フィラデルフィアにおける電気に関する実験と観察
1751年
ベンジャミン・フランクリン(1706-1790)
 ベンジャミン・フランクリンはアメリカ合衆国の独立宣言の草案作成に参画し、また大陸会議の駐フランス大使でもあって、合衆国の創立者の一人といえるすぐれた人物でしたが、むしろ当時のヨーロッパでは、電気の研究によって自然科学者としてよく知られていました。実にフランクリンはアメリカ科学者として初めて国際的評価をかち得た人であったのです。本書はフランクリンの有名な「凧による実験」を含めた電気に関する実験報告の完全なセットで、極めて稀覯な書物です。第一部にはフランクリンの静電気を蓄電したライデンびんについての解析の実験、これらの研究に由来する電気一流体説(当時電気には一流体説と二流体説があった)が述べられています。フランクリンは電気は非物質的な流体の一種で、あらゆる物体に含まれていると考えました。それが過剰に存在するとその物体は「陽(プラス)」に帯電し、不足すると「陰(マイナス)」に帯電するというのです。この研究の過程でフランクリンは電気に関する基本的用語を少なくとも二十五個は作り、それを紹介しています。この中には「プラス」「マイナス」、「陽」「陰」、のような現在用いている用語も含まれています。この流体説は部分的には正しいものだったので、ファラデーが次の新しい学説を出すまで広く受け容れられていたのでした。
 第二部でフランクリンは雷についての研究を述べています。ライデンびんの中で起る電気火花(スパーク)と稲妻が同じものであると考え、これを1752年の有名な凧の実験で確めました。この実験でフランクリンは絹の糸に金属製の止め金を固定し凧につけて、これを雷雨の中に飛ばせました。稲妻の中で絹糸は空中電気によって帯電し、金属の止め金に指が触れたとき、火花が飛びました。この止め金をライデンびんにつないで蓄電させたのです。フランクリンはこの危険な実験から避雷針を1753年に発明し、これは合衆国全体に急速に広まりました。
 この研究を通じて、フランクリンは電気の理論的研究を進展させたばかりでなく応用電気学の分野、すなわち、現在電気工学として知られる分野を開拓したのでした。