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世界初の脊髄障害診断装置を開発(5/25)

2010年5月26日UP

世界初の脊髄機能イメージング

金沢工業大学が新しい脊髄障害の診断装置を開発

−日本整形外科学会にて試作機を発表・展示−


金沢工業大学は、東京医科歯科大学、横河電機などと共同で脊髄障害を非侵襲で検査することのできる脊髄磁場計測装置を世界で初めて開発しました。脊髄磁場計測装置は、超伝導を応用した高感度磁気センサを使って脊髄神経の発する微弱な磁場を検出し、神経のはたらきを可視化することによって、従来診断が困難だった脊髄障害の場所を正確に調べることのできる装置です。開発した試作機は5月27日〜5月30日に東京国際フォーラム/よみうりホール(東京・有楽町)で開催される第83回日本整形外科学会学術総会にて展示発表される予定です。


金沢工業大学先端電子技術応用研究所(石川県金沢市天池町3)は、平成16年度〜平成20年度に実施された文部科学省知的クラスター創成事業「石川ハイテクセンシングクラスター構想」に中核研究機関の一つとして参画しました。その一環で開発された脊髄誘発磁場計測装置を石川県の「新豊かさ創造実用化プロジェクト推進事業」などの補助を受けてさらに改良し、実際の患者に適用できる実用的な試作機の開発へとつなげました。試作機は東京医科歯科大学整形外科に設置され、すでに40人以上の脊髄障害の患者から診断に有用と見られる信号の検出に成功しています。また、首都大学東京との共同で開発した画像化技術を用いることによって、脊髄神経の活動状態を視覚的にとらえる「脊髄機能イメージング」が可能となりました。これにより、従来診断が難しかった手足のしびれや麻痺などの神経症状をもつ脊髄障害の患者に、より効果的な診断・治療が適用できるようになると期待されています。


きたる5月27日より東京国際フォーラムおよびよみうりホールで開催される第83回日本整形外科学会学術総会では、学会併設の展示会場で当装置の事業化を推進している横河電機による試作機の展示が行われます。


第83回日本整形外科学会学術総会
http://www.joa2010.jp



< 用語解説 >

金沢工業大学 先端電子技術応用研究所

 金沢工業大学の附置研究所の一つ。脳磁計をはじめとするSQUID(超伝導量子干渉素子)を用いた超微小磁場計測装置に関する技術開発を基幹とした研究所で、1998年の設立以来、これまで横河電機や米国・マサチューセッツ工科大学等に技術供与してきました。2003年には横河電機が同研究所の技術を受けて、世界最高の440チャンネルの脳磁計システムを開発しました。SQUID磁場計測装置は、薄膜製造技術、低温技術、磁場遮蔽、信号処理技術などさまざまな技術の複合体で、すべての技術を備えた研究機関は国内ではほかに例を見ません。

 同研究所で開発されたヒト用の脳磁計は、これまでにアメリカ・マサチューセッツ工科大学、メリーランド大学、ニューヨーク大学やドイツ連邦物理工学研究所(PTB)、オーストラリア・マックゥェーリ大学などにも設置された経緯があります。今回の脊髄磁場計測装置は、脳磁計開発で培われた同研究所のSQUID磁場計測装置の要素技術を生かして開発されたものです。


脊髄磁場計測装置

 脊髄神経の活動に伴って発生する微小な磁場を磁気センサで検出し、脊髄に沿った神経信号の伝搬を観察する装置です。脊髄からの磁場は地磁気の100億分の1程度の強度しかないため、検出にはSQUIDと呼ばれる超高感度磁気センサを使用します。検出した磁場データに、磁場源解析と呼ばれる処理を行うことによって、脊髄の神経活動を画像情報として可視化することができます。

 この装置は、平成16年度〜平成20年度に実施された文部科学省知的クラスター創成事業「石川ハイテクセンシングクラスター構想」の枠組みの中で、金沢工業大学、東京医科歯科大学、首都大学東京、横河電機の4者の産学連携、医工連携の共同研究を進め、世界で初めて開発に成功しました。その後、石川県の「新豊かさ創造実用化プロジェクト推進事業」などの補助を受けて、臨床に応用できる実用的な試作機を開発しました。共同研究では、金沢工業大学が装置全体の設計や高感度磁気センサなどのハードウェアの開発など、装置の運用と臨床応用を担当した東京医科歯科大学整形外科とともに中心的な役割を担いました。そして首都大学東京が解析アルゴリズムの研究を、横河電機はソフトウェアの開発と実用化に向けたマーケティングを担当しました。

 脊髄の磁場は脳磁場に比べてさらに10分の1ほどの大きさしかなく、磁気センサの構造や超伝導状態を保つための低温容器の形状を工夫して安定して検出できるようになりました。また、空間フィルタ法と呼ばれる新しい解析方法を適用することにより、得られた磁場データから脊髄の活動の様子を可視化する脊髄機能イメージングを実現することができました。

 脊髄磁場計測は従来診断が困難だった手足のしびれや麻痺のより正確な診断法として期待されています。脊椎変性疾患で脊髄が靭帯などに圧迫され、神経信号の伝搬が阻害されると手足の麻痺やしびれなどの症状となって現れます。このような症状について、従来の神経学的所見やMRIなどの形態的な画像情報だけでは、障害箇所を正確に特定することが困難な場合が多くありました。脊髄機能イメージングによって神経が正しく機能しているかどうかを直接観ることができれば、より正確な原因部位の特定が可能となります。

SQUID(超伝導量子干渉素子)

 超伝導を応用した微小な磁場を感知することのできる素子。半導体デバイス技術を応用したニオブの薄膜技術によってシリコン基板上に作製されたSQUIDチップに、ニオブの細線で作製した検出コイルを接続し、磁気センサを構成します。この磁気センサは液体ヘリウムの極低温(−269℃)中で超伝導状態に保たれ、地磁気の100億分の1程度の小さな磁場を検出することができます。


脊髄磁場計測装置の試作機


東京医科歯科大学整形外科に設置された脊髄磁場計測装置の試作機


 

脊髄磁場計測による頚部脊髄機能イメージングの例

脊髄磁場計測による頚部脊髄機能イメージングの例
脊髄傷害部位で神経信号が遅くなり、弱くなるのがわかる。