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高大接続

金沢工業大学 修学基礎教育課程 准教授 木村 竜也

本学の「高大接続」に関する取り組みについて、ご報告させていただきます。初めに高大接続を推進する前提として、私たちが現状をどのように認識しているのかを説明させていただいて、それから実際に行っている「高大接続」の試みについてお話しします。

時代が求める「探究的な学び」への改革

文部科学省をはじめ、教育界全体で高大接続の重要性が指摘されるようになりました。現代は先行き不透明な時代と言われていて、これからの社会にどのような問題が起こるかはなかなか予測できません。今後もそういった時代が続くことを考えると、教育に携わる私たちは、次の世代のために、激しい変化に対応できる人材を育てなければならないと考えます。

特に求められつつあるのが、問題があることに気付いて、その問題を解決する力です。そうした変化を受けて、今、日本の教育界では、「探究的な学び」の必要性が訴えられています。これは与えられた問題の解決だけではなく、問題の発見から解決までを学びの過程とするスタイルで、文部科学省は「問題を発見し、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、プロセスを振り返って次の問題発見・解決につなげていくこと」を重視する学びであると説明しています。
しかし、このような学びのスタイルの大掛かりな変革を図るには、大学にせよ、小・中学校や高等学校にせよ、単一の校種の学校だけの取り組みでは、実現は難しいのではないかと感じます。

学習者主体の学びをルーブリックで評価

探究的な学びとして、本学が重視しているのが、PBL (Project-Based Learning)と呼ばれる学習方法です。学びにおいて、学習者の主体的な活動を最大限に重視します。もちろん、完全に任せてしまうわけではなく、教える側が導く部分もあるわけですが、それでも、どのような問題を解決するか、どのような方法で解決するか、どのような結論に持っていくかといった方向性は、学習者自身が決めていきます。
その学びは①生徒(学習者)が自ら生活の中から問題を設定する、②問題解決のための計画を立案する、③その計画を遂行する、④その計画によって得られた結果を評価する、という4つの過程を経ることになります。結果に対して、うまくできたのか、できなかったのか、どこができて、どこができなかったのかを評価したら、最初に戻って、計画を立て直すということを繰り返します。
こうしたPBLによる学びは、形が決まっていない非定型の学習活動と成果をもたらします。与えられた問題を解決する従来の学びでは、定型の答えがある場合が多いのですが、PBLのような学習スタイルでは、どのような結果になるか、どういう形で行われるのかは、学習者任せで決まった形がありません。こうした学びを評価するために必要となるのが、目的の達成レベルを段階的に評価するルーブリックの手法です。教える側が事前にルーブリックを設定することで、学びの中で達成したい目標、身に付けたい力の指針を示して、学習者と共有することができるからです

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高校、大学、社会を学びの軸でつなぐ

本学における高大接続は、そのような探究的な学びを軸とする取り組みです。従来は高校と大学が協定などを結んでいても、学びの具体的な連携までにはなかなかつながらなかったように思います。本学の取り組みもまだ発展途上ではありますが、発想としては、高校と大学、さらにその先にある社会全体が共に探究的な学びを重視する立場に立つことで、学びの連続性を作り出そうというものです。探究的な学びを高校と大学、社会をつなぐ軸として機能させます。
学びの連続性を作り出すことができれば、学生が高校から大学、大学から社会へと進むときにも、新しい環境にスムーズに移行できるようになるでしょう。もちろん、現状でも新入学生が大学生活に溶け込めるようにするなどの配慮はしていますが、高校との学び方や授業形式などの違いにとまどう部分がどうしても見受けられます。そうした垣根をできる限りなくしていくことを目指しています。それが実現すれば、学習者が高校から大学、社会にかけての学びを見通して、自分の成長におけるビジョンを描くこともできるのではないかと考えています。

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そのような発想の下、全国の高校や教育委員会をパートナーとして、さまざまな関わり方による高大接続の取り組みを進めています。例えば、京都工学院高校とは、高大接続の学びのためのルーブリックを共同開発しました。京都府立田辺高校とは、工業科におけるPBL支援として、授業の内容や形式を一緒に考えて、実際の授業のお手伝いをしたりしています。岡山県高等学校工業教育協会とは、PBLに関する研修を担当させていただきました。埼玉県立川越工業高校や金沢高校、大阪府教育委員会とは、今後の展開について話し合いを重ねているところです。

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「高大接続ルーブリック」を共同開発

高大接続ルーブリックは、本学のそうした活動から生まれた大きな成果の一つです。これは高校から大学、社会まで通して求められている「探究的な学び」の到達度をルーブリックで把握するものです。

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例えば、高校1年生までに身に付ける力の目標を決めて、そこに至るまでの成長の各段階を明示します。学習者がそれを常に振り返ってチェックすることで、自分が目標のどの当たりまで到達しているかを把握できるというわけです。
ただし、そのルーブリックの内容は、社会で求められる力に対応するため、かなり抽象度が高いものになり、各科目での到達度にそのまま当てはめることは困難です。そのため、社会で求められる力に対応したルーブリックをメタ・ルーブリックとして、その下に科目ごとに身に付けさせたい力に対応したチェックリスト(実施版ルーブリック)を作ることにしました。
図でご覧いただくと、メタ・ルーブリックは、社会で求められる力や学校全体または都道府県全体での教育目標に対応します。それに対して、チェックリストは学習者や教員が使いやすいものとして、各科目で身に付ける力や授業内の各課題などの狙いに対応させています。

これらの高大接続ルーブリックは実際に京都工学院高校と連携して作成し、本学の学生と京都工学院高の生徒に対して、それぞれルーブリックによる到達度の評価を行っています。結果の詳細な検証はまだこれからですが、高校生と大学生を比較したときに、能力ごとの得意不得意に似通った傾向も見られ、同じ工学系の学校として、学びの過程に共通点があることを感じました。

PBLのさらなる広がりを目指して

今後の課題としては、より教科横断的な視点による取り組みが必要ではないかと考えています。工業系の科目だけでなく、そこに関係する数学や理科、さらにそれ以外の教科についても、探究的な学びを取り入れて、本学と高校でPBLのカリキュラムを共同開発する流れが生まれてくるのではないでしょうか。すでに取り組んでいるメタ・ルーブリックの共同開発においても、高校と大学で共同運用して、その効用性を継続的に検証していきながら、各科目に対応するチェックリストの共同開発も進めていく必要があると思います。

探究的な学びが広がっていけば、かつては大学生でやっと身に付けていた力が高校1~2年生で得られるようになるかもしれません。そんな未来を実現するためにも、パートナーの高校や教育委員会とも協力して、PBLとルーブリックの共同運用先のさらなる拡大を目指していくことも大きな目標になるのではないかと感じています。以上です。ご清聴いただいて、ありがとうございました。

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