デモンストレーションゲーム
「囚人のジレンマ」

監修:下條信輔


「囚人のジレンマ」とは
世の中のたいていの人間関係は、協力と裏切りという2つの行為に集約されます。そこで、これらの行為を巡る意思決定を、“ゲーム”として抽出したらどうなるか。[囚人のジレンマ]がまさにそれなのです。2人の共犯者がいて、ふたりとも黙秘すればともに軽い刑、一方だけが裏切れば裏切った方は最も軽い刑ですむが裏切られた方は最も重い刑、両方裏切るとともにかなり重い刑、という関係が基本形。これを2人のプレーヤーによる一般的なゲームとして、定式化できます。その際、先の共犯者の場合と同じように、それぞれが協力または裏切りを選択した場合の損得を、あらかじめ明確にしておくことがポイントになります。


◆ゲームの手順◆
(1) プレーヤーA、Bにそれぞれ、〈協力〉〈裏切り〉と書かれたカード2枚と同額の持ち金が渡される(写真A)。
(2)プレーヤーA、Bに対してゲームの手順が説明され、プレーヤーAが〈協力/裏切り〉、プレーヤーBが〈協力/裏切り〉で、2×2=全4通りの場合についての報酬とペナルティ(利得マトリクス/写真B)を事前によく理解してもらう。
(3) プレーヤーはそれぞれ〈協力〉〈裏切り〉と書かれた2枚のカードから、相手に悟られないように、1枚を選択する。このとき、特に許されない限り、言葉によるコミュニケーションや談合は不可。
(4) プレーヤーは、審判の合図で同時に選択したカードを開示する(写真C)。審判は利得マトリクスに従って、報酬(ペナルティ)を分配(徴収)する。
(5) これを、特に変更されない限り10回戦繰り返す。得点は現金でやりとりし、やらせ等は一切なし、結果がプレーヤーの報酬となる。10回以内にどちらかが破産した場合には、その時点で終了。

下條 これからお見せするのは、囚人のジレンマというデモンストレーションビデオです。
タナカ 囚人のジレンマってどういう意味なんですか?
下條 ゲームの理論という数学理論がありまして、それは、意志決定、特に対戦相手がいるゲームにおける意志決定の古典的なモデルなんですが、そのゲームの理論そのものを指すこともありますし、そのゲームの中のある現実的な状況を指す言葉でもあるわけです。その状況というのは、共犯の疑いがかけられている2人の囚人です。彼らのうち1人がうまいこと裏切れば、その1人はうまうまと罪を逃れて釈放され、裏切られた囚人は罪を一人で背負い込んで、重罪に処されてしまう。2人がともにシラを切り通せば、2人とも比較的軽い罪で済む。逆に2人が互いに裏切り合ってしまうと、2人ともかなり重い罪を食らい込むことになる。つまり囚人は、壁を隔てた隣の取調室にいる相棒の出方が自分の処遇に大きく影響するというジレンマを、抱えているわけです。
そんな状況での行動を数理的に解析したのがゲームの理論です。この理論はその後、意志決定の心理学や国際関係における政策決定などなど、政治学、経済学を含めて非常によく使われるようになりました。で、ここではその簡略化したひな形を身近なゲームにしてお見せしようというわけです。
ただ、ひと言だけみなさんに言っておきたいことがあって、見方によっては現ナマが飛び交う下品なギャンブルゲームに見えるかもしれませんが、ちゃんと理由があるんです。これはタナカさんの発案なんだけど。
タナカ 出演してくれているのは、ルネッサンス ジェネレーションを手伝ってくれてるスタッフの学生だったりするんだけど、出演のためのアルバイト代は最終的には別途渡したんですけど、このゲームをやっている間は、このゲームでアルバイト代を稼いで帰ってくれ、負けたらタダ働きだよって言ってたんですよ(笑)。
下條 何でコインでやらないんだという批判があるかもしれませんが、意志決定と言うことを自分の問題として実感していただくためのデモなんです。
タナカ それと、単なるゲームではなくてこれがアルバイト代になるとなれば、プレイヤーのリアリティが違いますからね。
下條 そうですね、やはり被験者は真剣にやってもらわないといいデータはとれませんから。というわけで、あくまでも科学上の必要で500円玉を使っていますので、ご了承ください。では見てみましょう。


ケース1
ゲームは10回戦。持ち金は10000円。利益マトリクスの設定は両者同等。プレイヤーの間での相談はナシ。最適戦略は裏切りだが、両者が裏切りを出し続けると、胴元の一人勝ちになってしまう。プレイヤーが平等に一番儲かるのは、両者が裏切り 協力を交互に出し続けること。結果は、右側のプレイヤーが10回目を待たずに破産。ゲームは効果的に裏切りカードを使った左側のプレイヤーの圧勝に終わった。

ケース2
ゲームは10回戦。持ち金は10000円。利益マトリクスの設定は、左側が右側よりも1回の掛け金が小さくなっている。但し、最適戦略は一応裏切りだが、両者が裏切りを出し続けると、胴元の一人勝ちになってしまう。プレイヤーの間での相談アリ。結果は、やはり効果的に裏切りカードを使った左側のプレイヤーの圧勝。この後、左右を交代して再ゲームを行い、最終的には両者ほぼ同額のプラスで終了した。


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