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アクティブ・ラーニング(e-シラバス)

金沢工業大学 工学部 情報工学科 教授 山本 知仁

本AP事業における2つの大きな柱、「アクティブ・ラーニングの強力な推進」と「学修成果の可視化」のうち、アクティブ・ラーニングと、それをサポートするラーニング・マネジメント・システム(LMS)としてのe-シラバスについて、ご説明させていただきます。

学生と教員を結ぶ知のネットワークをシステム化

昨年来、高大接続に関する議論が交錯している中で、アクティブ・ラーニングをどのように導入すべきかが問われています。小・中学校での導入は進んでいるものの、高等学校から大学に進む際の入試制度の急激な改革が難しい中で、そこにアクティブ・ラーニングをどう取り入れるか。社会からのさまざまな意見を受けて、文部科学省でも「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」と呼び名を変更するなどしています。
これらの議論は、多様化し、高度化し、複雑化している社会において、学習指導要領の内容だけを画一的に教えればいい時代ではなくなったことが背景にあり、学生が何をどう学んで、生きる力をどのように身につけるかが問われています。指導内容への強い縛りがない大学では、アクティブ・ラーニングを自由に導入できる状況にあり、今やその有用性に関しても幅広く認識されていて、さらに高い教育レベルを探求する段階に来ていると感じます。

元々本学は教育目標を「自ら考え行動する技術者の育成」としていて、AP事業の採択以前から、すでに多くの科目においてアクティブ・ラーニングを実施してきました。加えて、学生の成果物をポートフォリオ化するシステムを構築して、学生が自分の学びを可視化できる学修支援システムとして使っています。
その中でシラバスは、各科目の授業内容を詳細に伝える文章の形で提供してきました。私たちはそれらを単なる文章の集まりから、科目同士や教員と学生の間を双方向につなぐシステムにアップグレードできれば、学びを体系づける知のネットワークとして提供できると考えました。情報システムに慣れていない教員にも利用しやすくする観点もあって、従来のシラバスを発展させたLMSとして「e-シラバス」を導入したのです。各学科におけるカリキュラムのフローを表す地図である「KITナビ」も設けて、各科目のe-シラバスを地図の各拠点に示すことで学ぶ体系を統合し、大学における教育とマネジメントを共に強化することを目指しました。

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アクティブ・ラーニングを支援するLMS

ここからは「e-シラバス」の詳細についてご紹介します。

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金沢工業大学の学生ポータルサイトは、画面左側に就学に必要なさまざまな機能を設け、右側には学生への個別の連絡や全学共通の連絡が掲示されます。その上にある「KITナビ」のタグをクリックすると、学生は自分が所属する学科のカリキュラムフローを見ることができます。

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毎日利用するポータルサイトからe-シラバスにアクセスすることで、自分が学びのどこに立っているのかを常に認識できるわけです。画面の中で青はすでに単位取得した科目、赤は残念ながら単位を落とした科目、緑は履修中の科目を表します。青の科目の上にマウスを重ねると、その科目の成績と出席率が出てきて、クリックすると、その科目のe-シラバスに移ります。

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実際のe-シラバスの画面です。左側は科目の到達目標や点数配分など、従来通りのシラバスの内容を示しています。右側は週ごとに学ぶ内容などを表示していますが、こちらは編集可能な領域となっていて、授業に使う教材や資料をここから提供することができます。

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教員はテキストやPowerPointによる資料のほか、動画もアップロードすることができて、例えば、数学の基礎に関する講義の動画を用意すれば、学生はその動画を何度も見て集中的に学べます。外部へのリンクを張ることもできて、学んだ内容に関連する課外活動プロジェクトなどにすぐ参加できるようになっています。学生からも期日までにアップロードする形で、レポートなどの提出に使えます。
小テストやアンケートの機能もあります。例えば、反転授業を行う際、授業項目の理解度を把握するために小テストを実施して、リアルタイムに学修状況を把握しながら、授業を進めることもできます。アクティブ・ラーニングのために必要な機能をひと通り備えたシステムと言えるでしょう。

学生と教員の利活用が進む

e-シラバスが本格的に稼働した2016年以降の運用実績として、2019年は、前期1557科目中773科目、後期1680科目中722科目で利用されています。科目数の中には卒業研究のようなシラバスが必要ない科目も含まれるため、実質的には7~8割程度の科目で活用されており、十分な利用率ではないかと感じます。
学生においても、1日あたりののべ利用人数が年々伸びています。2019年度は前期が8761人、後期が6480人でした。全体で6700人いる学生がそれぞれ1日1回以上はアクセスして、コンテンツを利用した計算です。

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e-シラバスは主に反転授業やPBL(課題解決型学習)など、代表的なアクティブ・ラーニングの手法を用いる科目で活用されています。
3年生の必修科目「技術マネジメント」では、学生が授業前に予習資料を作り、グループでの共同学習に取り組みます。2016年から授業用の資料がe-シラバスで提供されるようになると、学生の授業への満足度が導入前より高くなったというアンケート結果が出ました。電気電子工学科の「電気回路Ⅰ」では、学生の理解の助けとするため、予習・復習用の動画を1本10分程度の長さで40本以上制作して、システム上にアップロードしています。電気系学科のプログラミング演習では、アンケートや小テストの機能を使って毎回学生の理解度をテストし、その結果に応じて授業を進めています。

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システムの活用が進んだ結果、教員による動画配信の利用数も年を追うごとに増えています。2018年度には20科目で1145の動画コンテンツがe-シラバス上で公開されました。最も多く閲覧されているのが、1~2年生向けの「工学のための数理工」という科目の動画で、現時点で約68000回の再生を記録しています。学生は授業の理解に役立つ豊富な動画コンテンツをいつでも閲覧できるわけです。
e-シラバスは自分の所属学科以外の科目も見られるため、例えば、情報系学科の学生が工学系のロボット科目の動画で勉強することもできます。学科の垣根を越えて、学びを横にも広げていくシステムとして展開するためにも、教員が積極的にコンテンツを配信していくことが重要な意味を持ちます。利用者がシステム上のコンテンツを充実させることで、知のネットワークが構築されていくのです。

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課外活動との連携も行っています。土木工学科の「測量学Ⅰ、Ⅱ」では、シラバスの中に課外活動の「空間情報プロジェクト」に関するリンクがあります。学生が地域の子どもたちに科学技術を教える「カメリアキッズ」という活動の紹介ページで、興味を持った学生がスムーズに参加できる入口となっています。

事業期間中にはe-シラバスに対する評価も行いました。2016年と17年には、少数の学生を集めたグループにインタビューして、システムの活用状況や問題点について聞いています。学生からはこれまでバラバラに提供されていた機能がe-シラバスにすべて統合されたことで、授業の情報がワンストップで得られる便利さを指摘する意見が多く寄せられました。一方で、スマートフォン端末では利用しにくいとの声も出たため、2018年にはスマートフォン版をリリースしています。さらにe-シラバスのアンケート機能による全学的な調査では、学生の多くはe-シラバスを毎日見ていて利用しやすいと感じており、履修外の授業のe-シラバスを見たり、課外活動に役立てている学生も、それぞれ2~3割程度は存在することが分かりました。
教員へのアンケートでは、e-シラバスの利用率は高かったものの、使いづらいと答えた方も約半数いらっしゃいました。そうした意見を参考にして、フォントの大きさを変更可能にするなど、ユーザビリティの向上にも努めてきました。これまでに80~90回程度のアップデートを実施しており、事業終了後もさまざまなユーザーから意見をいただいて、より使いやすいシステムに改善し続けたいと考えています。

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ビッグデータ集約で広がる学修支援の可能性

e-シラバスのように、すべての教務データが統合され、誰もが使えるLMSを本格的に動かしている大学は、全国的にもそれほどないのではないかと思います。全員が使っているのでコンテンツが集まり、システムとしての価値も高まっており、学生や教員も満足しています。

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今後はシステム上に集まりつつある多くのデータをどう活かしていくかが重要ではないかと考えています。例えば、GPA(成績評価値)に基づいて本学の6700人の学生データをクラスタリングし、グループごとのデータの特徴量を集約して、どの特徴量が学びにとって重要かを解析することもできるでしょう。
また、システム上に学生が残したテキスト情報を自然言語処理すれば、学びにとって大切なキーワードを抽出できる可能性があります。学生の行動をピックアップして、成績が上下するプロセスを特定することで、成績向上をサポートすることもできるはずです。そうした学修支援につながるビッグデータを収集する役割も果たせると思っています。システムとしてのさらなる発展を目指してまいります。以上です。ありがとうございました。

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