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ニューヨーク大学アブダビ分校にKITが開発した脳磁計を設置

2011年9月6日UP

金沢工業大学は、金沢工業大学の附置研究所の一つである先端電子技術応用研究所が開発した脳磁場計測装置(以下、脳磁計)をアラブ首長国連邦(UAE)、ニューヨーク大学アブダビ分校に設置し、共同研究を開始しました。イスラーム圏では初の脳磁計の導入となりました。

 

ニューヨーク大学は世界各地に研究・教育拠点を形成しており、アブダビ分校は人文科学・社会科学・科学技術の三本柱を中心とした国際的な教育・研究機関を目指して2009年に創設されました。言語学はその中でも重要なテーマの一つであり、総額200万ドルの研究プロジェクトが開始されています。

脳機能研究の主力ツールとなりつつある脳磁計は、言語学分野では脳による言葉の認識や、文章理解などの謎を探求する神経言語学に利用されています。これまでは英語などの西洋などの言語を中心とした研究がされてきましたが、アブダビ分校にもその拠点を置くことによりヒンディー語やベンガル語、タガログ語などのアジア言語にも研究範囲を拡大・展開するのがプロジェクトの狙いです。

 

金沢工業大学はこれまでにニューヨーク大学と共同脳磁研究所を設立するなどの協力関係を結んでおり、金沢工業大学先端電子技術応用研究所(所長:上原弦教授)が開発した脳磁計を用いた研究で、ニューヨーク大学の研究者がBiomag学会Samuel Williamson賞を受賞しています。今回も同研究所が開発した、更に高機能化した全頭型脳磁計が選ばれ、導入に至りました。

 

金沢工業大学先端電子技術応用研究所の研究グループは、文部科学省地域イノベーション戦略支援プログラムである富山・石川地域「ほくりく健康創造クラスター」に参画しており、今回導入された脳磁計の構築にも、この事業で開発された新技術が使われています。

 

 

< 用語解説 >

金沢工業大学 先端電子技術応用研究所

金沢工業大学の附置研究所の一つ。脳磁計をはじめとするSQUID(超伝導量子干渉素子)を用いた超微小磁場計測装置に関する技術開発を基幹とした研究所で、1998年の設立以来、これまで横河電機や米国・マサチューセッツ工科大学等に技術供与してきました。2003年には横河電機が同研究所の技術を受けて、世界最高の440チャンネルの脳磁計システムを開発しました。SQUID磁場計測装置は、薄膜製造技術、低温技術、磁場遮蔽、信号処理技術などさまざまな技術の複合体で、すべての技術を備えた研究機関は国内ではほかに例を見ません。

同研究所ではこれまでに、アメリカ・マサチューセッツ工科大学、メリーランド大学、ニューヨーク大学やドイツ連邦物理工学研究所(PTB)やオーストラリア・マックゥェーリ大学などにヒト用の脳磁計を、ロンドン大学に小動物用の脳磁計を設置した経緯があります。

今回、脳磁計に導入された新技術に関しては、9月18日‐23日オランダで開催されるSuperconductivity Centennial Conference、及び、9月27日‐30日に新潟で開催される第35回日本磁気学会学術講演会で発表されます。

 

脳磁計

脳神経の活動に伴って発生する微小な磁場を磁気センサで検出し、脳活動を観察する装置です。脳の磁場は地磁気の10億分の1程度の強度しかないため、検出にはSQUIDと呼ばれる超高感度磁気センサを使用します。全頭型脳磁計はヘルメット構造を持つ液体ヘリウム用の極低温容器の内壁に沿って、数十〜数百箇所に配置されたSQUIDセンサによって脳表面のあらゆるところから誘発する磁場を検出することができます。

検出した脳磁場データに、磁場源解析と呼ばれる処理を行い、脳の神経活動を可視化することができます。現在では、脳機能解明の研究に利用されているほか、脳腫瘍手術の術前脳機能マッピングや、てんかんの焦点部位同定など、医療機関でも活躍しています。

今回導入した言語学の研究分野においては、例えば、正しい文法の文とそうでない文に対して小児の脳が異なる反応を示すことが脳磁計で直接観測され、アリストテレース以来の長年の疑問「何故ヒトはかくも短期間に言語能力を身につけるのか?」を解決する大きな手掛かりが得られるなどの成果が得られています。

アブダビに設置された脳磁計

SQUID(超伝導量子干渉素子)

超伝導を応用した微小な磁場を感知することのできる素子。半導体デバイス技術を応用したニオブの薄膜技術によってシリコン基板上に作製されたSQUIDチップに、ニオブの細線で作製した検出コイルを接続し、磁気センサを構成します。この磁気センサは液体ヘリウムの極低温(?269℃)中で超伝導状態に保たれ、地磁気の100億分の1程度の小さな磁場を検出することができます。

 

ニューヨーク大学

1831年に開校した米国ニューヨーク市にある私立大学。自然科学系から人文科学系までの幅広い分野の課程がある総合大学で、学生数は5万人以上。芸術学部は数多くの映画監督や有名俳優・アーティストを排出していることで有名。最近ではレディー・ガガが早期入学していたことでも話題となりました。また、これまでに卒業生および教員の中から多くのノーベル賞やピューリツァー賞受賞者を輩出しています。

ここ数年、欧米の有名大学が中東やアジアへ進出する動きが活発化しております。その一つとしてニューヨーク大学がアブダビ政府の全面的なバックアップを受け、2009年にアブダビに分校を開設しました。2010年には約9000人の中から選抜された189名の学生が入学し、その出身国は39カ国にも上ります。残念ながらその中に日本は含まれておりませんが、そのような状況の中で今回の脳磁計の導入に至ったことは、日本の大学としても非常に名誉なことでもあります。

脳磁計が設置されたニューヨーク大学アブダビ分校の研究所