推測法
1713年
ヤコブ・ベルヌーイ(1654-1705)
 ヤコブ(ジャック)・ベルヌーイは十七世紀および十八世紀にかけて数学と物理学に大きな業績を残したベルヌーイ家の兄弟(弟はジャン・ベルヌーイ、甥はダニエル・ベルヌーイ)の中で最年長のひとで、最も秀でた人物でありました。デカルトを信奉し、ニュートン学派に属していて、ニュートンの思想をヨーロッパ中に拡めるのに功績のあった人です。この書物はニュートンの二項定理の初めての証明が書いてあります。ヤコブ・ベルヌーイはライプニッツの微分および積分学を研究し、これをより完全なものにし、1620年発表した等時線に関する論文の中で、「積分」という語を初めて用いています。しかし、彼の最大の業績は何といっても確率を計算する基本原理を作り上げたことにあります。
 この書物には確率の理論に関するベルヌーイの革命的ともいえる業績が記されています。彼以前のガリレオ、パスカル、ホイヘンス、ニュートンなどの研究では、確率論のアイデアはわずかに部分的に触れられているにすぎず、ベルヌーイの研究はこれを徹底的に全面的に取り扱った初めてのものでありました。この書物は四編から成っていて、第一編ではホイヘンスによって提起された問題を、独自の注釈をつけて再述し、第二編には確率を算定するのに用いた順列と組合わせに関する広汎な論議を、第三編には賭けごとやゲームにその確率論を使った場合のことを書いています。第四編は最も大切な部分だったのですが残念なことに未完のままに終わりました。この編には確率論を経済や倫理的な問題に応用することを書き、確率の関係するさまざまな分野における近代的な実践の基礎になる見積りをする方法を述べています。ベルヌーイは「回数を大きくする法則(大数の法則)」を提案しています。すなわちある現象の起る確率をきめるには、それを数多く繰り返して、その現象の現れる頻度を求めると、繰り返す数が多いほど相対頻度は正しい確率を示すというもので、これは現代の確率論の基本的原理になりました。
 さらに、この書物でフーリエが「ベルヌーイ数」と名付けた分数の級数を示しています。これは微積分のいろいろな部分できわめて重要なものです。この書物は著者の生前には完成せず、その甥のニコラス・ベルヌーイによって彼の死後に出版されたのでした。