことによります。
 シェーレの最大の功績は酸素の発見で、それは酸素の発見者とされているプリーストリの発見に先立つこと二年、1771年から1772年にかけてなされたものです。シェーレはこの発見と研究に用いた実験法を、1775年詳細な論文として書きましたが、1777年までは書物になりませんでした。これは出版者が無頓着であり、なまくらだったせいですが、出版された時は既にプリーストリが酸素の発見を公表した後だったのです。本書の中で、シェーレは空気は二種類の気体からできていて、その一つの気体は燃焼に必要なもので、もう一つのものは燃焼を妨げるもの(窒素)であると記載しています。更にこの燃焼に必要な「火の空気」はいろいろな物質に吸収されることを示し,この「火の空気」すなわち酸素は水銀の酸化物、マンガンの黒色酸化物や硝石などから人為的に分離できることを示しました。また塩化銀に太陽光線があたると黒くなることを研究しましたがこれは後に写真に利用されることになった現象に化学分析を試みた最初のものでした。この書物の英語版ならびにフランス語版は時々古書市場に現れる事がありますが、この初版本はきわめて稀で貴重なものです。