核酸の分子的構造
1953年
フランシス・ハリー・クリック(1916-2004)、
ジェムス・デューイ・ワトソン(1928-)
 第2次大戦中から戦後にかけて、生化学は急速な進歩を見せ、そのことが生物の生命現象への解明へ、生化学者たちの強い関心をひきよせていました。生化学者たちは、生命現象のひとつの基本である遺伝現象を調べ、どうやら遺伝をつかさどるものは、核酸にあること、とりわけ染色体を構成しているデオキシリボ核酸(DNA)である事に見当がついて来たのです。
 ところが、このDNAの構造が良く分からず、従来の化学的方法では構造決定に限界がある様に感じられて来たのです。クリックは、ケンブリッジ大学出の物理学者で元レーダーエンジニアだったのですが、分子生物学に転向し、アメリカ人のワトソンと共に、以前カリフォルニア大学の物理学者ウィルキンズがDNAをX線回折で調べた資料を調べ、それまでの化学的研究で判っていたDNAの生化学的性質とX線回折による物理的性質を同時に満足する様なDNAの分子構造の形をあれこれと考えました。既に、繊維性タンパクの構造は、らせん形である事がわかっていましたし、DNA内にふくまれる窒素塩基の配列には一定の規則がある事もシャルガフの研究によって判っていました。
 これら総てを考え合わせ、来る日も来る日も分子模型の組合せを考えながら、遂に二人は、すべての条件を満足する「二重らせん」構造を1953年に発見し、その模型を完成させ、論文を書いて雑誌に発表したのでした。本書がこの論文で、これは、生命現象の解明の他にバイオ・テクノロジーという新しい技術分野を切り拓いたのでした。