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学修成果発表

金沢工業大学 情報フロンティア学部 経営情報学科 講師 北川 達也
金沢工業大学 経営情報学科 プロジェクトデザイン実践
江上 伊織 辻 弥 徳山 智紀 九野 圭美 中村 智弥 石橋 侑弥

本日はまず北川から、プロジェクトデザイン実践とはどういう取り組みをしているのかを簡単にお話ししたあと、学生から実際にどういう活動をしてきたかについて話してもらおうかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

「調査」「制作」「検証」の3フェーズで研究

まず、経営情報学科におけるプロジェクトデザイン(PD)の全体像とプロジェクトデザイン実践(PD実践)の位置づけについてお話しします。

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最初に1年生では、「PD入門」で問題発見から課題解決に至るプロセスの基本要素を学び、「PDⅠ」で学内における実際の問題発見・課題解決に取り組んでいます。2年生では学外の問題を扱う点に特徴がありまして、「PDⅡ」で解決策の企画、コンセプト作りまでを行ってから、「PD実践」では実際に企画をまとめて、試験的に実施して、解決策の有効性を検証しています。そのあとは2年生までのグループ活動の経験を踏まえて、3年生の「専門ゼミ」でテーマを見出し、4年生の「PDⅢ」で1人で卒業研究を行う流れになっています。

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「PD実践」の授業は、「調査」「制作」「検証」の3つのフェーズに分かれています。履修する学生はそれぞれのフェーズで報告書をまとめることを目標に活動しています。
その活動の大きな流れとして、まず仮説の立案段階を「調査」フェーズとして、社会にどのような課題があって、どのようなアプローチで解決するか、どういった目標を置くのか、どう検証していくのかを考えてもらいます。
そのあと、解決策の試験実施や検証作業に必要となるものを実際に「制作」します。経営情報学科ですから、イベント・ワークショップの実施マニュアルやVRコンテンツ、ポスター広告、動画といった成果物が主です。解決策の有効性や検証の実効性を高めるために、自分の持っている知識や少し勉強すれば使える技術、フリーソフトなど手近で活用できるツールを駆使して、何を作り出せるかをしっかり考えるように指導しています。頭の中で考えるだけでなく、実際に何かを具現化してアウトプットすることが重要です。アイデアを形にすることで、活動が具体的になり、活動へのモチベーションも高まることを期待しています。
最後にそれらの成果物などを活用しながら、「検証」活動に取り組みます。設定した目標は達成できたのか、解決策の有効性はどうだったのかを明らかにしていきます。

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「調査」や「制作」の段階で、課題の解決策を具体化する際に重要視しているのが、米国・スタンフォード大学がイノベーション創出に必要なツールとしてまとめたNABCの4つの視点です。「PD実践」の活動では、学生に自分たちの解決策に対して、この視点に照らすとどうなるのかを常に考えさせています。学生たちは何度も何度も嫌になるほど考えながら、自らの活動に向き合っています。
特に経営情報学科の「PD実践」では、学外調査を必須をしています。実際に課題が存在している地域を訪れて、そこで暮らす人々の生の声を聞くことによって、課題を的確に認識し、生きたニーズをつかむプロセスを最も重視しています。経営情報学科の学生は機械などの制作物を作る技術は学んでいなくても、有効性のある解決策の方向性やコンセプトについては、しっかり考えることができるはずです。私たち教員も学生にそのような人材になってほしいとの願いを込めて、「PD実践」の授業を設計しています。

学生が白山市のSDGs推進を目指す

これから、そのようなコンセプトの授業を受講して活動してきた学生の発表に移りますが、その前に彼らの活動のテーマに関わっている石川県白山市のSDGsアクションプランについて簡単にご説明したいと思います。

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白山市は平成30年、国連が定める「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成に向けた優れた取り組みを提案した自治体として、「SDGs未来都市」に選定されました。本学は同市とSDGs推進に向けた連携協定を結んでおり、「白山市SDGs未来都市計画」の策定などに協力しています。その未来都市計画を推進するために、解決すべき課題と実施するアクションを設定したものが、この「白山市の未来をつくるアクションプラン」です。 本日の学生の発表は、8つのアクションプランのうち、「ライフライングリーンコミュニティ」に焦点を当てたものとなっております。白山市の豊かな自然環境が併せ持つ災害リスクに対して、自然災害への防災意識を向上し、ハザードマップなどを活用しながら、災害に強い地域・コミュニティを作っていくことを目標とするプランです。
それでは、実際にこのアクションプランの実現を目標に課題を設定し、「PD実践」に取り組んできた学生に、その活動内容と成果を発表してもらいたいと思います。

地域の防災対策における課題を探る

こんにちは。プロジェクトチームを代表して発表させていただく江上です。よろしくお願いします。発表のタイトルは「大雪と地震の複合災害対策~Makingハザードマップ~」としました。私たちは「PDⅡ」「PD実践」を通して、アイデアの創出から実行、そのアイデアが本当に効果的であったかの検証に至るまでの活動に取り組んできました。

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私たちは8つのアクションプランの中から「ライフライングリーンコミュニティ」を選んで、中でも「防災」をテーマにすることを考えました。なぜ「防災」だったのかというと、白山市の地域特性を調べているうちに、海外で「大雪が降ったあとは、積雪が地盤に負荷を与えて、大地震を誘発する可能性が高くなる」との研究結果が出ていることを知ったからです。白山市は地震が少ない地域と言われていますが、積雪が多い以上、将来的に大地震が起こる危険性が否定できないのではないかと感じました。

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そこで白山市における自然災害発生の可能性について、ハザードマップを用いて調査してみました。白山市内の雪崩危険区域と地震による建物の全壊率が高い区域を調べたところ、鶴来地区でその両区域が多く重なっていて、災害発生時に大きな被害を受ける可能性が危惧されることが分かりました。

現状のハザードマップには問題点があります。100年に1度クラスの災害を想定しているために、それ以上の規模の災害発生が予想される近年では、作成時の想定が間に合わない事態がたびたび起こっています。

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また、こちらは白山市の実際のハザードマップですが、掲載する範囲が広過ぎて、見づらいことが分かるのではないでしょうか。避難所の場所もなかなか見つけられない分かりにくさは大きな問題点です。
そもそもハザードマップに対する一般住民の認知度も低く、平成27年の関東・東北豪雨におけるアンケートでは、災害発生時にハザードマップを「見ていない」と答えた人が94%、そのうち、ハザードマップに載っていた情報について「知らなかった」と答えた人が65%にも達していました。豪雨時に避難地区にいた人口と比べると、アンケートで「知らなかった」と回答した人の数は約60%。これを白山市に当てはめると、人口11万人のうち、ハザードマップの情報を認知していない人は66724人いると推定されます。

防災を楽しく学ぶイベントづくりへ

こうした人たちを災害から守るためには、一人一人の防災意識を高めていくしかないと考えて、実際の白山市民の防災意識について調査しました。白山市で開催している防災ワークショップは、参加者の多くが行政・防災関係者で、一般からの参加は極めて少ない状況でした。同世代の若者の声も聞こうと、120人の大学生に対して、白山市が開催している防災ワークショップに参加したいかどうか尋ねたところ、YESと答えたのはわずか3%しかいませんでした。これらの調査結果から、防災意識を高めるためのワークショップが、一般の人たちからは参加したいイベントとして認識されていない問題があることに気づきました。

ここまでのデータを踏まえた上で、私たちが危険だと考えている鶴来地区で現地調査を行いました。多くの方々に話を聞いて、災害対策における地域のニーズの数々を発見することができました。

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その中からいくつかの声をピックアップしました。観光協会役員のBさんは、地域の高齢者には「これまで目立った災害はなかったのだから、今後も特に対策は必要ない」と考える方が多いことから、「鶴来に住む人が災害時に無事であってほしい」と願っていました。百貨店を経営されているCさんは、一昨年の豪雪で建物が傾いてしまったことから、「災害に対する対策をもっと目に見える形でしてほしい」とおっしゃっていました。朝日小学校に通うA君は、これまでの防災ワークショップには興味が持てなかったそうですが、「楽しそうな防災訓練だったら、友達と一緒に参加してみたい」と答えてくれました。
こうして集めたニーズを検討した結果、私たちは防災ワークショップを楽しいイベントと組み合わせて、小学生をターゲットにした新しい防災イベントを企画する方向性でアプローチすることを決めました。

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そこで実際に私たちで企画したイベントを開催し、その結果を検証することにしました。検証の目的その1は、防災ワークショップで、子どもたちが楽しく、かつ本当に学ぶことができるかどうかを探ること。イベント時の小学生たちの様子や引率の先生からの評価を見て、終了後には子どもたち自身に感想を書いてもらいます。イベントのどの部分が楽しかったかについて、しっかりリサーチする必要があります。
目的その2は、ハザードマップを理解してもらうことができたか、それを使って避難できるようになったかを確認することです。これはイベント中にクイズを行って、その回答率や正答率などで検証します。子どもたちが楽しく学べるように、小学生が退屈しない内容のクイズを用意します。

小学生の学ぶ意欲を高める工夫の数々

以上のことを踏まえて、実際に昨年12月、朝日小学校の3年生に参加してもらって、実際にイベントを開催しました。

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まず、子どもたちとの顔合わせとなるオリエンテーションでは、私たちから自己紹介をして、イベントの目的を子どもたちにしっかりと説明しました。
ハザードマップを学ぶ前に、雪崩の恐ろしさが分かる動画を見せると、みんな前のめりになって注目して、その危険性を理解してくれました。そのあとハザードマップを使いながら、鶴来地区になぜ災害の危険があるかを伝えて、同時にハザードマップの使い方も知ってもらいました。

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ここで使ったハザードマップは、私たち自身が調査して作成したものです。鶴来地区をピンポイントに掲載することで、避難所の位置や区域ごとの色分けなども見やすくして、子どもにも分かりやすいハザードマップを目指しました。

次に、全員に防災ブックを配布して、表紙を描いたり、シールを貼ったりして、自分だけの冊子を作成してもらいました。
この冊子は緊急の避難時に使えると同時に、常日頃の防災対策にも活用できる内容を工夫して、小学生が大切に持ち歩いてくれるものを目指しました。

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1ページ目には災害への備えに関するチェックリストを作りました。イベントが終わって、子どもたちが家に帰ったあとで、親や周囲の大人と一緒に見直すことができるリストを作ることで、親子のつながりやコミュニティづくりに役立つようにしました。
2ページ目には、緊急時に使えるハザードマップを1ページに収めて、学んだことを書くメモ欄も設けておきました。
最後の3ページ目にある「自由に書いてみよう!」のコーナーと感想欄は、子どもたちがイベントの何が一番楽しかったかを調査するためのものです。さらに私たちとメッセージ交換する欄も設けて、このイベントの思い出を残してもらえるようにしました。サイズもランドセルに無理なく入る大きさにして、折れ曲がったり、しわくちゃにされないように配慮しています。

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防災ブックが完成したあと、全3問の復習クイズを実施しました。子どもたちが先ほどの学習内容を本当に理解できていたかどうかを確認するためのものでしたが、結果はご覧のような高い正答率となりました。

学んだ知識を現場で実践した避難訓練

さて、一般的な防災ワークショップでは、学んでクイズをしたところで終了していたかもしれません。しかし私たちのイベントでは、インプットした知識をアウトプットするために、実際に避難訓練を行いました。

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学校の外に出て、ハザードマップで避難ルートを確認しながら、避難を行いました。避難訓練のシチュエーションは「今いる朝日小学校の避難所に雪崩の危険性があるので、次の避難所である鶴来中学校まで移動しましょう」というリアリティのあるものを設定しました。さらにそのまま鶴来中学校に向かうのではなく、途中の金釼宮で「状況に変化が起こって、目的地に行けなくなってしまった」との想定で、子どもたちに次の行動を考えてもらいました。

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そのクイズの意図も子どもたちはしっかり理解してくれて、ハザードマップに自分たちで書き込みを加えながら新しい避難ルートを考えることができました。クイズを理解できましたかという質問に、「完璧にわかった」人が6名、「難しかったけど、最後に理解できた」人が2名と、参加者全員がハザードマップを使いこなせるようになっていました。

小学校に戻ったあと、最後に私たちが子どもたちへのメッセージを書き込んで、防災ブックを完成させました。子どもたちも何が楽しかったかを細かく書いてくれて、思わず予定の終了時刻をオーバーするほど、楽しい時間を過ごすことができました。

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それでは、今回のイベントの検証結果に移りたいと思います。

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まず、子どもたちが楽しく学ぶことができたかについては、防災ブックのメッセージ欄から、このような感想をもらうことができました。当日の子どもたちの様子や引率の先生の評価からも楽しく学ぶことができていたと感じます。
また、ハザードマップを使って避難することができるようになったかどうか。これも最初のクイズの正答率の高さに加えて、避難訓練中のクイズでの高い対応力などから、子どもたちに確かに学んでもらえたのではないでしょうか。
以上から、今回のイベントを通じて、小学生たちはハザードマップや災害、防災について楽しく学び、避難できるようになったと言えるでしょう。

3つのサイクルを回した主体的な学び体験

今後の課題としては、今回のイベントでハザードマップを使って考えた避難ルートや避難に対する考え方が、本当に問題ないのかについて、専門家などに確認を取る必要があるということでしょう。鶴来地区と同じ問題を抱える地区は、日本全国の至るところにあるはずです。ですから、私たちが試みた防災ワークショップのアイデアや方法は、誰でも簡単に取り組めるように裏付けしていく必要があると考えています。

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私たちは「PDⅡ」「PD実践」に取り組んだ1年間を通じて、「振り返り」「気づき」「行動」の3つのサイクルを回すことで、自分たちならではのアイデアを創出し、検証することができたと思います。
「振り返り」とは予習・復習のことになりますが、次の授業に向けて、e-シラバスなどで資料を確認し、事前にそれらを活用することで、授業で全員が集まってからの時間をフルに活用し、話し合いを迅速に進めることができました。
次の「気づき」では、授業で話し合った際に出た問題点や課題点を把握する上で、e-シラバスの自己点検機能などを使って、先生に相談し、アドバイスやフィードバックをもらうことで、次の「行動」に移るための「気づき」を得ることができました。
このサイクルを回し続けることで、白山市における防災の課題を発見して、解決のためのアイデアを創出し、イベントを実際に開催して、結果を検証するところまで形にできました。自分たち自身で学び、活動することの喜びが実感できた授業になったと感じています。

以上で発表を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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