振子時計
1673年
クリスティアン・ホイヘンス(1629-1695)
 ホイヘンスは、その多才さ、独創性から言っても、十七世紀においてニュートンに比肩できる唯一人の科学者です。数学の天分に恵まれ、物理学と天文学において多くの重要な業績をあげました。望遠鏡を改良し、土星、木星、その他の天体を観察し、土星の環、それに土星の第六衛星を発見し、これをタイタンと命名しました。そして、天文観測をさらに精密なものにし、また、海上の経度の測定をさらに正確にするには、正確な時間測定が必要であることを認識していました。航海用時計、クロノメーターを考案するために、ホイヘンスはガリレオの先例に従い振子時計の仕組みと、振り子の振動の数学的解析法を研究しました。この研究の全成果を本書に収めましたが、時計そのものについて論じているのはその半分にすぎず、他にすべて力学に関する新しい知識について書かれています。
 ホイヘンスは正確な等時性の振子はサイクロイド曲線の軌跡を描くことを発見し、サイクロイド曲面を持つ側面板を二つ立てて、吊糸がその間を振動するような振子を考案しました。これはサイクロイドの伸開線もまた合同のサイクロイドであるという定理に基いて考えられたものでありました。ホイヘンスは振子の研究を更に発展させました。いろいろな曲線を描く物体の落下を研究し、慣性モーメントならびに重力に関する研究を推進したのです。本書の末尾に、円運動における遠心力理論に関連した十三個の定理を述べています。ホイヘンスは本書の一冊をニュートンに贈りましたが、ニュートンは彼の万有引力理論がホイヘンスの遠心力理論によるところが多いと謝辞を述べています。本書は、ガリレオの「新科学対話」以後の力学に関する最大の貢献をなした書物です。