「進化と進歩は何が違うか」を講演する長尾教授
小学校から大学に至る「学び」は、それぞれの点と点がつながるという大局的な視点に立ってデザインされており、私たちは「学び」を通して、人間の理解、社会の理解、生きものの理解、自然の理解、地球の理解、そして宇宙の理解を目指している。しかし、実際は科学・技術の細分化と専門化によって個々の知識は統合化されにくく、教授される内容・伝達される内容を「当たり前」として決め付け「そもそも、なぜ起こるのか?」といった真意を探ることに諦めがちになっている。そういった習慣から、目の前の課題ばかりに目を奪われ、本来の解決すべき問題が何であるかを見失ったり、根拠・理由が説明できない結論でごまかし、解決すべき問題を再発させるなどの悪循環が起きることがある。
「なぜ脳は騙されるのか」をテーマに講演をする河原教授
地域の課題を解決しようとする人材の「考える」力を養成するための場(サイエンス・コミュニティ)の構築を目指した科学力養成講座「大人のためのもういちど小・中学校」を昨年度に引き続き開講している。バイオ・化学部応用バイオ学科の長尾隆司教授、河原哲夫教授らが中心となり、大人がこれまで習得してきた「学び」を知識としてだけではなく、地域・企業・社会の課題発見や多様性のある問題に対する解決に活かし、更には子どもたちが「自ら考え、生きる力」を育むために「ともに考える大人」が地域に多く存在するように、大人の意識改革を促す講座である。講師からは毎回テーマにあわせた話題が投げかけられ、聴講者は「なぜ?どうして?」と素直に探究心を呼び起こしつつ、そのテーマの内容を掘り下げて問題発見解決力を醸成していく。
第8回は5月16日(土)午後2時からアントレプレナーズラボで「食の当たり前を考える」をテーマに、長尾教授が講座を開講した。聴講者は金沢市や野々市市の市民や学生など約40人が参加した。長尾教授は「動物はなぜ食べないと死んでしまうか」「牛や馬は草ばっかり食べているのになぜ立派な体になってるのか」など身近な疑問を取り上げ、中学校で使われている教科書や教材では大まかな解説になっているところから「どうしてそうなるのか?」と改めて問いかけて実際に体の中のエネルギー代謝について解説した。体の中で大切なものはタンパク質であること、体づくりは酵素が必要であることなどを解説すると、聴講者の一人から「病気のために毎日酵素ジュースを作っているがとても参考になった」と理解を深める喜びのコメントが寄せられた。
第9回は7月11日(土)午後2時から石川県四高記念文化交流館多目的利用室で「進化と進歩は何が違うか」をテーマに長尾教授が講座を開講した。約40人の参加者に対し、長尾教授は生物の進化からヒトがもつ身体的機能や感情がなぜ起こるのかについて解説した。聴講者は「進化を勉強することにより、現代の様々な問題点や争い事を解決する糸口が見つかる気がする」「進化についてもっと興味を持って調べてみたい」「今後はDNAの仕組みについて調べたい」と学ぶ意欲が満ち溢れていた。
第10回は8月1日(土)午後2時から12号館アントレプレナーズラボで「なぜ脳は騙されるのだろう」をテーマに、河原教授が講座を開講した。約30人の参加者に対し、目の錯覚(錯視)の実体験を通しながら、視覚に関する情報は脳のどの辺りで処理されているか、錯覚が起きるのは刺激に対する順応現象が起きていることなどを解説した。聴講者からは「もっと脳の仕組みについて調べたい」「進化の過程で、なぜ錯視の仕組みが残っているのか」と自ら疑問を持ち探求する姿が見えた。
これまで全10回の講座を開講してきたが、継続して受講している参加者は徐々に深く考える思考の癖が付いてきているようだ。本講座は、地域志向の要素を取り入れた授業や地域志向教育研究プロジェクトに参画する学生・企業・地域住民の意識改革講座としても位置づけており、本講座を通して物事を深く考える習慣を身につけて欲しいと願っている。今後も継続して月1回程度開講していきながら「地域の考える力」を醸成していきたい。