屈折光学
1611年
ヨハネス・ケプラー(1571-1630)
 ケプラーの最初の光学に関する著書「ウィテロの追加」は、革新的な成果を含んでいたにもかかわらず、あまり評判にならず、評価もされませんでした。しかし、彼の光学とその応用に対する興味はおとろえず更に研究を続けました。当然、彼は当時考察されていた望遠鏡を重視し、望遠鏡に関する最初の理論的著作であるポルタの「自然の魔術(1589年) 」を読み、ポルタの理論の不完全さを、彼が「ウィテロの追加」で発表した屈折その他の理論によって批判し、完全な望遠鏡の光学理論を打ち立てるべく努力を続けていたのです。そこへ、1610年、ガリレオが、最初の望遠鏡による天体観察の記録「星界の報告」を出版し、1冊をケプラーの意見を求めるために送って来ました。月の表面や木星の衛星の初めての観測結果はケプラーを興奮させ、直ちにガリレオに賞賛の手紙を送る一方、僅か六ケ月で、研究成果をまとめ、本書として、出版したのです。
 本書でケプラーは、薄いレンズを使用し、レンズ中心軸と屈折光のなす角度が、比較的小さい場合に適用し得る屈折理論の近似をさえ、それに基づいて、凹レンズと凸レンズの組み合わせによる従来のガリレオ式望遠鏡とは異なって、もっと高倍率の得られる対物、接眼レンズの双方に凸レンズを用いる天体望遠鏡の原理を示しています。本書は光学の厳密な数学的定式化と理論的革新によって、17世紀科学の最も重要な書物のひとつとなり、ホイヘンス、デカルトからニュートンに至る光学研究発展の基礎を与えたのでした。