波動力学についての四講
1928年
エルヴィン・シュレディンガー(1887-1961)
 シュレディンガーはウィーン大学で1910年に学位を取った後、第一次大戦に砲術将校として従軍し、戦後、ドイツ語圏の種々の大学で教えた後、1927年にはマックス・プランクの後をついでベルリン大学の教授になりました。彼は量子力学の形成に関して大きな業績を残しました。
 1900年にプランクが黒体放射の問題からエネルギー量子を発見し、アインシュタインもその光電効果の研究の中で光子の概念を提唱しましたが、それらはもともと波動として考えられたものに、量子としての粒子性を与えるという考え方の方向のものでした。ニールス・ボーアはこの量子概念を原子構造の中へ持ち込み、電子の軌道上で、エネルギーが密になる処で、このエネルギーは粒子性を持つとしてトムソン、ラザフォード、長岡半太郎の考えた原子モデルと量子論との一致を考えました。このアイデアはハイゼンベルクによって発展させられ量子力学におけるマトリックス(行列)力学理論となったのです。これに対してド・ブローイの物質波から出発したシュレディンガーはボーアの処理法に不満で、ド・ブローイが考えた電子波を研究し、この波が従う波動方程式を考え出し、波動力学を確立したのでした。これはプランクが創始した量子論に始めて確たる数学的裏付けを与えたのです。これは前記の立場とは逆に本来粒子と考えられたものに波動性を与えるという考えの方向でした。しかしこの波動方程式によって、マトリックス力学で説明できることであっても、波動力学で説明できることが示され、また波動力学によって説明できることもマトリックス力学で説明できることが判明し、両者の理論の同等性が証明され、量子力学の基本が決定したのでした。