1. 暗順応●ストロボ
ヒトの網膜と視覚神経系には明所視と暗所視のふたつのシステムが並存しており、暗がりに順応することによって、視覚系は前者から後者のシステムへと軸足を移していく。具体的には、前者は光感度や動き/変化の検出力で劣るが、色彩感覚に優れ、中心視野で優位である。後者はその逆で、色盲に近いが動きや変化の検出に優れる。それと同時に暗順応によって視感細胞全体の感受性が上がる。ここではまず、舞台と会場全体を極力暗くして完全暗室に近い状態とし、30秒から1分程度の暗順応時間を置いた。その間、舞台上でのダンサーの動きを見ることで、観衆が暗順応のプロセスを実感できるようにした。その上で、単発のストロボを焚くことで、持続的な運動の知覚を排除したスナップショットと、陽性(つまり色やコントラストが陰性残像のように逆転しない)3次元の網膜残像を創出した。ダンサーたちのアスレティックでアクロバティックな動きと、タイミングの良いフラッシュとが相まって、見る者の記憶に長く残る「残像」が実現された。
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