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学修成果発表

京都市立京都工学院高校 プロジェクトゼミ
中村 健太郎 畑本 光毅 宮本 葵成 吉本 詩文

皆さん、こんにちは。これから京都市立京都工学院高校のプロジェクトゼミの内容と、僕たちの取り組んだことについて発表したいと思います。

グループで学び、「4つの力」を身に付ける

すでに校長先生が詳しく話してくださいましたが、最初にプロジェクトゼミについて、改めて生徒の観点から補足的に説明したいと思います。

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プロジェクトゼミは「課題発見解決型学習(PBL)」を通じて、「かかわる力」「学ぶ力」「伝える力」「見つめる力」の4つの力を身に付けることが目的です。授業では生徒同士でグループを作って、タブレットなどを活用した主体的な学びに取り組んでいます。PBLを土台として、グループ内でPDCAサイクルを繰り返しながら、課題の解決に向かいます。
授業スタイルは「学科・分野横断のチーム学習」となります。1年次の「プロジェクトZERO」はクラス単位の授業です。社会のSDGs推進の流れに合わせて、地域と連携したプロジェクト活動として、地域に出かけてのフィールドワークを行っています。2年次の「プロジェクトゼミⅠ」は、フロンティア理数科とプロジェクト工学科の生徒が一緒になって履修します。さまざまな専門分野で学ぶ生徒が一緒に意見を出し合うことで、幅広い視点からより良い意見が生まれています。3年次の「プロジェクトゼミⅡ」は、プロジェクト工学科の生徒だけでの授業になります。
昔の工業高校は職人的に1つの技能に特化した人材を育てていた傾向があり、当時はそれでも社会に求められましたが、今のように物事が加速度的に推移する社会においては、4つの力に代表される豊かな人間性を身に付けるために、主体的に学ぶことが必要になっています。そんな力を養うことがプロジェクトゼミの目的です。

ポイ捨て対策でペットボトル回収箱を開発

ここからは僕たちのグループが、プロジェクトゼミで取り組んできた内容について紹介します。まずはプロジェクトテーマとして、「景観・環境をデザインしよう」を選びました。そのテーマに沿って、課題発見のためのフィールドワークに出かけました。
課題を見つけた場所は、京都工学院高校からほど近い伏見稲荷大社でした。観光名所でもある伏見稲荷大社は、観光客や地域の方々など数多くの人が行き来する場所ですが、そこで僕たちが気になったのはゴミのポイ捨ての多さです。

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このようなポイ捨てがなぜ起きるかについて、みんなで話し合って、空き缶やペットボトル用の回収箱に、本来は捨ててはいけない種類のゴミが詰め込まれていることが問題ではないかと考えました。この状態を改善することは、僕たちのテーマである景観や環境のデザインにもつながります。さらに具体的な改善策を検討した結果、「ペットボトルの分別と陳列ができる新しい回収箱を作る」ことを思い付きました。

この課題は2年次の「プロジェクトゼミⅠ」と3年次の「プロジェクトゼミⅡ」の2年間にわたって取り組みました。2年次の活動では、ペットボトルの「分別」だけを考えていましたが、先生からのアドバイスもあって、3年次からはより多くのペットボトルが入るように、回収箱の中できれいに「陳列」させるためのアイデアも加えていきました。

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僕たちが最終的に完成させた試作品がこちらの回収箱です。京都の景観に配慮して茶色に塗ったり、初めて見る人でも使えるようにガイドをつけたりするなど、ここに至るまでに細かなバージョンアップを繰り返しました。 この回収箱のメインとなるアイデアがペットボトル挿入機構です。従来の回収箱はペットボトルとキャップをわざわざ分離しなくても捨てることができますが、僕たちはキャップを外さなければボトルを捨てられないようにしました。

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図のように回収箱の中に棒があり、ボトルを捨てるときは、②のようにキャップを外して中の棒に差し込みます。手を離すと、③のようにボトルの重さで棒が傾いて、ボトルは箱の底へと落下、ボトルがなくなった棒は元の水平状態に戻ります。この仕組みは日本庭園のししおどしを参考にしました。開発で最も時間がかかったのは、棒がうまく元に戻る重心の設定です。棒はアルミ製の直径18ミリ程度のパイプですが、ペットボトルの重さとのバランスをとりながら、どこに重心を置けば思った通りに動くか、何度も試行錯誤しました。

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ほかにもさまざまなアイデアを取り入れています。まず底部に傾斜板を設置することで、落ちてきたペットボトルの並ぶ方向が一定になるようにしました。箱の中のボトルを整列させることで、乱雑に入れたときよりも多くの本数が入る仕組みです。
ペットボトルの投入口には、ゴム製スリッドを取り付けました。スリットがガイドになって、ボトルを内部の棒に挿入しやすくなります。雨水の侵入も防いで、回収箱の内部の衛生状態を保てるほか、一般ゴミの投入も防止できます。
ほかにも、屋根の部分に傾斜を付けることで、ゴミや忘れ物が回収箱の上に置かれることを防いだり、扉の部分を透明にして、内部をすぐ確認できるようにするなど、ペットボトル以外のゴミや危険物を捨てにくくする対策を施しています。
この扉部分は当初はモーターとバッテリーで開ける仕組みを考えていました。しかし、「電気を必要とするのなら、エコとは言えないのではないか」との意見があり、エネルギーを使わない現在の方向性へとアイデアを変えていきました。

問題点を解決する新アイデアにも取り組む

この回収箱の最大の問題点は、外したキャップをペットボトル用の投入口にも入れることができてしまう点です。せっかく外してもらったのに、同じゴミ箱に捨てられてしまっては、キャップを分別した意味がなくなってしまいます。
そこで改善案として考えたのが、10円ガムのガチャガチャをヒントとした新しい機構のゴミ箱です。こちらの動画をご覧ください。上の穴がキャップの投入口で、フタの付いている下の穴がペットボトルの投入口です。中央のダイヤルを回すことで、フタを開けて捨てることができるようになっています。

ダイヤルは最初はうまく回すことができませんが、上の穴にキャップを入れると回るようになっていて、下の穴のフタが開いて、ペットボトルが捨てられるようになります。この機構を内側から見た動画もあります。

最初はストッパーがかかって回らないけれども、穴にキャップをセットすると、ストッパーが外れて回るようになっているのが分かると思います。

僕たちがこうしたペットボトル回収箱の改善案を考えてきたのは、ペットボトルのリサイクル効率の向上に貢献したいという思いからでした。リサイクルで作られるペットボトルの量が増えれば、原料から作られる量が減って、やがてはペットボトルのゴミ自体を減らしていくことができます。そこから最終的には、資源使用量の削減やゴミ焼却時に発生するCO2排出量の削減へとつなげていけたらと願っています。

ししおどしを参考にしたペットボトル回収箱は、僕たちの2年間の活動の集大成として、「2019パテントコンテスト」に応募しました。このコンテストは文部科学省と特許庁の主催で、全国の高校生や大学生などから発明を募集するもので、応募した発明が優秀賞に選ばれれば、特許出願に関わる費用を負担していただける特典があります。僕たちの回収箱は、724件もの応募の中から、見事に優秀賞を受賞することができました。すでに特許取得のための手続きに入っていて、実際に特許が認められることを楽しみにしています。

プロジェクト活動で得た力が財産

僕たちはプロジェクトゼミのPBLを通して、一人一人がそれぞれ大きなものを得ました。

まずはコミュニケーション能力が向上しました。課題を見つけて、解決案をグループで話し合う中で、自分の意見ばかりを主張するのではなく、周りの意見にも耳を傾けて、意見を高め合うことで、より良い解決案を見つけ出すことができました。
次に課題解決力も上がりました。グループ活動の当初は、課題が見つかっても、すぐには答えを出さずに、ゆっくり話し合おうとする傾向がありました。しかし、時間的な締め切りのあるパテントコンテストへの応募などにあたっては、LINEのグループで迅速に連絡を取り合って、写真を送り合ったりしながら、取り組んでいる課題に対して、解決案をスムーズに出せるようになりました。
主体性も身に付いたと思います。アクティブ・ラーニングでは、グループワークやタブレットを活用した調べ物などを経験して、自分から行動を起こしていく習慣ができました。
計画性の大切さも感じました。2年生では週3時間あったプロジェクトゼミの授業が、3年生で週2時間になると、活動に取り組む時間が足りなくなりました。そこから事前にその日の授業時間でやることを決めて、効率的に進めるようになり、計画を立てて物事を進める考え方を学びました。

活動を通しての苦労もありました。2年次のプロジェクトゼミでは、フロンティア理数科の生徒も合わせた約10人のグループで活動していましたが、やる気のある人とない人に分かれてしまって、グループ全体でまとまることが難しかった記憶があります。人数が多いと、全員で一緒に目標を達成しようとする意識は薄くなります。今後、大学や社会において、大人数のグループで活動することがあったら、やる気のないメンバーにどう協力してもらって、共通の目標に向かっていくかを考えていこうと思いました。これで終わります。ご清聴ありがとうございました。

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