無限解析入門(序説)
1748年
レオンハルト・オイラー(1707-1783)
 オイラーは18世紀の数学に於ける、正に巨人であり、また驚異的に多産な学者でした。彼の生前に出版された著書や論文の総数は約 560点で、未刊のものを含めると、その数は 856点にのぼります。加えて彼は当時の優れた学者達と様々な問題について1726通もの、おびただしい手紙を書き、その中でもしばしば重要な発見を行っているのです。「人が呼吸する様に容易に計算した」といわれるオイラーはまた、数学のみならず、流体力学、天文学、光学、電気学についても研究した多彩な才能を持った人でした。
 彼は数学の全分野にわたって研究し、夫々の分野を確実に進歩させたのですが、最も顕著な業績はやはり、解析学を確立した事でしょう。当時から彼は「解析学の化身」と呼ばれ、また解析的手法を天文学や物理学に応用することによって、応用数学の分野を発展させて、自然科学の研自体を促進したのです。例えば、ニュートンの様に、当時の力学的諸問題の解法は主として幾何学的方法によっていたのですが、彼はこれを解析的手法に置き換えた最初の人で、これによって力学の扱いが非常に明晰なものとなったのでした。
 本書は、18世紀半ばに於いて達成されていた解析学の成果(この内多くはオイラー自身によるものですが)を体系的にまとめた三部作(本書の他は「微分学原理」〔1755年〕と積分学原理〔1768ー70年〕) の内の最初のもので、解析学とはつまるところ関数論に帰着するということを初めて明確に宣言した書物です。彼は、関数の概念を徹底的に考察し、関数を変数と定数とで構成される解析的表現と定義し、現在一般的に用いられている関数の分類を与えています。そうして、代数的解析学、三角法、平面及び立体の解析幾何等の解析学の諸局面を論じ、対数を論じて、これを指数的に扱う近代的な方法を発展させています。
 本書を含めこの三部作は、出版後2/3世紀にわたって最良、最高のテキストブックとして数学志望の若い学者の必読書となりました。彼の確立した解析学は後、ラグランジュによって発展させられています。オイラーは数学の他の分野でも包括的な書物を書き、彼以後の数学者の巨大な教師となったのでした。オイラーは、このように偉大な数学者でしたが、バーゼル大学では、初めヘブライ語と神学を勉強していました。ところが、数学でヨーハンI・ベルヌーイに認められ、ダニエル・ベルヌーイの親友となりました。父親が神学を続ける様に求めた時、ベルヌーイ家の人々が父親を説得し、彼は数学者への道を歩んだのです。しかしバーゼル大学でポストを得る事が出来ず、ダニエルが見つけてくれた、ロシア・ペテルスブルグのアカデミーの生理学教授のポストにつき、後に数学部に転じ、そこの教授となり、旺盛な研究活動に入ります。1740年にドイツのベルリン・アカデミーに戻り、1766年に再びロシアへ戻り、そこで没しました。本書はベルリンで過ごした26年の間に書かれた 327点(!) 以上の著作のひとつです。