液体の平衡及び空気の質量の測定についての論述
1663年
ブレーズ・パスカル(1623-1662)
 パスカルの哲学者としての名声は極めて高いものですが、それは、思想史上で最も深遠な人間性に関する考察といわれる彼の著書「パンセ」によるものです。ところが、パスカルはまた、その短かい生涯の前半期に、自然科学への偉大な業績をも残しているのです。実際彼は十六歳でペルゲのアポロニウスの円錐曲線論に関する秀れた論文を書いた程の神童でありました。
デカルトは、この論文の著者がたった十六歳の少年であることを信じなかったと言われています。パスカルは、その後確率論を研究し、今日の計算器械の前身である計算器を考案したことでも有名です。
 大気力学と水力学を扱った本書は物理学におけるパスカルの決定的に偉大な業績です。1646年に行われたトリチェリの気圧計を用いる実験を学び、教会の塔の頂上から地面に至るいろいろな高さのところで、二年間に亘ってこの実験を行いました。1648年、パスカルは、彼自身は虚弱でそのような実験は無理であったため、義理の兄弟に頼んでピュイ=ド=ドーム山に気圧計を携えて登り、様々な高度での水銀柱の高さのちがいを調べてもらいました。そして、山の麓から段々高くなるにつれて水銀柱は下がり、大気圧は減少することを確かめたのです。また、初めて気圧計の示数が天候の変化とどのように関連しているかを明らかにしました。この大気力学の研究は本書の後半部に記載されています。
 本書の前半には、今日、流体動力学の原理として知られている「パスカルの原理」が述べられています。それは、密閉容器中の流体は、その容器の形に関係なく、ある一点に受けた単位面積当りの圧力をそのままの強さで、流体の他のすべての部分に伝えるというものです。パイプによって連結された二つのピストンの間では、加えられた圧力と伝達される圧力とはそれぞれのピストンの断面積に比例し、ピストンの移動距離は各々の断面積に反比例します。すなわち圧力と距離の積はどちらのピストンについても等しい。これ以降、水力機械は総てこの法則に基いて製作されたのでした。パスカルはガリレオにつづいて近代流体動力学の基礎をこの研究でもって築いたのです。1653年にこの研究が完成した翌年の1654年、パスカルは、ジャンセニズムに帰依し、強烈な神秘体験を経て「決定的回心」をし、余生を宗教的思索に捧げのでした。