波動と運動
1926年
ルイ・ヴィクトール・ド・ブローイ(1892-1987)
 1905年、アインシュタインは光量子の考えを提出し、今までは波動であるとされていた光に粒子の性質を付与しましたが、これは1923年コンプトンによって実験的に証明されました。この光の二重性が世間にみとめられるようになって、ド・ブローイはもし粒子と波動が本質的に同じものであれば、この矛盾する性質は一つの共通した原理で説明できるのではないかと考えたのです。
 本書で、ド・ブローイは粒子に逆の性質を付与するという大担な学説を提起しています。アインシュタインの特殊相対論の中の運動のエネルギーと運動量との関係式を、光のエネルギーと振動数の間の関係を示すプランクの式にあてはめました。電子のように運動しているすべての粒子は位相波であって、波長と運動流は逆比例すること、従って粒子の質量と速度に依存することを説明しています。このような非電磁波は物質波と呼ばれています。物質波が存在するというド・ブローイの学説は、1927年から1928年にかけて、デーヴィソン、トムソン、菊地らが電子波を結晶によって回析させる実験によって証明しました。ド・ブローイは1929年この発見によってノーベル賞を受賞したのです。
 ド・ブローイの量子論の研究という二番目の論文は彼の学位論文 (1924) の初めてのドイツ語訳で、その緒言に、彼が新しい物理学論を発展させ、力学の方法や高速状態の波動の理論等を展開した特に実り多かった時期のことを感慨をこめて書いています。