折り紙から数学や物理を学ぶ高校生
平成19年から行っている「KIT夏の数理講座」も本年度で第9回目を迎えた。 この講座は、高校生に数理の面白さを実験などで体験してもらい、数学や科学を楽しむという狙いで開催している。本年度は「KIT数理講座」と名称を変更し「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」の一環として、7月18日(土)午後1時から4時30分まで23号館4階で開催した。 今回は、数学分野では谷口哲也講師の「『掛け算』-知られざる『高速乗算』の世界-」、科学分野では西岡圭太講師の「紙を折ってイノベーション!」をテーマとして取り上げた。
参加者が例年より大幅に増加したため、従来の講義の運用形式を変更し、参加者を2グループに分けて、講師がそれぞれのテーマで、90分の講義を2回実施した。
◆「掛け算」-知られざる「高速乗算」の世界- スマートフォンやPCの買い物サイトでの「https」「SSL」の暗号化・復号化処理では数百桁程度の整数の演算が行われている。この講座では、演算の高速化の重要性と、どのように演算を高速化するかを実例で示した。 整数の演算における計算の工夫(Karatsuba法)を解説し、実際にコンピュータを使用して、いろいろな桁数の数値計算の実験を行い、通常の計算法とKaratsuba法による演算時間を比較した。参加者は、普段何気なく行っている掛け算でも、工夫すれば演算時間を短くできる方法があるという数学の奥深さや計算方法によってコンピュータのCPUの処理時間が劇的に変わることを学んだ。
◆「紙を折ってイノベーション!」 日本の伝統の一つ「折り紙」が芸術面だけではなく、その数理と関連した技術が産業、医療、宇宙工学の分野にも応用され、様々な技術革新(イノベーション)を生み出している。この講座では、昔のことをよく学びそこから新しい知識や道理を得るという「温故知新」をキーワードに、折り紙技術からの科学技術の発展を紹介し、その例として、身近なところにある、人工衛星のパネルの展開方法で有名な「ミウラ折り」による地図の折り畳み方や、缶コーヒーや、缶ジュース等の「缶」のデザインに利用されている「ダイヤ折り」を取りあげた。
参加者は「ミウラ折り」と「ダイヤ折り」を紙で作製し、その機能面や性能面で優れていることを実際に体験し、折り紙技術に潜んだ数学や物理を学んだ。
掛け算で高速乗算の計算方法を学ぶ高校生
参加した高校生からのアンケートでは、約9割の参加者から「有意義であった」という回答があり、フリーコメントでもほぼ全員からいろいろな感想が寄せられた。その中の一部の感想を紹介する。
・パソコンで掛け算をするとき、工夫すれば速く計算できることが分かり、驚いた。掛け算は不思議なものでただ掛けているだけでなく、規則があり必ず答えがでてくるので、すごく面白いと思います。この講義を聴いてますます数学に興味が持てました。ありがとうございました。
・折り紙も数学を使えばどんな形にでも作れることが分かった。また効率のいい形は「自然が教えてくれる」「さまざまな技術に応用できる」ということが分かった。感動したし、楽しかった。
・折り紙の技術は数学、物理を応用することで色んな分野に貢献していることを学んだ。日本の文化が真逆の分野ともいえる科学に用いられているというのは不思議に思われた。
また、今回の講座の運営に携わった本学の学生からは、事前の準備学習がためになったこと、数学物理の理論的な基礎知識の大切さや、他人に教え伝えることの難しさを学び、更にこれを身に着けるための意識改革となったとの感想が寄せられ、本学の学生の数理に対する学習への刺激にもつながった。
〔高校別参加人数〕
金沢錦丘高等学校 5人
金沢桜丘高等学校 17人
金沢市立工業高等学校 7人
金沢西高等学校 2人
金沢泉丘高等学校 33人
小松高等学校 2人
大聖寺実業高等学校 1人
尾山台高等学校 3人
金沢工業高等専門学校 2人
計 72人