新科学対話
1638年
ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)
 十七世紀の始め、すべての自然科学はガリレオにいちじるしく影響を受け、特に力学は根底から改革されました。ガリレオがこのことをなし得たのは主として彼の二つの名誉「天文対話」(1632)と本書「新科学対話」によるものです。前者はガリレオの最も有名な著作であり、これによって地動説に関する白熱した論義がなされ、人間の理性によって、天動説をかたくなにまもる教会の権威に揺さぶりをかけたことで特に注目に値します。しかし、本書の方が、その直接的な業績は勿論のこと、また多くの学者に広汎な影響を残している点からも科学史上その重要性ははるかに大きいのです。
 この論文で、ガリレオは動力学と呼ばれる力学の新しい領域を築きました。彼は、アリストテレスの物体の落下速度はその重量に比例するという落体論を論駁して、その理論の基盤となっている空虚というものは存在しないとする命題を否定したのでした。真空の合理性を認め、真空状態の中ではすべての物体は同じ速度で落下するであろうと推測し、近似的な実験でそれを確かめました。同じ長さで重量のちがう二つの振り子の動きを観察出来るような真空の容器を作り出すことは出来ませんでしたが、空気抵抗を無視すれば、振幅の周期は同じになることを確かめたのです。続いて、落体は均等に加速されるから、落下速度は時間に比例すると推測し、それを数学的に証明し、落下距離は落下時間の平方に比例すると演繹的に推論しました。
ガリレオは、これを、傾斜した平面上をころがる球体の通過時間と 通過距離の測定をするという有名な実験によって立証しています。また、放物体の運動を論じ、それを、水平方向の等速運動と自然に加速された運動(自由落下)との組み合わせから成っているとして説明し、放物体の軌跡が放物線となることをアポロニウス(紀元前 250-220 年頃)の放物線理論を使って証明しました。以上述べた他にも、ガリレオは、流体力学、気学といったさまざまな課題を研究しました。ガリレオはアリストテレスの運動論を改め、動力学という新しい領域を確立して、近代力学の基礎を築いたのでした。
 ガリレオの重要性は、その直後の業績によるばかりでなく、むしろその方法論によるところが更に大きいことを強く銘記すべきでしょう。ガリレオは、ある現象に対して仮説を立て、数学的演繹法によって結論を引き出し、その結論を実験による帰納法によって実証したのです。
この方法は、後に仮説帰納法として知られるようになった。それは実験の組み合わせで構成されており、近代世界が機械論的な性質を持つようになった萌芽はここにもあるのです。ガリレオは、本書を通して、デカルトと同様に数学のなかにこそ、自然そのもののしくみが隠されていると主張したのでした。