驚くべき対数法則の論述
1614年
ジョン・ネーピア(1550-1617)
 対数の発見は、実用計算法として他に匹敵するもののない重要な功績でした。対数法を用いれば、掛算を加算で、割算を引き算で、また、割算で何乗の根でも求められるように簡単にできることはよく知られている通りです。天文学者や物理学者などは、時間のかかる単調な計算を苦労してやらなければならなかったのですが、この対数の出現によってその苦労は大変に軽減されたのです。それゆえ、本書は、出版されるやいなや、広く学界の絶賛を浴び、歓呼をもって迎えられたのでした。
 ネーピア卿もまた正に「諸学に通じた人」と呼ばれるにふさわしい多才の人でした。熱烈なプロテスタントであり、新教の立場から聖書を解釈してカトリシズム・旧教をきびしく非難しました。また、往時のアルキメデスのように、重砲、戦車、潜水艇といった様々な兵器を考案しましたが、その目的は、旧教を支持するフィリップ二世がやがてスコットランドを攻めて来るだろうと予測し、それに対する防衛のためであったのです。
 ネーピアは、二十年間にわたって、種々の対数法則を研究したのちこの書物を出版しました。1544年頃、M.シュティーフェルはすでに指数のアイデアを出していましが、これを知らないままに、対数を独力で発見したのは正に驚異です。1594年、ネーピアは、すべての数をそれぞれの指数で示す方式を思いつき、それを、ギリシア語の論理・「ロゴス」と計算・「アリスモス」とに由来する語「ロガリスムス・対数」と名付けたのでした。
 本書で、ネーピアは、第一象限の弧について角度一分きざみの七桁の正弦関数の対数表を示しました。この表を用いて、天文学者たちは三角法の計算を簡単に行うことができるようになりました。実は、この対数は、現在ネーピア対数とも称される事のある自然対数とも、また常用対数とも異なるものだったのです。それでオックスフォード大学の幾何学教授ヘンリー・ブリッグズは、ネーピアに10を底とした対数にした方がよいと助言しましたが、まもなく、彼はこの助言を入れて、10を底とする対数、すなわち常用対数を作り出したのです。
 最後の裏ページが空白になっているこの第一版は、ネーピアのすべての著作物のなかで最も稀覯なものです。ヘンリー・ツァイトリンガーの記すところによれば、英国中の公立図書館にも初版本は5冊、第2版もわずか14冊しかなく、奇妙なことには、当のネーピア卿の蔵書にさえこの版は1冊もなかったと言われています。