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学修成果の可視化

金沢工業大学 修学基礎教育課程 教授 青木 隆

「学修成果の可視化」において、本学が具体的に取り組んでいる事項について、ご説明を申し上げます。

学生の成長をポートフォリオ化

「学修成果の可視化」においては、成績評価や学生の成長、達成度の明確化などのほか、学生が課題に気づく力を身に付けるカリキュラム構成など、各大学でさまざまな取り組みがなされています。その中で本学では、学生が在学中はもちろん、卒業後も学び続けることができる力をどのように身に付けさせるかということに力を置いて、システムを開発してまいりました。そのシステムについて紹介させていただきます。

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先ほど山本からもご説明したKITナビの画面です。ここからは授業明細としてe-シラバスの内容が見られるほか、緑の枠で示した部分からは、各科目で提出した成果物の一覧を参照できます。これまでどんなレポートや作品を提出したかが一目で分かるシステムになっていて、学生が過去の学修状況を把握することで、自分の成長度を自己評価できるようにしています。

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本学における学生のポートフォリオには2種類あります。1つは今ご説明したレポートなどの成果物などの記録をまとめた科目のポートフォリオ。そして、もう1つは、学生の自己成長のポートフォリオです。
まず学生は入学時に、入学してから自分はどう学ぶのか、どんな課題に取り組んでいくのかについて、「自己診断シート」に取り組みます。その後、このように1週間ごとの行動履歴を登録してもらいます。画面の①には、自分が成長するための目標として、その週に何をしていきたいかをまとめます。その達成に向けて、②③④では授業の出欠や履修した科目、課外活動の内容などを記録します。
特に入学直後は生活環境が大きく変わる時期ですので、⑤には食事摂取や運動時間、睡眠時間についてもポートフォリオ化しています。⑥では①で立てた目標に到達できたかどうかを評価させて、反省点や困ったことなども書かせています。
教員はその内容をチェックして、「もっと睡眠をとったらどう?」や「頑張るのはいいけれど、もう少し休んだら?」など、学生へのコメントを必ず返しています。

自己評価を習慣付ける教員からのサポート

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次は、科目の達成度を評価する「自己評価ポートフォリオ」です。科目ごとに教員がシラバスに示した達成目標が記載されていて、学生は各項目に対してアンケート方式で、60%や80%などと自らの到達度を自己評価します。ただパーセンテージで示すだけでなく、具体的にこういうことができるようになりました、こういうことが身につきましたと、自分の言葉でも評価してもらっています。
それを繰り返して1年間経ったら、最初の自己診断シートで掲げた目標に対して、実際の成長度や到達度について、1年分の自己評価を書いてもらいます。これを学生の人間力を可視化した資料として参考にしながら、教員と学生の面談を行っています。

ただ、いくらこういうポートフォリオを用意しても、単純に記入を命じるだけでは、それを続けていける学生は少ないというのが正直なところでしょう。そこで本学では、担当教員が学生全員に対して、1週間の行動記録に毎回必ずコメントして返却したり、1年生には半年に一度は面談の場を持って、立てた目標に対する現在の自己評価を聞き出すなど、学生がポートフォリオに向かう習慣の定着に向けた取り組みを行っています。

「自己成長シート」に学生の歩みを蓄積

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ポートフォリオによる学修成果の可視化を考えてシステムを整備する中で、このような学生の「自己成長シート」を作りました。このシートには学生ごとにさまざまな項目の記録をまとめることができます。
科目の成績や履修歴は、学期終わりの教員と学生の面談で、次の到達目標を設定する資料として使われています。取得した単位数や学長から受けた報奨の記録も分かるし、資格取得状況の項目では、どのような学習が取得につながったかを自分で記入できます。課外活動の状況やインターンシップ、そのほかの活動の記録に加えて、受講した講座の感想なども書き込んでほしいと学生には伝えています。実際に4年生の卒業発表に参加した1~2年生がその感想を残したりもしています。こうした記録の数々が蓄積されることで、学生のポートフォリオは充実していきます。教員や修学アドバイザーにとっても、このシートで学生の情報を一覧しながらアドバイスができるシステムになっております。

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それでは「自己成長シート」のデータを、学生が学び続ける力の可視化にどう結び付けるのか。学生に提供しているこの9角形のグラフは、各学科のカリキュラムポリシーで設定した学習・教育目標に基づいて、学生が育もうとする各専門能力への評価を示しています。ピンクは教員が示した成績評価、青は学生の自己評価、黄色は学科全体における平均です。各能力に対して、主任の教員がシラバスをチェックしながら、いくつかの科目を割り当てていて、それらの科目への評価を総合して、その能力の評価としています。

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次に学生の人間力についても、このようなグラフで可視化し、成長を自己評価できるようにしています。評価する能力は「自律と自立」「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」「プレゼンテーション能力」「コラボレーション能力」の5項目です。この5項目は、経済産業省が「社会人基礎力」として提唱した各能力をベースに、本学の授業において養成できる能力を精査した上で、5つにカテゴライズしたものです。
これら5つの人間力への評価は、学生へのアンケートを元に行っています。当初はその能力が身に付いたかどうかを、学生に自由に評価してもらっていました。すると学生は、「授業でリーダーの役割をしたので、自分にはリーダーシップが身に付いた」といったとらえ方をしていました。しかし、実際には役割を担ったからと言って、その能力が成長するとは限らないわけです。
そこで学生が自分の成長を具体的に認識できるように、ルーブリックによる評価を導入しました。各能力について、自分がどのぐらいのことをできるようになったかを、ルーブリックを基準にして、1~5点で採点します。加えて、なぜその点数だと思ったのかを自由記述で書いてもらいました。学生も「ああこういうことが要求されているんだ」と理解して、自己評価の基準が変わっていきました。このチャートは各能力が学年が上がるにつれてどう成長しているかを、学生自身が把握するための指標としています。

学生とのコミュニケーションを深めるツールに

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これは実際の1年次機械工学科の学生の「自己成長シート」です。上の専門能力のグラフについては、まだすべての授業を受講していませんので、受講済み科目に対応した3つの能力だけを評価しています。教員からの評価は1年生なので高めですが、対する学生の評価は教員よりも高いものも低いものもあります。これを見ながら、教員と学生が今後の学びについてコミュニケーションをとっています。下の人間力のグラフは自己評価ですが、これに関しても教員から学生になぜそう思うかについての話をしています。
この2つのグラフにおいて、私たちは9角形や5角形がバランスよく大きくなればいいとは必ずしも考えていません。どれかの能力が突出していたり、どれかが極端に不得意だったりしても、そうした偏りも個性として、教員が学生と対話しながら、それぞれの特徴を生かしていける指導を目指しています。

以上のように、学修成果の可視化を図るシステムを構築してきましたが、今後はこのシステムをツールとして、学生と教員によるコミュニケーションのより理想的な姿を追求していくことが重要だろうと考えています。
専門能力と科目成績の関係性や、教員の評価と学生の自己評価の差異などについて、さらなる分析を深めながら、学生の個性や特長を引き出して、学ぶ意欲につなげていく指導の確立を、これからの課題にしていきます。どうも、ご清聴ありがとうございました。

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