磁石及び磁性体ならびに大磁石としての地球の生理学
1600年
ウィリアム・ギルバート(1544-1603)
 女王エリザベス一世の侍医であったウイリアム・ギルバートは、天然磁石の磁気について、およそ二十年にわたって研究を続けました。本書でギルバートは、磁石及び磁気に関しての既知の事実及び一般に言われていた全ての事柄を集め、そのひとつひとつを実験によって確かめています。彼は、真の科学的事実は実験と客観的観察によってのみ得られると主張し、近代において初めて実験を科学的方法として確立した人の一人でした。したがって、本書は、英国で出版された最初の傑出した科学書であるということにとどまらず、全ヨーロッパ的に見ても総合的な実験的研究を集約した最初の書物と言って良いでしょう。
 羅針盤の針が振れることは、古く1269年にペレグリヌスによって報告されていますが、ギルバートはこれを詳細に研究し、その途中で磁針の伏角にとりわけ興味を抱くようになりました。
 これはすでに1576年頃にロバート・ノーマンによって見つけられていた現象です。そこで彼は球形の天然磁石を作り、小さな針をいろいろな場所に立てて見て、そしてこの球状磁石の表面で旋回する針の様子を注意深く精細に観察しました。その結果、針の動きが、地球上のいろいろな場所での羅針盤(コンパス)の針の動きと、全く一致することを発見したのです。その結果、彼は地球自体が巨大な磁石であるという結論を下したのでした。
 ギルバートは、また、帯電体の研究をも手掛けました。彼自身が発明した最初の電気測定装置「エレクトロスコープ(検電器)」を使って、こはくの他にも、ガラス、硫黄或いは種々の宝石といった多くの物質が、毛皮との摩擦によって帯電し、引き合う力を持つようになることを確かめました。これらの研究によって、ギルバート以前には、ただカルダーノのみが気づいていたにすぎない概念、即ち磁石による引力と電気による引力の違いを、実験的に識別したのです。
 彼は、この研究から電気やその作用について用いる「電気の・エレクトリック」という形容詞を造語し、電気学(エレクトリシティ)を科学として独立させました。また、天体は相互に磁気による引力を持っていて、天体の運動はその磁気的性質に従うという仮説を立てました。
ギルバートの実験やその結果は数学的に証明されたものではありませんでしたが、彼の論文はそのすぐれた業績と方法論の両面から、後につづくベーコン、ケプラー、ガリレオ、ニュートン等の研究に、大きな影響を及ぼしたのでした。